僕には世界はこう映る
主人公の席に勝手に座っている謎の少年。そして、彼から投げかけられた質問の内容とは・・・
教室の窓から見る桜は心を打つほど綺麗だった。しかし、それはどこか儚げだ。
桜の木の下には死体が埋まっている。その死体が桜を美しくさせているだったっけ?
昔読んだ小説の一部を思い出した。
少しでも春の風を感じようと窓を少し開け、涼しいとも暖かいとも感じられる風を顔全体に受ける。
遠くから聞こえてくる小鳥のちゅんちゅんという鳴き声を聞き、窓の近くまで伸びてしまった桜の枝から舞い落ちる花びらを一つ手に取―
ガラガラガラ、ピシャ―
ろうとしたら無慈悲にもクラスメイトに窓を閉められてしまう。
せっかく春を楽しんでいたのにという視線でクラスメイトを追っていると、僕の机の数メートル前で立ち尽くしている人を発見した。しかも、驚くことにその人は僕を見ていたのだ。
僕は暴れだした動悸を宥めるように小さく深呼吸をした。そして、僕は彼に笑顔で問いかけた。
「君は―誰だい?」
俺の机に勝手に座っている人は笑顔でそう言ってきた。
突然の事で動揺していると、その人は笑顔を絶やさずに「大丈夫かい?」と追加で聞いてきた。
大丈夫なわけないだろう。入学初日で自分の席に勝手に座って、挙句の果てに自分は悪くないかと言わんばかりの笑顔でそう聞かれたら誰でも動揺してしまう。これはイジメなのかな??
「あぁ、すまないね。決して君の気分を害するつもりじゃなかったんだ。信じてくれ。」
そう言って彼は隣の机に移動する。
とりあえず空いた席に座り、彼の方を見る。一応話しかけられた手前、無視するわけにはいかない。
「・・・・・・・・。」
そうは言ったが、なんと声を掛けていいのか分からない。「おはよう。」か?それを言うなら彼を見た時に言うべきだろう。「お前は、誰だ。」か?なんか上から目線で初対面の人に言う言葉だろうか。
「語る言葉に迷う必要もない。ただ思う言葉を口にすればいい。」
しばらくの沈黙が俺らの間を支配した。そして、彼は口を開いた。
「君は、この世界が好きかな?
「少なくとも僕はこの世界が非常に好きじゃない。好ましくない。嫌いだ。憎い。ダルイ。めんどくさい。どうでもいい。関わりたくない。気持ち悪い。吐き気がする。
「君がそんな渋い顔をするのもなんとなく分かる。だが、どうか僕の独り言に耳を傾けてくれないかな。
「僕がこんなくだらない世界を嫌う理由は単純だ。この世界は全てにおいて平等じゃない。
「生まれつき。育ち方。顔つき。身体つき。話し方。好きなもの。嫌いなもの。好意を覚えるもの。嫌悪感を覚えるもの。いろいろあるだろう。軽く例を挙げてみてもきりがない。
「そして、ある時、僕はそんな世界が凄く嫌になってきた。
「生きてるのが嫌い。息を吸ってるのが嫌い。四肢を動かすのが嫌い。自分以外の人と会話するのが嫌い。他人同士の他愛無い会話を聞いているのが嫌い。
「ん。じゃあ、なんで生きているのかって?この世界が嫌いならさっさと死んでしまった方が楽になると。
「なんとも君は残酷だねぇ。けど、その考え方は嫌いじゃない。
「臭いものには蓋を。嫌いなものにはとことん逃げたらいい。それを決して悪いとは言わない。それが正しいことだとは思わない。
「だけど、僕は逃げたりしない。例え世界に殺されようとしても僕は自分が殺されるのを受け入れよう。この身体に死というナイフが刺さるのを見届けよう。
「例え世界中の人々が僕を殺すような勢いで罵倒したり、恨まれたりしても僕は生きるだろう。
「だが、この考え方はよくないと思う。
「僕という固定観念から生まれたこの思想は正しいとも言えないし、正しくないとも言える。
「最初の質問は、僕のこの考え方があっているかどうかの確認だったんだよ。
幼い子供に語り掛けるようにして、彼は俺に話す。世界が嫌いと言っていたのが嘘のような笑顔を浮かべて。
俺は彼の質問に答えることはできなかった。正確に言うならばその質問には答えたくなかった。
答えてしまったら自分の世界は発した言葉の通りになってしまう。
この世界がつまんないと思うなら、つまんなくなり。
この世界が面白いと思うなら、面白くなり。
この世界が滅んでしまえばいいと思うなら、滅んでしまうような気がしてしまった。
黙っていてはいけないと思い、彼が座っている椅子の方を向いたら、彼はもう居なかった。
代わりにいたのは、白のヘッドホンを付けている綺麗な人だった。
だいぶ遅れまして、すいませんでした。
次からは早めにしたいと思います