【苦悩】
やっと投稿できました。稚拙な文ですが、楽しんで頂けたら幸いです。
止めはしないと言ったけど…これは少し面倒だな。
何故面倒かと言うと、ニーナは俺を完全無欠の人間だと勘違いしている節があるのだ。その原因は俺が英雄として自分を偽ってきたからだった。演技が上手くできていたのは良い事なのだが、再びアレをしなければならないと思うと、心がジクジクと蝕まれる様だった。
だが、それも思い出したくない過去をまざまざと見せ付けられている現在の状況では小さな事であるのも確かだった。全て今まで戦ってきた敵。それに仲間まで来ているとは……
「どうやら俺は…」
思わず小さな声が零れた。それに気付いて俺は慌てて口を噤み、続きの言葉を呑み込んだ。「神に嫌われているらしい」と言う言葉を。何故ならそれは神に選ばれて召喚された英雄が口にするのは相応しくない言葉だから。俺を英雄だと信じているニーナの前ではとてもではないが、口にする事は憚られた。
気付いていない事を祈りつつ振り返り、ニーナの様子を窺うと気付いている様子はなかった。心配が杞憂に終わった為、俺はホッと胸を撫で下ろした。
まぁ、それもそうだろう。ニーナは探知など全くできない俺の代わりに仲間の捜索をしてくれているのだから。彼女の抜きん出た能力は探知。その力は対象の気配を辿り、発見するというもの。これだけであれば大した事がない様に聞こえるが、その精度は凄まじく、良く知ったの気配であれば同じ次元にいる場合は幾ら離れていようと感知できる。
その能力は探知する範囲によって精神力を磨り減らすらしい。近くであれば無意識の内に探知できるらしいが、遠くなればなるほど、精神を大きく消費する様だ。
ニーナは今現在苦しそうな表情で目を瞑り額には汗を滲ませている。つまりはかなり広い範囲を探しているのだろう。
「ニーナ。そんなに無理をするな」
その表情を見ているのに耐えられず、そう声を掛けた。するとニーナの身体に籠っていた力がフッと抜け、フラフラと数歩よろめいた。すかさず俺は倒れそうになった所を支える。「こうしなければならない」と思ったから。
「ごめん…ね?見付けられなかった…」
息も切れ切れにニーナはそう呟いた。俺の目を真っ直ぐと見据えて。
「謝る事じゃない。別の手段で探せば良いだけだしな」
俺は微笑みながらそう告げた。勿論この行動も「こうしなければならない」と思ったからだ。その言葉を聞いたニーナはどこか安心した様な素振りを見せた。
「ありがとう…やっぱりハジメは優しいね」
の何気ない一言が心に深く突き刺さった。俺は優しい訳じゃない。ただお前に失望されるのが怖くて優しく振る舞っているだけなのに。言葉が心に突き刺さった穴からそんな感情が溢れ出した。そのままぶち撒けてしまったらどんなに楽だろう。
「そんな事より少し休め。まだ時間は掛かるだろうからな」
……だが、俺はその感情を圧殺し、心に空いた穴を無理矢理に塞いで言葉を紡いだ。声が心なしか震えていた様に感じた。気のせいである事を祈ろう。
「うん…ごめんね。休ませて貰うね……」
そう言ってニーナは俺に支えられたまま、意識を手放した。
俺は早くもスゥスゥと可愛らしい寝息を立てているニーナを抱き抱え、何とか原型を留めていた建物の陰に移動した。比較的綺麗な地面に降ろし、羽織っていた上着を脱ぐと、横たわっているニーナに布団の様に被せた。
…ニーナの力で見付からないとなると、本当にこの世界にあいつらは来てるのか?何か強力なジャミングが発生してるとも考えれらなくはないな……いや、全てがイレギュラーなこの状況で幾ら考えてもどつぼに嵌まるだけか。
でも、あいつらが来ているなら早く合流したいな…俺では相性が悪い魔族が出てくる可能性もある。その場合、戦闘向きじゃないニーナがいるこの状況では不味い。少なくとも魔術師と守護騎士は逸早く見付けたいな。
「――――っ」
そこまで考えたところで、塞いだ筈の心の穴から再び本心と言う名の濁流が流れ出した。今までの悲しみ、寂寥感、苦悩、苦痛、不安、恐怖。そう言った負の感情が一気に頭に雪崩れ込み正常な意識を保つ事すら難しくなる。
そんな中小さく、だがはっきりと語り掛けてくる声が聞こえた。その声は耳元で囁いている様でもあり、遠くから叫んでいる様でもあった。そんな曖昧な声だったが言っている事は一つ。
―――――仲間を消せばお前は楽になれる。全てを壊せる力がお前にはあるのだろう?
その提案は何とも甘美で危うい魅力を孕んでいた。
そして俺は腕を変異させ――――――
【To Be Continued】
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