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I was hoping so ... ...

 突然の痛みにメイレーは飛び起きる。痛みの発生源は、短剣が刺さった脇腹。しかし、そこには包帯で巻かれ、きちんとした処置を行われた後だった。


「メイレー……ちゃん? ――ッ! やっと起きたのね!」


 小声で顔見知りの女が、水の入った桶を運びながらメイレーに近づく。場所はおそらくユウの村の中にある教会。


「私は……」


「メイレーちゃん、今から私が現状を話すからまず落ち着いて聞いて」


 メイレーの意識がハッキリとし始める。


 ――そうだ、この女は薬師……狩人と戦士は?


「まず、盗賊の少年くんは貴女が殺した。それと同時にユウ君が首謀者と思われる金髪の女の子を殺した。それでユウがメイレーちゃんを此処の近くまで蹴り飛ばしたの。蹴られた記憶までは……ある?」


「……はい」


 メイレーは一個一個の出来事を思い出しながら頷く。


「それで狩人と戦士の事なのだけれど、あの金髪の女の子が死んだ時、まだ生きていた村人は全員糸が切れた人形みたいに倒れて死んだわ。けれど、操られていた狩人と戦士は生きてた。これは予想だけど、多分操られる時間が長ければ長いほどに死に近くなるんだと思うの」


「そう…ですか……」


 メイレーの蹴られた腹部に徐々に痛みが戻ってくる。いや、正確に言えば、向けられていなかった意識が蹴られたことを聞いた後に、徐々に痛みに意識が向いただけだ。

 腹部を抑えながら、メイレーは起こした体を休ませるべく、少し後ろに下がって壁に背を預けた。


「まだ無理はダメよ?」


「分かって……ます。でも……!」


 自分の手を強く握る。爪が掌に刺さって少し血が流れ出すが、メイレーはそれでも強く握る。

 彼女が今持つ感情……負の感情らの湧く勢いが増す。大切な恋人を狂わせたリーアを憎悪し、彼女に加担した村人達に殺意を、自分と彼の恋路を邪魔した世界に怒りを。


「め、メイレーちゃん……」


 薬師の女は彼女を心配そうな眼差しでただ見守る。自分が彼女に何かしてあげられるような事なんて無い事は初めから分かっていた。しかし、理解されなくても伝えなくてはならないことがある。


「メイレーちゃん……そのままでいいから、お姉さんのお話に耳だけは傾けてくれる?」


 自分の声が届いているかわからないが、これだけは言っておかねばならないと、“自分が死んだ時に心残りで死に切れない。”そう思ったのだろう。だから薬師の女は冷静に彼女に言葉を送る。


「お姉さんはね、貴女みたいな子を知っているわ。その子はね、親の愛を知らずに生きたの。親はちゃんとその子に愛を持って育てた。でもね、その子は歳を重ねるにつれて愛を欲するようになったの。自分は親に愛されていない。自分のどこかが悪いから愛されない。だから両親は私に優しくしてくれない。そう思っていたらしいの。でもね、その子の親は決してそんな風にその子を扱ってはいないの。ちゃんと頭を撫でて褒めて、その子が悪いことをしたら優しく叱って、その子の良いところを伸ばそうとした。でも、その全てはその子には全く伝わらなかった。ある時、その子はある人に恋をして恋仲となったわ。でも、その仲は長く続かなかった。その子は恋人と別れた後、暫くして新しい恋人を作った。でも、結果は同じ。その繰り返しが長く続いた。そこでね、私は今までその子と恋人となった人たちに聞いて回ったの。その人たちはみーんな口を揃えて『恋人の愛が重かった。恋人が多量を愛を求めて来て体が持たなかった』って言ったわ……つまり私が…お姉さんが言いたい事はね、貴女はちゃんと愛されている。ユウくんからも、貴女の両親からも。だから……あまり強く求めてはダメよ?」


 メイレーは無言のまま薬師の女の方を見る。そして涙を流して言った。


「世界が私を愛してくれない……でも、私はそれで良い。本当は恋をしたく無かった。こんな見た目だから誰にも愛されないの。でも、彼は……ユウは私を綺麗って言ったの。好きだって、愛してるって言った! ちゃんと言葉にして私に伝えてくれたの! お父さんもお母さんも私を愛してるなんて一言も言わなかった! だからユウを……ううん、こんなの理由にはならない。でも、私は彼を愛してるの! それが間違ってるって言うの?」


「メイレーちゃん……ううん、そうじゃないの。私が言いたい事はね……――ッ! もう……来て……カハッ」


 突然、薬師の女の胸元から剣が飛び出してくる。薬師の女は口から血を吐くと、女から剣が抜かれた。そしてメイレーはその剣に見覚えがあった。


「……え?」


 それでも、突如起きた出来事に脳の理解が追いつかなかった。

 目を大きく見開かせて固まるメイレーの前には男が一人。軍服の様なデザインの衣装、月光を浴びる茶髪、色っぽい泣き黒子。返り血を浴びても彼は彼のままだった。優しい雰囲気を漂わせる勇者だが、メイレーは驚いている。


「おまたせ、メイレー……邪魔な人たち皆んな殺して来たよ。それとさっきはいきなり蹴ってごめんね」


「あ、ああ、あ……」


 恐怖に声が出ない。メイレーの瞳に映っているのは確かに愛する人だ。しかし、それがマヤカシの様に見える。


「そんな怯えた顔をしてどうしたんだい? もう、可愛いな〜メイレーは。さ、僕たちだけの式を挙げに行こう」


 メイレーの恐怖が怒りと憎しみと殺意へと変わる。いや、そんな可愛いらしいものだけではない。失望、軽蔑、嫌悪、怨み、恨、絶望……ありとあらゆる負の感情が湧いて来た。理由は知らない。けれどそれが向けた先が、自身が心より愛する者の姿をした何者へ送っていることだけは分かった。


「だ、誰……」


「誰? おかしな事を聞くね、メイレーは。僕は僕、ユウだよ?」


「そんな事は見なくても分かる。でも……貴方が私の知る貴方では無いみたいで……」


 その言葉に、ユウの姿をした何者かの眉毛がピクリと動いた。そして、顔につけていた笑顔を崩すと、無言でメイレーに斬りかかる。

 メイレーはその攻撃を躱すが、蹴られた腹部と、刺された脇腹の痛みで避けた先で体勢を崩す。


「ヒュー……ヒュー……メイ…レー……ちゃ…………ん」


 まだ息をしていた薬師の女が、虫の息で腕を伸ばす。しかしその先には誰もいない。剣によって貫かれた胸元から息が漏れる。それは、偶然気管支が剣によって貫かれたしまった事が原因だった。いくら呼吸を使用が、ほんの僅かな量しか酸素を摂取できない。そのうち、うつ伏せる様に倒れた女は動かなくなった。


 ――ああ……死んだのね……でも、どうしてこんなに虚しい感じがするの? 私は……ユウにしか興味がないはずなのに……


「……死んだか」


 ユウの姿をした何かが言った。それをメイレーは聞き逃さなかった。


「今……“死んだか”って言った?」


「え? そうだけど……それがどうしたの?」


 普段の彼ならそんな事は言わない。ずっと旅を続けて彼を見て来た。彼はそう簡単に仲間に冷たい言葉を言わない。たとえドラゴンに襲われたとしても、仲間を先に逃すのが彼がよくやっていた事だ。それなのに、今目の前にいる男は簡単に仲間だった人を殺した。


「私の知る貴方じゃない……あの人の姿であの人を…………私の愛する人を汚すな!!!!」


 ありとあらゆる負の感情が限界値まで達した。白かった髪は再び漆黒色に染まり、赤々とした瞳は狂気と愛情が混ざる毒々しい紫へと色を変える。血の循環が速い。脇腹から血が少量流れ始める。

 月光を背から浴びる黒い化け物。その容貌は、愚かしくも美しい。その光景を、月の影から隠者は眺めて笑う。

 ゆっくり、化け物はかつて愛した男の姿をした何かに歩み寄った。優しく、包み込む様に。男は動かない。恐怖と崇拝に近い何かを抱き動けない。体は勝手に跪き、こうべを垂らす。


「私って、薄情者ね。ただ、貴方が壊れてしまっただけなのにこんなにも貴方を恨めしく思うの……ねえ、私達……どこで間違えたのでしょうね……」


 化け物はかつて愛して者の首を刎ねた。そして、そっと教会を出て始点へ向かう。脇腹の傷が開き、まだ温かい血液が滲み出る。大切な人の首をそっと抱き抱えながら。

 森は主人の帰還に喝采を送る様に、静かに道を作る。傷だらけの彼女の足に優しい道を作り、彼女が迷わぬ様に彼女の目的地へ一直線に樹々が避け、二人を歓迎する様に黒百合を一面に咲き誇らせる。

 化け物の身体はもう、限界に達していた。人が持つ負の感情が身を蝕んでいたのが原因。それを力に変換するとなれば、その過程で沢山の臓器を壊す事になる。たとえ、使い時間が十秒間だけでも、負の感情は絶死の呪毒になり得る。

 静寂な喝采は鳴り止まない。夜鳥らが木々に留まり、二人を見守る。彼らだけでは無い。森に行きる全ての生き物が、二人を見守る。痛みに耐えながら、優しく抱き抱える彼の首に化け物は話しかける。けれど、その声に応えてはくれない。

 始点に辿り着く恋人達。一人は化け物となり身体が壊れかけた。もう一人は首だけとなって、化け物の懐に眠っている。


「やっと…辿り着たね……ユウ」


 メイレーは一旦、汚れた衣服を綺麗にする。そして、黒百合の茎を踏み折らない様に、ゆっくり掻き分けながら進む。そして、大きな黒百合が沢山咲く大樹に背中を預けるようにメイレーは座った。

 大樹は二人の物語の始点。その大樹の名は〈黒百合の神木ブラックリリー・シェンム〉。現世と常世を繋ぐ呪われた迷宮(ダンジョン)、〈終末ノ森〉の核。

 メイレーは、しばらく愛する人の髪を撫でる。首の切断面を外だわに向けて、膝枕をしてあげる。もう、彼の首には温もりは無い。


「だから……待ってて………私が貴方の元へ行くまで………」


 彼女はもう限界だった。開いた傷口から血を流し過ぎたのだ。だが、もう止血しても治癒の魔法を施しても意味は無い。増幅させた力の代償に、毒々しい人間の負の感情が呪いとなって骨子まで染み渡り、肉を穢し、精神を蝕んだ。その結果、残された道は終点に向かう獣道。それでも彼女は道を間違えてはいない。彼女はただ、運が無かっただけだった。

 霞む視界。

 動かしにくくなる筋肉。

 最期に愛する彼の首を優しく抱え、魔女は過去を思い出しながら力尽きた。

 地面に触れていた漆黒色の髪の毛が、毛先からゆっくりと白色へと色を変えていく。しかし、変化はその半ばで止まった。

 満月が大樹を照らす。月光から映し出される幽幻蝶が、恋人達の周りで踊る。悲しき末路に天使は現れるが、天使は魔女を愛さない。魔女によって汚された人間も、同じく愛さない。恋人達の魂は天には迎えられず、ただこの世を彷徨うものとなった。

 優しく風が吹く。いつのまにか恋人達に留まっていた二頭の幽幻蝶は、風に吹かれて共に明けぬ夜空へと羽ばたいた。

最後まで読んでいただき、有難うございました!( ;∀;)

本作品はこれにて終了です。

執筆時は、長くも短いひと時でした( ̄▽ ̄;)

実はこの作品、私が四月頃に見た夢のワンシーンから発展させたものなのです♪

夢の視点は本作の主人公メイレーの原型で、黒くて長い髪の視界内に、生首に膝枕をしてあげているという内容でした。その際、実際に触れて重さや熱を感じて、起きた時は驚きましたねw

メインで連載している異世界転生ものの小説とは違って、恋愛が主題というこの作品は、比較的書き易かったです。ただ、息抜きとして書いてみたは良いものの、「これはもう、メインと並行して書いて良いのでは?」と連載中に思ってしまいましたw

結果としては、メインの執筆をすっぽかしてこうして完結させたのですが……(;´Д`A

反省はしていません(`・ω・´)g

ただ反省すべき点は、タグにヤンデレと入れておいて、本作の主人公のメイレーにヤンデレ要素が少なかったことですね!( ;∀;)<もう泣きたい!

私、柾雅は大のヤンデレ好きなのに書けなかったこの悲しさ。次作品やメインでたくさん出してやらァ!o(`ω´ )o

最後に、長々と話してしまい申し訳無いです( ̄▽ ̄;)

これでこの物語は本当に終了となります。もし、世界観説明があると助かると思いましたら、是非言ってください!


ヤンデレの愛は不滅なり〜!

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