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ずっと、朱だった。  作者: 空。
4/6

たぶん通常。





着いたのは駅の近くの大きなショッピングモールだった。


着くとすぐに、彼女は近くに案内所を見つけて望遠鏡の売り場を聞いていた。



「八階にあるらしいよ!」



周りの目も気にせず、ドア付近で待っていたこちらに向かって大きく手をぶんぶんとさしている。



ちらちらとおばさま方がこちらを向いてクスクス笑っているのが視界に入ると、


恥ずかしさに耐えられずそそくさと彼女のほうに向かった。



「わかったから、大きな声を出すなよ。」



そういうと、彼女はやっと周りの視線に気が付いたのか、ごめんね、と謝ると少し俯いた。



八階に着くまでは、とてつもなく長かった。


彼女は大きなテレビを見つけると、


わざわざエスカレーターを降りてすごいすごいと言いながらまじまじと眺めたり、



着ぐるみを被った人がおもちゃコーナーで風船を配っているのが見えると、


欲しい、と呟いてはもらいに行ったりしていた。



まるで子供じゃないか。僕が風船をもらって喜んでいた年頃は、おそらく小学校低学年だった気がする。



「やっと着いた。」



嫌味たらしく言うと、それが伝わったのか彼女の顔が風船のように膨らむ。



「でも、なんやかんや言ってちゃんと着いてきてくれたよね。」



そういう優しい所好きだなあ、なんてぼそりと呟いた彼女の声が聞こえて鼓動が早くなる。


聞こえていないふりをして、望遠鏡に目を向けた。



言われなれてないことを言われるとこんなに緊張するとは知らなかった。



自分のことを優しいとは思ったことはないが、


彼女に言われるとなんだか心が湧き上がるような気持ちになる。



しばらく浮ついていたが、正気を取り戻して望遠鏡を見ていると、


あることに気づく。



「これ、バイトしなくても足りるんじゃないのか?」



そこに示されていた値段は、数千円という少し奮発すれば手に届く値段が示されていた。



「これとかでいいんじゃない?こういうのでも数年はもつだろうし。」



ある程度安い値段のものを示すと、彼女は顔をしかめる。



「いくら使うのが一度きりだからって、安いものよりは、高いほうがいいに決まってるよ。


それに私ね、望遠鏡がどうこうというよりはバイトとかがしたかったの。

青春ぽいことがしたかったの。」



そう本音を漏らすと彼女の目が二十万円の望遠鏡に目が留まる。



「もしかしてこれがほしいのか?」



戸惑いつつ尋ねると、大きくうん、とうなずく彼女。


そのはっきりとした返事に目を丸くする。



正気なんだろうか。



たかが年に数回使うか使わないかのものに、


そこまでお金を使おうとする心理が僕にはわからなかった。



「バイトなんかするより、望遠鏡を安いので諦めて、こうやってぶらぶらするほうが楽しいだろ。」



すると俯いていた彼女の顔がばっと上がった。



「それって私のこと放課後デートにでも誘ってるの?」



少し頬を赤らめていう彼女に、慌てて言い返した。



「違うにきまってるだろ。バイトなんて学校で禁止されてるんだし、見つかったらどうするんだよ。


それにしんどいことを自ら進んでするなんて、自殺行為も同然だよ。」



早口で言い切った。これで彼女もバカな妄想はしなくなっただろうか。



「なあんだ、残念。」



少しも残念そうに言わない彼女に何か言い返したかったが、


言い返す言葉も見つからず何も言わないでおいた。



「とりあえず今日は意見が割れたということで、後日また相談しよっか。


君が私をデートに誘ってるって認めるのなら、安いのを買うということでもいいんだけどなあ。」



からかうような物言いに対抗するように、一段と低い声で言葉を発した。



「認められるわけないだろ。」



「ならしかたない。とりあえずもうすぐお昼なんだから、ご飯でも食べに行こうよ。」



すかさず話を変えた彼女の提案に頷くと、今度の彼女は余計なものに目もくれず外に出た。



「中にも食べるところあるだろ。なんで外に出たんだよ。」


「内緒。」



人差し指を口の前に当てて、挑発するような視線を送ってくる。


その視線は妙に魅惑的で呑み込まれてしまいそうな感覚に陥った。



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