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ずっと、朱だった。  作者: 空。
2/6

彼女の提案。



「ちょっと、起きて」


頬を突っぱねられる感覚に目を覚ました。



「痛い、引っ張るなよ」



「そんなこと言ったってそろそろ部活終わる時間だし、


先生だって中庭のほうに出てくるよ。」



見つかったら終わりなんだからね、

と彼女は釘を刺すと僕の頬を抓っていた手をそっと放した。


のそりと起き上がるとフェンスを乗り越えて屋上の隅にある物置部屋に似た空間に足を踏み入れる。



そこは、彼女が屋上に通い始めてから見つけて少しずつ改良した部屋だった。



改良といっても、狭い空間の掃除をして家から持ってきたであろう毛布にライト、


数個のお菓子に本や漫画を投げ入れただけだった。



それでも秘密基地のような空間に胸が高鳴っていたのは確かだ。



ギィ、と嫌な音のなる扉を閉めると毛布の上に腰を下ろした。



「なんかね、ここの卒業生の先輩に聞いたんだけど、


この部屋昔天文部員が使ってたらしいよ。


なんで廃部になっちゃったんだろうね。あったら絶対入るのに。」



わくわくしたような表情で語る彼女に幼さが見え隠れしていた。



「しかもさ、流星群の日にはここで寝泊まりして一晩中星を見ていたらしいよ。」



「それはいいかも。」



同意を示す返事をすると、彼女は顔をぐっと引き寄せて僕のほうをじっとみた。



「なに。」


「今年の流星群は、ここで寝泊まりしない?」



急な彼女の提案に耳を疑った。本気で言ってるのだろうか。


知り合ってまだ間もないうえに、仮にも男と女だ。



何もないのはわかっているが、それでもおかしくはないだろうか。


きらきらとした彼女の瞳には、そんなことなど頭にもないのだろう。



「あと四か月も先の話だよ。」



そう、肯定も否定もしない返事をしておいた。


すると彼女はぷぅと頬を膨らませて、



「あと四か月しかない、の間違いでしょ。


いつも八時にここを出てるんだし、そう変わらないじゃん。」



そういってそっぽを向いた。


いや、変わるだろうというツッコミはあえてしないでおこう。



不機嫌になると面倒くさいので、わかったよ、と軽く返事をしておいた。


そのうち忘れてるに違いないだろう、という思いを込めて。



すると隣で跳ね上がる彼女が僕のところに寄って来る。


ぎゅっと手を握るので何ごとかと思ったら、予定を立てよう、と彼女の鞄のほうに連れて行かされた。



「私しばらくこれを楽しみに毎日過ごすよ。」



そういってなにやらメモを取り出した。


この様子だと実行されそうだな、と軽くため息をつく。



「望遠鏡っていくらぐらいするのかなあ。数万円くらいな気がする。


ならそれは、そっちが用意してね。」



なんて軽い口調で言い放った彼女に耳を疑う。



「いやなんで俺なんだよ。そんなの用意できねえし。


割り勘で買うのは?」



そう提案すると彼女はぶんぶんと首を振る。



「私そんなにお金持ってない。」



そう言って俯いた。


それは自分もそうだったが、あまりに落胆するので何か別の方法を探る。



「中古とかはどうだろう。


ていうか望遠鏡の値段も知らないし、そもそも流星群を見るのに望遠鏡っているのか?」



そこまで言うと彼女はダン、と音を立てて立ち上がった。



「バイトしよう!日曜日空いてる?空いてるよね!バイト探そう。ついでに望遠鏡の値段もみようよ。」



彼女は間をあけずに言い放った。



思わずポカンと口を開けてしまう。


こいつは人の話を聞けないのだろうか。



そう心の中で悪態をつきつつも、


彼女の気迫に圧倒され、うん、と返事をしてしまっていた。



「やったあ!なら、日曜日は駅前に10時ね。忘れちゃだめだよ。」



あっという間になされた約束に実感を持てないでいると、そろそろ帰ろっか、と促される。



警備員に見つからないように裏門から出て、


彼女を送り自分の家に着くと、それまでずっと上の空だったことに気が付く。



心の内が不思議な感情で揺れていた。




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