I’m dying to see you.
「……………………」
―……眠れない………
記憶の片隅に彼の笑顔が残り、今夜も眠れない。そろそろちゃんと寝ないと、目元にくまができてユウに心配される。彼のことだから顔を近付けるはず……
想像してしまった。あの時みたいに私の顔に迫ったユウの顔。
「(むり!)」
―無理無理無理!
私は一応貰えた自分の寝室のベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めて小さく叫んだ。
窓から差し込む淡い月光は、私だけの世界を作る。私は顔を枕から離し、普段は気に留めない自分の部屋を見渡した。満月ほどの明るさでは無いが、部屋は月明かりによって明るく照らされ、チリチリと埃が月光を小さく反射させて光る。
昼では質素で無愛想な私の部屋は少し幻想的だった。
―木造の家で質素なこの部屋、夜は綺麗なんだ……
私はそんな事を思いながら再びベッドに身を沈める。窓から夜空を覗けば、数え切れない程の星が広がっている。
「ひかりの……うみ…みたい……」
自然の美しさに見惚れていて、私はいつの間にか寝ていることに気が付かなかった。
瞼を開けた。
辺りは寝る前に見ていた星空が広がり、私は水面に浮かんでいた。身体を起こしたくない。ずっとこのままでいたい。ただじっと浮かんでいたい。とても気が楽になれる。
―でもさみしいなぁ……
体の向きを変え、水中を見渡す。水中にもキラキラと光る星々があった。それに、水に浸かっていた服や髪が濡れていない。不思議な感覚だと思う。
―さみしい……さみしいよぉ………ユウ……
「っ!」
不覚だ。また、彼の事を思ってしまった。また会いたい。明日も遊びたい。これからも一緒にいたい。それらと同時に、分からない気持ちが無限に湧いてくる。けれども、私の様な小さな体では、そんな気持ちに押し潰されそうになるくらい重い。だから反発しないで袋に溜めておくと、肥大していつか弾けてしまいそうになる。
こんな気持ち、知らない。何なの?この気持ち……彼の事を思うたびに今すぐにでもいいから会いたい気持ちになってしまう。そしてその気持ちが勢いよく膨らんで私の中を蠢き、掻き回し、熱し、焦がし、溶かし、締め付け、支配しようとしてくるの。
夢はまだ続く。終わりを見せずに私を閉じ込める。これは何らかしらの罰なのだろうか?こんな感覚を起きるまで感じるなんてとてもツライ。壊れそう。狂いそう。でも、タチが悪いのが、正気を失わせてくれないこと。だってこんなにもユウが欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて言葉が足りない程欲しくて、ユウが他の女の子とお話ししたり、遊んだりしているところを想像すると悔しくて羨ましくて悔しくて羨ましくて悔しくて羨ましくて悔しくて羨ましくて……………
「独り占めしたい」
―独り占めしたい!!!!
突然だけど、僕はモナクスィアと自称していた女の子が好きなんだと思う。だって、村の女の子とお話ししたり遊んだりしても平気なのに、あの子だと『楽しい』と一緒になんか『もっと一緒にいたい』と思うんだ。それに、頑張って平然を装っているけれど、彼女と一緒にいると僕はどうやら笑顔が多いらしい。ただ最近、リーアが彼女に会いに行こうとする僕を引き止めようとしてくる。あ、リーアって言う子は僕の村で一番可愛い子なんだ。僕の友達もリーアの事が好きみたい。僕はどちらかと言うとモナの方が好きだけど。
まぁそれで、僕はそのリーアって言う子に引き止められるんだけれど、やっぱり僕は彼女に会いたい。だから、森に入ろうとする僕の手を掴むリーアの手を軽くはらって、森の中に駆け込むんだ。
「おやすみ……お父さん、お母さん」
―今夜も彼女と遊ぶ夢が見れたら良いのに……
「おやすみ、ユウ」
「おやすみなさい、ユウ」
僕はベットに潜る。いつもならすぐに寝られるのだけど、今日は夜空がいつも以上に綺麗でなかなか寝付けない。
―約束の十五歳……あと七年。その時にまで先ずは生きないと。
そう思ったら余計に眠れなくなる。夜の音に耳を傾けて自然に意識が落ちるのを待つ。僕の家は森の近くだから、鈴音虫や夜鳥の鳴き声が聞こえてくる。
『………あの子はそろそろ寝た頃かしら?』
『こんな時間だしもう寝ているんじゃないかな?』
ふと、お父さんとお母さんの会話が聞こえた。何だろう、と思い、聞き耳をたてる。
『ユウがね、今日、あの子が好きな女の子を連れて来たの』
『ユウが好きな女の子って、ユウがモナって呼んでいる子か?』
どうやら彼女の話らしい。僕は余計に話が気になって、眠気が覚めてしまった。
『そうよ。でもね、その女の子って本当は名前が無いみたいでね……』
『名前が無い?それって――』
『“忌み子”って言いたいのでしょう? 違うわよ。ちゃんとメイレーって言う可愛い名前があるの。まぁ私と似てて似ていないわ』
“忌み子”とたしかにお母さんは言った。でも、僕が1番の驚いたのは、彼女が良い名前を気に入っていないと言うところだった。彼女が気に入らないからてっきり悪い意味かと思ったけれど、お母さんが言うに、良い意味らしい。
『ははっ、可愛い名前じゃないか。でもどうして気に入っていないんだろうね』
『さぁ? 分からないわよ。私達はメイレーちゃんじゃないのだから』
『確かにそうだな』
お父さんが、お酒を飲んだ音がする。
………あれ?お母さん、さっき私に似て、似ていないって言ってたよね?
『メイレーちゃんの親はどうしてそう名付けておいてメイレーちゃんを粗末に扱うのかしらねぇ……私なんか良い名前すらくれなかったのに』
―お母さんの名前って……え?
『それでも僕は今でも君の事が好きだよ。たとえ、“忌み子”と呼ばれていた存在だったとしてもね』
『あら? 嬉しいじゃない〜♡』
お母さんはそう言って、お父さんに抱きついた。と言う音が聞こえた。
―お母さんも……メイレーと同じだったんだ………
『ちょっ、あ、当たってるって』
『当てているのよ。今夜は御礼としてね・か・せ・な・い・わ・よ♡』
今夜もお父さんとお母さんは仲が良かった。さて、子供の僕はもう寝よっか。