可愛い彼女と明日咲野
真っ白いヘッドホンを付けている人がそこにいた。
髪は短めで細く少しウェーブがかかった黒髪で、横から見ただけでも顔が整っていることが分かる。鼻は細く高くとまっていて、小さい顔には桜の花びらような小さい唇が乗っている。
ヘッドホンからは音楽から流れているのだろうか。唇が微かに動き、細すぎず太すぎない両足はタンタンと踵でリズミカルに動いている。
性別はおそらく女性であろう。
彼女の美しさと彼が急にいなくなった驚きで思わず二度見してしまう。
椅子から立ち上って彼を探す。
有名なドラマの感想を語り合い、やれあの男優がカッコイイだの、やれあの女優がカワイイと大きな声を出して話しているグループや一人の男子に群がっている女性陣。隅っこで何か秘密事を話している連中の中に彼の姿はどこにもなかった。
(まだどこかにいるはずだ。)
そう思って、もう一回教室を見渡す。すると、
「なに?どうしたの?」
声がした方を向くと、ヘッドホンを付けている彼女がこちらを向いていた。
真正面から見た彼女はやはり美しかった。
さっき見て分からなかった目元も正面から見ればよく分かる。パッチリとしている二重でその目をずっと見ていると引き込まれそうになる。
「なんでもないよ」
そう言いつつ椅子に座る。
ここで本当のことを言っても良かったが、そう言って彼女は信じるのだろうか。いや、信じないだろう。すぐに消滅した人の事なんて。
「本当に?」
彼女は念を押すように聞いてくる。
確かにいきなり不審な行動をして、理由を聞いたら「何でもない」と答えられれば気になってしまう事だろう。だが、こんな時の対処法は知っている。
「なんでもない」
もう一回同じように答えればいいのだ。
そうすれば、ほとんどの人は諦めてくれる。しかし、
「本当に?何もないの?」
彼女は例外だった。
何度も聞いてくる様子に俺はもう心が折れていた。
「人を探していたんだ」
だいぶ内容を省略して話す。
すると、彼女は「なんだぁ」と少し残念そうな顔でヘッドホンを付け直す。
なんだこいつ。
第一印象は良かったが、さっきの会話の内容で全て台無しになった。
「彼女。ルックスは最高なんですけど、興味がないことにはとことん興味ないみたいですよ」
気が付くと、人が目の前に立っていた。
声から考えるに女性だろう。背は椅子に座っている俺より少し高いくらいで、髪の毛はいわゆるショートというものであろう。二重でパッチリと開いている目は俺を見ている。気になるところは入学初日にも関わらず改造しまくっている制服だ。学生の位を示すリボンは蝶々結びに、机に隠れているが彼女が少し体を揺らすたびに聞こえる金属音でアクセサリーも豊富にスカートに着けているのだろう。
「君は誰だい?」
初日から二人の女性に話しかけられて上機嫌な俺は彼女に話しかけた。
「どうも。隣のクラスからやって参りました。
明日 咲野と申します。以後お見知りおきを」