Preface
彼女はユウと呼ばれる愛しの男性が居た。彼は平和な村で生まれ、優しい両親の下で育てられた。ユウの父は立派な猟師の一人で、ユウを含める村の少年らの憧れであった。そしてユウの母は、その父を支えることを生き甲斐とする、良き親の一人だ。
そんなユウが彼女と出会ったのは、ユウが五歳の頃、同い歳の村の少年らと森で遊んでいた時だった。
「もーいーかいっ⁉︎」
『もーいーよっ‼︎』
遊びの内容はかくれんぼだった。そしてユウはその鬼で、丁度他の子供が隠れ終わったところらしい。
ユウは森に隠れた他の子供達を探しに森に入る。子供達はそんなに奥まで森に入っていないので、すぐに見つかる。しかし、隠れるのが上手な子は、ユウが探索を終えた後に隠れていた場所を転々と変えるため、なかなか終わらない。
「××くん見つからないなぁ……」
ユウはそう呟きながら、獣道を通る。さらに言うと、かくれんぼの様な遊びは、無くしたものをなかなか見つけられないユウにとっては難しく、鬼になって仕舞えば終わるのが遅くなるのだ。ただ、それだけ遊べる時間が多い為か、他の子はユウが鬼になっても嫌な顔はせず、寧ろ内心で歓喜している。
暫く獣道の通りにユウは進んでいると、一人の少女が木に背を預けながら本を座って読んでいた。少女の肌はユウと比べ少し白く、肩まで伸びた漆黒の髪は艶は妖しく魅力的で、文章を見つめる蒼色の瞳はユウの興味を抱かせた。
幼い頃の恥ずかしい思い出は誰にでもあるもの。特にまだ、やっとちゃんとした会話ができる様になったばかりの子供は、思った事を直ぐに口にしてしまう。
「きれいな子だなぁ……」
少女に見惚れていたユウは、思っていた事が無意識に言葉にしてしまった。その言葉を聞いて、少女はハッと声の下方向に顔を向ける。少女はさっきのユウの台詞に少し頰を紅潮させていたが、ユウの顔を見て一瞬だけ固まった。
「だ、誰?」
少女は自分がユウを見て固まったことを隠すために咄嗟にユウに問いかけた。
少女に警戒されたと思ったユウはすぐに謝った。
「ご、ごめん! えっと、僕はユウ……その…君は?」
「わ、私は…メイ……ううん、モナクスィア」
少女は初め、メイレーと本名を名乗ろうとしたがモナクスィアと少女は言い直した。モナクスィアとは簡単に言うと孤独を意味する。しかし、同い年であるユウはまだ幼い為、モナクスィアの意味を知ら無い。と言うより、そもそもユウと同い年ぐらいの少女が意味を知っていて使うことがおかしい。
「よろしく、モナクスィア……は長いからモナ!」
こうして二人の運命という名の水滴は近く、並行するように底が見えない奈落に落ちていった。
「父さん! 今日、新しい友だちができたんだ!」
ユウは夕食中の会話で、今日の出来事を話すことにした。
「おおっ! 良かったな〜ユウ。で、その子はどんな子なんだ?」
「あのね! 名前が長くて忘れちゃったけどモナっていう女の子でね! それで、すっごい綺麗で可愛いんだ!」
ユウはかくれんぼで鬼をしてきた時に出会ったモナクスィアのことを話した。それはとても楽しそうに、また会えるという確信がある喜びを交えながら。
「へぇ〜、×××ちゃんより?」
「うん! それで、僕と歳が近いのに一人で文字が読めるんだ!」
ユウはさらにモナクスィアの詳細を興奮気味に親に語る。
彼女の髪が肩まであって黒いこと。瞳の色が蒼色だということ。肌が自分より少し白いこと。そして、守りたくなるほど美しいこと。
「前にお母さんが寝る時に聞かせてくれたお話の、お姫様を守る騎士になりたいって思うくらい綺麗なんだ!」
「あらあら。ロマンティックな事を言うようになったわねぇ」
ユウの母は微笑ましそうに、我が子の初恋を嬉しく聞く。一家団欒とした空気とはこの事を言うのだろう。
「そしたらユウはそのモナって言う子を守れるくらい強くならないといけないな」
ユウの父も嬉しそうに、我が子の恋を助けようと思った。
この世界には魔法が存在する。魔術が存在する。異能が存在する。まだ見つかっていない力が存在する。いつ、魔物に襲われるか分からないこの世は、各々の生活を守るための力が必要だ。
人族はその世界で生きて行くのが奇跡と言っていいほどに弱い。荒い素材で武器を作って格上の生物を集団で狩り、道具を作って食糧を採取したり、集団と集団で争い土地を奪ったりと様々な行動をしている。
そして、人族には魔力を持つものがこの頃はあまりいなかった。否、九割九分の人族全員が持っていないのだ。残りの一分はと言うと、彼らは持っている。持っているが、生涯において、自分達に魔力を持っていることを知らずに朽ちるのが大半だ。
持つものの中の残りの半分は、己に宿る魔力を知って利用している。それ故に異端として人族から忌み嫌われ、迫害を受ける。
そして、ユウが恋した少女も、その魔力を持つ事を自覚している者だった。父母は彼女を表面上では愛しながらも、早く死なないかと疎ましく思うほど嫌っていた。それ故に、メイレーは愛を知らない。しかし、彼女はユウを一目見た時から気になり、顔も記憶の片隅にチラホラと映っていた。
そう、彼女もユウに一目惚れしたのだ。だが、彼女は自分がユウの事を好んでいるとは当時考えられなかった。
家に帰るまで、彼女の頭の中はユウでいっぱいだった。ただ、彼女はそれが執着だと思い、自分の居場所ではない居場所へ帰った。




