【懺悔】
投稿…できた……まだまだ拙いですが、よろしくお願いします。
「仲間を消せば楽になれる」そんな言葉に魅了された俺は、腕を変異させ―――――
―――――己の胸に突き刺した。
何度も。何度も。何度も。何度も。気が狂った様に刺し続ける。筋繊維を引き裂き、骨を砕き、自身の身体を貫いても、手を止める事はない。腕が刺さる度に形容し難い生々しい音を身体が奏でていた。傷口からは留めないほど血がごぼごぼと溢れ返り服と地面を赤々と染め上げる。
けれど、俺は死なない。胸にぽっかりと空いた穴は周囲の細胞が癒着し数秒もすれば完治するであろう速度で回復しているし、これでもかと撒き散らした血液も一旦は染み込むものの暫くすると蒸発し跡には何も残らない。
そんな回復力を持っていても痛覚は存在している。それ故に、激痛と言う言葉すら生温い痛みが全身を駆け抜け、脳に危険信号を送り続けていた。しかし、それ以上に…
―――――心が…痛かった。
何故心が痛むのかは分からなかった。「仲間を消せば楽になれる」その言葉に誘われ、ニーナを殺してしまおうと決めた瞬間に吐きそうになるほど、胸が苦しくなったのだ。自分を殺し、周囲の理想を演じていた時よりも遥かに辛かった。
その痛みに俺は耐えられなかった。…だからそれを誤魔化す為、自分に腕を突き刺した。けれど心の痛さはその程度の事では掻き消す事はできなかった。
―――――何故?……何故。何故。何故。……何故こんなに心が痛い。……仲間さえ…俺が自分を偽らなければならない人々が消えれば…楽になれるのに…何故ニーナを。仲間を殺そうと考えるとこんなに苦しい…?
「……ぅう」
嗚咽を漏らし、突き刺したままだった腕を引き抜いて、俺はその場に蹲る。ポタポタと顔から流れ出た透明な雫が地面に落ち、ゆっくりと染み込んだ。その雫は尚も止まらず、次々と地面に染みを作る。
「―――もう…嫌だ…」
自分の中に飽和していた言葉が遂に堰を切って流れ出した。
「何故俺がこんな目に遭わなければならないんだ。神に選ばれたから?巫山戯んな。俺はただ平々凡々と穏やかに暮らして行きたかったのに。そんな一人の望みも叶えられない神なんか必要ない。もう俺の事は放っておいてくれ。殺戮なんて御免だ。英雄?そんな称号今すぐ溝に捨ててやる。だから……許してくれよ…」
一気呵成に捲し立てたその言葉はあれほど蔑んだ神への懺悔に他ならず、俺は自分が情けなくなる。しかし、その言葉を紡いだからと言って何かが起こる訳でもなく、ただただ、虚しいだけだった。
それも当然か…数え切れない程の命を轢殺してきたんだ。「こんな事になるとは思ってませんでした。だから許して下さい」それで許される様な都合の良い話などある筈がない。俺は一生英雄と言う名の十字架を背負って行かなければならないのだ。
―――――それが俺の咎。そして償い。
その咎から逃げたいにも関わらず、仲間を殺す事もできない俺にはお似合いだろう。結局は俺の弱さが原因なのだから。称号の重さに耐えられなかった俺の弱さ。自分の為に他者を退ける事に抵抗を覚えてしまう弱さ。仲間を殺す覚悟もない弱さ。人から失望される事を恐れる弱さ。そんな様々な弱さが積み重なって今がある。
つまりは俺のせい。だから―――――………
ふと、俺の様子を窺っている視線に気が付いた。ニーナが目を覚ましてしまっていたのかと一瞬不安感に駆られたがどうやら方向が違う様だ。視線の発生源は恐らく俺の右後方の瓦礫の中。
……しかし、一体何が?人間ではないだろう。何故ならこの世界の人間は禍への耐性がない。それもそうだろう。本来ならば存在しない筈の障気に耐性など持てる訳がない。だから禍が充満しているこの一帯で人として生き残る事は不可能だ。
そう考えると、妥当な答えは魔族……それもかなり高位のモノ。低位の魔族には知能は殆どなく、生ある者を徹底的に排除すると言う習性しかない。その為、対象の観察を行えるのは高位の魔族に限られるのだ。
そう考えを纏めると右腕に力を籠め、一歩一歩、瓦礫に向かって歩みを進める。俺が近付いても尚、視線は逸れる事なく俺を見据えている様だった。警戒を強めながら更に近付き瓦礫の目の前まで到着。
すると、真っ白な猫とも狐とも言えない動物が瓦礫の隙間からひょっこりと姿を現した。その動物の体長は30cmほどと小さく、見た目は猫と子狐を足して2で割った感じだ。白く、艶のある体毛は美しくどこか神秘性を醸し出していた。俺を真っ直ぐと見詰める両の目は透き通っており思わず見惚れてしまうほど。
……どうやらこの動物が視線の正体だったらしい。けれど、謎だ。何故この明らかに魔族ではない動物がこんな場所で平然としていられる?こいつは……何だ?
【To Be Continued】
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