好きなもの。
しばらく彼女について歩いていると、川沿いにいくつかの屋台が見ええてきた。
お祭りに来た時のような香りが周囲を包み込み、昼間だからかとても不思議な気分だ。
「ここね、来るときに見つけたんだ。」
そういうと彼女はあたりを見回して、目を輝かせる。
ふいに、近くから甘い匂いがした。
生地が焼けたような香ばしい匂いがする方につられて立ち竦んでしまった。
彼女がそれに気づいてか、食べたいのと聞いてくる。
慌てて首を振ると彼女が顔をしかめた。
「食べたいから見てたんでしょ?
恥ずかしがることでもないじゃん。」
彼女が言っていることは間違ってはいない。僕は相当の甘党だ。
しかし、昔そのことでからかわれた経験があり、ずっと隠してきたのだ。
かわいらしい見た目の男が甘党というのならば、世の女性はそれをすんなり受け入れるだろう。
それに反して僕の見た目はよく冷たい印象を持たれる。
表情の出にくい顔に、つり目で奥二重の小さくも大きくもない目、骨ばった鼻筋、薄い唇、
男には似合わない白い肌に無駄にでかい身体。
可愛さの欠片もない。
別にそれを求めているわけではなかったが、
甘いものだけはやめられないこの体質に見合うものが欲しかった。
「黙ってるってことは図星なんだね。じゃあ買いにいこう。」
目の前にあるクレープの屋台に向かって彼女が歩を進める。
甘いものの誘惑に負け、それとなしについていったが、内心はバクバクだった。
男が甘いものを進んで食べたいだなんて、女子じゃあるまいし引いて当然だろう。
「何にする?」
「…じゃあ、これで。」
指さしたのは、イチゴチョコクリームだった。
イチゴもチョコも僕の大好物だ。
彼女はフフッと笑うと、自分の注文を済まし代金を取り出そうとする。
ハッとして慌てて僕が出すよ、と言い財布から千円札を取り出す。
支払いを終えて、クレープを受け取った時にチョコレートのほのかな香りが鼻孔をくすぐり、食欲が増した。
「私の分まで出してくれなくてもよかったのに。でもありがとう。」
「別に。」
そう返事をしてクレープを頬張る。
口内がとろける様な感覚に顔が緩んでしまった。
「可愛い。」
ふと、彼女の方を向く。口元に手を当てて笑っていた。
「馬鹿にするなよ。仕方ないだろ、甘いものが好きなのは生理現象なんだ。
そうやって笑われるからずっと隠してきたのに。」
「ちがうよ。おいしそうに食べてて、凄く嬉しそうだったから可愛いなって、思わず笑っちゃたの。
ほら、いつもクールなイメージだったから。」
そう言い張る彼女に目を見張った。
可愛い?僕が?見当違いにも程がある。
可愛いのはクレープを小さな口で頬張っている彼女のほうだと、言いたかった。