【再会】
【駄文注意報発令中】
「――――これで…終わりか?」
死神共を一通り殺した俺は一人虚空に向かって呟いた。
どうやらその予想は正しかったらしくアイツらがもう沸き出して来る事はなかった。つまり殲滅は成功したのだ。……だが、一帯の魔族を倒し尽くした所で事態は何も進展していない。理由は明解。情報が集まっていないからである。全て殺したのだから情報が引き出せないのは当然と言えば当然なのだが、末端のアイツらが何か重要なナニカを握っている可能性は限りなくゼロに近い為、捕らえて拷も……尋問を行うだけ無駄だったのも事実だった。
「それに……尋問をしてもアイツら程度の頑丈さじゃすぐに壊れるしな……」
……そう。これもまた、尋問を行わない理由だった。この体になって以来、力加減が難しくなってしまったのだ。特に、生物やそれに類する者に対して力を振るう場合は。何故かは知らないが、心の奥底から自分のモノとは思えない程、どす黒い感情が溢れ出し、その奔流に呑まれたら最後。次気付いた時には目の前にいた筈の「者」は「物」に成り果てているのだ。
それが怖くて仕方がなかった。夜が来る度に朝起きたら自分は自分ではなくなっているのではないかと怯え、震えていた。英雄だ。勇者だと祭り上げられていたが故、誰にも…共に旅した仲間にさえ相談する事も出来ずに一人で……数年が経った今でもその幻影に脅かされ眠れない時もある。その所為で幾度も幾度も幾度も英雄と言う栄光をかなぐり捨てて逃げ出そうと考えた。
――――だが逃げられなかった。人々の期待の籠った眼差しが俺を英雄と言う理想像に縛り付け逃がさなかった。だから俺は走り続けた。数え切れない程の屍を踏み付けて。殺して。殺して。殺して。殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――――
気が付いた時に残っていたのは「英雄」と言う張りぼての栄華と虚脱感……そして屍の山だけ。
目的を達成した後の異世界での生活は一見充実したものだった。褒賞として与えられた莫大な富に名声。それだけ聞けばなんとも素晴らしい。しかし俺は疲れてしまったのだ。理想通りに振る舞わなければならないと言う重圧。皆が俺を「英雄様」と呼び誰一人として名前で呼ばれない事に対する悲しみ。等々その他多くの理由が積み重なり俺は潰れた。結局は器が小さかったのだろう。元々英雄なんて柄じゃあなかったんだ。俺は村人F位が適役なのだろう。
だから俺はこっちの世界に戻る事を望んだのだ。平穏な生活を。
――――なのに……
「これは一体どう言う事だ……」
つい…不快感を露にした声が漏れた。
「何で……こんな事になるんだよ……」
目尻が熱くなり頬を何かが伝う。
「はは、何だ…俺。まだ、泣けるのか……」
その言葉を合図に堰を切った様に次々と涙が零れ落ちた。
―――――どれぐらいの時が過ぎたのだろう……もしかしたら数十秒かも知れないし数十分泣いていたかも知れない。……まぁ、時間などどうでも良い。
「大分…すっきりしたな……」
まるで涙が心にかかった靄を洗い流したかの様だった。
「すっきりはした……が、これからどうするか……」
「……まずはやっぱり情報収集…でしょ?」
声がした。俺しかいなかった筈なのに。しかも……背後から。
「…ッ…誰だ!!」
腕を変異させつつ振り返り、構えを取る。
「誰だ~とはご挨拶じゃない…久しぶりの再開だって言うのにさ?」
振り返った先に居たのは女。俺が魔族との戦闘で破壊した家屋……だった物の上に所謂体育座りで座っていた。外見年齢は十代半ば。綺麗な薄いピンク色の髪を一つに結い、前髪は顔にかからない様に側面へ流している。目鼻立ちは非常に整っておりこっちの世界のアイドルとは比べものにならない程。そこだけを見れば常人離れした美少女。だが背中から伸びている真っ白な翼が彼女が人間ではない事を表している。
「……ニーナ」
彼女の名はニーナ。翼人であり、異世界で共に旅した仲間でもある。だが……
「何故…ここに?」
彼女は異世界の住人だった筈だ。故にここにいる理由が分からなかった。
「さぁ?…わたしにもさっぱり……いきなり闇に呑み込まれたと思ったらここから少し離れた場所に出て……懐かしい気配を辿って来たら君がいたの」
手短に質問したにも関わらず俺の聞きたい事は伝わった様で、そう返答してきた。まぁ、答えに関しては予想通りだ。
「他の皆は?」
「一緒に呑み込まれたから来てるとは思うんだけど……気配が辿れないんだよ」
他の仲間が来ているのならば好都合だ。あいつらは俺に足りない部分をそれぞれ持っている。だからこそ一緒に旅をしたのだ。仲間同士補い合う為に。
「じゃあ…情報収集がてら俺はあいつらを探す。……情報提供ありがとう。また会えたら会おう」
俺はツカツカと踵を返して歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って!わたしも一緒に行かせてよ」
ニーナの力はお世辞にも戦闘向きとは言えない。故に俺は置いていこうと思ったのだが……どうやらニーナは付いて来る気らしい。
「危険だぞ?」
「……大丈夫。“あの時”だって一緒に旅したでしょ?」
俺の目を真っ直ぐと見据えるニーナの目は綺麗に澄んでいて、確かな覚悟がそこにはあった。暫く視線を合わせた後、俺は諦めた様に目を逸らす。
「なら……止めはしない。一緒に行くぞ。ニーナ」
「うんっ!」
そんな訳で俺……いや俺達はかつての仲間を探す為に歩き始めた。
【To Be Continued】
ありがとうございました。