01
乾いた風を頬に感じて目を覚ます。
ここは路地裏だろうか、室外機のノイズが耳を擽り少しうっとおしく感じる。
辺りを見回せば陽は落ちていて街灯と窓から溢れる光が狭い路地裏を仄かに照らし出し、空には月の代わりに巨大な目玉がこちらを睨んでいる。
私はなぜ此処に居るのだろうか、そもそも私は誰だろうか、疑問が尽きないがここに居ても変わらない事は確かだろう。
路地裏を歩み出す、コツン、コツン、と靴底から奏でるメロディーを楽しみながら。
ぐちゃり、前方から何かが潰れたような音がする、目を凝らして薄暗い前方を見てみてば人型のものが潰れている。
人型のものが潰れているのを目の当たりにしているがなんの感情も出てこない、私は異常者なのだろうか?横目で確認だけはしたがそのまま通り過ぎる。
通り過ぎようとして全方位からぐちゃり、ぐちゃりと人型が落ちてくる、あたりを見回せば潰れた人型のみが埋め尽くしている。
おぎゃあ、おぎゃあと前方の人型の中に泣き叫ぶ赤子を見つけた、何故ここに赤子がと思ったが今更不思議な事が起こってもなんらおかしくはないと思えてくる。
赤子を泣き止ませなければいけない、人形を乗り越え私は赤子を抱いた、体温が伝わり腕の中が暖かくなる。
ふと気づけば辺りに潰れていた人型は全部起立しており顔だけがこちらを覗き込んでいる、生気の感じられないというより顔が無い事が妙に気持ち悪い。
再度歩きだそうとして腕の中の体温が消え失せていることに気づき私は手のひらに鍵を握っていた、どこの鍵なのだろうかと考える、考えたところで何もわかるわけがないが。
視線を手元から前に戻すと大きな扉がそびえ立っている。
扉には無数の目蓋がついており不気味さが視覚を訴える。
無意識に私は手に持っていた鍵を扉に差し込んだ、閉じていた目蓋達が一斉に瞳をこちらに、ギョロリ、と向けるが一向に気にせず鍵を回す、瞳達は潰れ黒い液体を撒き散らした。
開け放った扉の先は駅であった、無機質なアナウンスが構内に響き渡る。