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 気が付くと、部屋の中が薄暗くなっていた。

 ……ええと、何をしていたんだっけ?


 記憶をたどると、外出から帰ってきた後、夕飯の準備を終えた辺りで記憶が途切れている。

 どうやら、いつの間にか眠っていたようだ

 

 横になっていたソファから体を起こすと、目じりから涙が流れた。

 ……そういえば、懐かしい夢を見た気がする。

 自己嫌悪で辛くなるから昔のことなんてあまり思い出したくないのだけど。

 

「……ふう」


 軽く、ため息をつく。

 ……少し、頭がさめた。アルコールが抜けてきたのを感じる。

 

 床を見ると昼と変わらず、何本もの酒瓶が転がっていた。

 我ながら、よく飲んだものだ。

 間違いなく、これほどの量を飲んだのは初めてだ。無茶をしたものだと思う。

 

「……でも、これなら私が酒を大量に飲んだことは一目でわかる」


 そう、これなら私が酒に酔っていることがあいつにも一目でわかる。


 だから、これから何をしても、酒に酔った私のいたずらだ、と見ることが出来る。

 あいつが女遊びをしているか確かめる、なんて言って、誘惑しても、酔っ払いの戯言だと、後から言い訳することができる。



 だから…………だから、もし、万が一、その、誘惑して、断られても、

 ……きっと、明日からもこれまでと同じでいられるのだ。



 

 その時だった。

 玄関から扉の開く音がした。


「ただいまーって、酒くさっ」


 玄関からあいつの声が聞こえてくる。


 しまった、考え事をしている場合じゃなかった。まだ心の準備ができてない。


「お、おかえり」


 何とか声を出して挨拶を返す。

 あいつはそんな私と部屋の中の惨状を見て目を白黒させていた。


「ど、どうしたんだ、そんな……」

「えっと、その」


 えっと、どうするんだっけ、そう、誘惑するんだ。

 

 言え、酔っ払っている振りをして誘惑するんだ。

 いや、言葉に出さなくてもいい、スカートをめくるだけでもいいから何か行動を……。


 突然本番になって混乱したが、これまでに何度も何度もシミュレーションしてきたのだ。何をすればいいのかはわかっている。

 

 覚悟を決め、誘惑するための言葉を口にしようとして、口を開いた。


 ……その時、ふと、一つの想像が頭をよぎった。

 そんなことを言われたことは今までに一度も無い。

 でもそうなるんじゃないかと、ずっと怯えていた想像だ。


 ……きもちわるいと、顔をしかめるあいつが頭をよぎった。

 

 ゆだっていた頭が一気にさめた。開きかけていた口が自然と閉じられる。


「……な、なんでもない。ちょ、ちょっとその色々あって、ごめんなさいすぐに夕飯の準備をするから」

「え、おい、大丈夫なのか?」

「大丈夫!」


 気がつけば私は適当に言葉を濁して、その場から逃げ出していた。



 ……それから、私は何事も無かったかのように振舞った。

 床に転がる酒瓶を拾い、困惑するあいつに酒を飲んでしまったことを謝った。

 そして夕飯の支度をして、一緒に食べた。

 食事中、あいつはしきりに私のことを心配していたけれど言葉を濁してやり過ごした。

 食事が終わってからは片づけをして、部屋に戻った。


 部屋に入り、ベッドの前にたどり着いたところで足から力が抜けた。

 私を受け止めたベッドが大きな音を立てる。

 


 ……これまでまでに何度も思ったことがある。


 なぜ、こんなことになったのか、と。


 大学で友達が出来ず、孤立した。

 不登校になって、家に引きこもった。

 この世界に来てからも、仲間が出来なかった。

 そして、ダンジョンに潜れなくて借金を返せなくなった。


 私は何で、そんなことになってしまったのか。 


 ……それは、簡単だ。


 私が行動を起こさなかったからだ。

 大学でも、この世界に来てからも、勇気を出して声をかければよかったのだ。

 ただ、それだけのことが出来ていれば、こんなことにはならなかった。


 私はいつも大事なところで行動を起こせなかった。

 そして全ての取り返しがつかなくなってから後悔した。

 不登校になってから、奴隷になってから後悔したのだ。


 そして、今日も、私は行動を起こせなかった。

 私は、逃げ出してしまった。

 だから、きっと、今回も取り返しがつかなくなってから後悔するのだろう。


 


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