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【予兆】

遅くなってすみませんでした。

 噎せ返る程の濃密な障気の中、俺の前に現れた白い謎の獣。ソレに何か心当たりがあるかと言われてもさっぱりだった。皆目見当がつかない。……ただ。この獣を見ているとどこか心が安らぐように思えた。何故だかは分からない。しかし、こんなちっぽけな生き物から包み込むような暖かみを、母性を感じ取ったのだ。


 気付けばソイツは俺の足元に歩み寄ってその身体を俺の脚に擦り付けていた。そんな行動を見た俺は無意識に軽く笑いを零した。


 俺が笑ったことが不思議だったのか、ソイツは首を傾げながら俺を見上げた。その仕草にまたも俺は柔らかく口角を上げると、ソイツを抱き上げる。少しは抵抗されるだろうと思っていたのが、その予想は外れ、大人しく俺の腕に収まった。


 抱えたことで必然的に距離が縮まり、毛並みや瞳孔といった細部までもが見えるようになった。その為、あることに気が付いた。ソイツの身体はうっすらと光っていたのだ。輝きというほどではない。本当に微かに、不思議な光を放っていた。残念ながら、俺の語彙力ではその光を形容するのは不可能だが、精一杯言い表すとすれば「オーロラような光」と表現するのが適切……だと思う。


 その光は身体をぼんやりと覆うかの如く揺らめいており、とても幻想的で感嘆の溜め息を吐きそうになるほどだった。そしてそれは同時にコイツがただの獣ではないということを顕著に示唆していた。


 まぁ、そもそもこんな状況で残存している生物が普通である筈がないな……俺や、ニーナを含めて。


 ――――――特に俺は…化け物だ。


 俺が俺を化け物と言う理由は能力は勿論なのだが、最大の要因は別にあった。


 ―――――命を奪うことに、他を圧殺することに何の抵抗も感じない者…いや、「モノ」が。人間であるはずがない。少なくとも俺は人間だとは認めない。人間から大きく逸脱し歪んだ存在。それはもう……化け物だ。


 俺の苦悩は命を奪ったことに対する罪悪感ではなく、何も感じなくなった自分への嫌悪。つまり、俺は化け物。人外。だからこの状況で尚、生きている。生きてしまっている。


 生きているからこそ辛くなる。生きているからこそ苦しくなる。ならばいっそ死んでしまえば良い。そう幾度となく考えた。けれど死ねなかった。この能力が、運命が、そして何より死にたいと乞い願った俺自身が、死ぬことを許さなかった。あれだけ死んでしまえば良いと思ったにも関わらず、だ。


 それは理屈でも理論でもなくてきっと―――――


「意地……だったんだろうな」


 そう呟いて、奥歯をギリッと噛み締める。


 すると、抱えている白い動物が心配そうに顔を覗き込んできた。それに対し俺は笑顔を作り、心配ないと告げた。


「……そろそろニーナの所へ戻らないとな」


 俺は無理矢理に思考を切り替え、腕に動物を収めたままニーナの元へ歩き出した。






 少し歩き、ニーナを寝かせた付近に到着する。瓦礫の陰を窺うと、彼女はまだスゥスゥと可愛らしい寝息をたてていた。


 俺はニーナの側へ腰を下ろし、瓦礫に背を預ける。普段であれば殺した者達の幻影を見る為、目を瞑ることはしないのだが、久々の戦闘の疲れからか猛烈な睡魔に襲われ意図せず目を閉じた。






◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 田園風景が広がる長閑な田舎。


 時期は初夏だろうか。


 程よい気温。

 

 遠くから微かに聞こえる蛙の鳴き声。


 まだ青い稲穂を揺らすそよ風。


 そんな心地良い環境なか俺は日溜まりで微睡んでいた。


 愛しき存在である■■■■と共に。


 不意に手と手が触れ、俺が慌てて引っ込めようとしたのを■■■■は指を絡めて引き留めた。


 それに応じて俺も指を絡め―――――


◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「……て…起きて!ハジメ!」


 ニーナの声により一気に意識が覚醒する。


 どうやら寝ていたようだ。夢を見ていた気がする。しかし、靄が掛かったように思い出せない。だが、今は夢など気にしている場合ではない。ニーナが俺を起こした理由の方が重要だった。ニーナの額には汗が滲んでいて、随分と慌てている様子だ。恐らくなにか問題がおきたのだろう。


「……ニーナ。どうした?そんなに慌て…」


 俺が言の葉を紡ぎ終える前にニーナは 


「アイツが…来る」


 そう言った。






【To Be Continued】

ありがとうございました。


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