【序章】
よろしくお願いします。
朝、普段の様に顔を洗う為洗面所に行き、鏡の前に立つ。
「……は?」
鏡に映った姿を見て俺は困惑した。そこに映っていたのは銀髪碧眼の物語から抜け出してきたかの様なイケメン。俺、斉藤一は名前からも分かる様にごく普通の高校生だった筈だ。こんな人間離れしたイケメンじゃあなかった。だが問題はそこじゃない。そう……そこじゃない。問題は何故俺が
「あの姿のままなのか」と言う事だ。
大雑把に今までの経緯を振り返ろう……「アイツ」の言葉が事実だとするのなら昨日の晩の事。ありきたりなラノベの様に俺は異世界へと召喚されたのだ。召喚された理由は一つ。「魔王の討伐」。いかにもファンタジーな展開に俺は心が躍った。疑問よりも興奮が勝ってその後の事など全く頭に無かったのである。そして、異世界の時間にして数年(現実世界では数時間)の旅の末、俺は魔王を討ち取る事に成功する。その後、望郷の念に駆られ「アイツ」に頼み込み現実世界に帰還させてもらった。懐かしい自分の部屋に帰って来た俺は疲れ故か、死んだ様に眠りに就いた。と、言うのがこれまでの流れなのだが……十中八九「アイツ」が俺の帰還させる際に何らかのミスを犯したと見て間違いないだろう。
「原因の目星は付いたけど……どうしようもないよなぁ…」
そう。現状、「アイツ」と連絡を取る事ができない以上打つ手はなかった。
「マジでどうすんだよ……学校とか行かなきゃならないってのに」
俺の場合、家族への配慮がなくて良い分、楽かも知れないが……だが。
「外に行くとしても……顔や髪は何とかなるけど、問題はこの腕だよな」
そう言い自分の右腕に視線を落とす。……俺の右腕は人間の物ではない禍々しいそれだった。10cm程の錆びたサバイバルナイフの刃を思わせる爪が伸びているその腕の黒く、ゴツゴツとした皮膚には深紅の線が走っており、脈打つ様に輝いていた。これが外を出歩く際の最大の問題。向こうの世界では比類なき力を行使する為に重宝した腕だが今となっては邪魔でしかない。
「はぁ、何でこんな厨二チックな能力なのかなぁ…」
まぁ、初めは喜んでたけど…と心の中で続ける。
「愚痴ってても仕方ないか……でも、どうすっかな」
ガリガリと禍々しい右手で頭を掻く。
「……まず、学校は絶対に行けないから、連絡を入れておかなきゃな」
そう呟くとポケットからスマホを取り出す。
「ふぅ……何とか連絡は取れたな」
学校に暫く休ませてもらうといった旨の連絡を済ませ、俺の今後について思考する。
これからどうすべきだ。まずこの姿……というよりは腕のせいで外には行けないよな。何で隠密能力が無いんだよ。それどころか俺は敵のヘイト集める様な能力ばかりだしな。でもこのままの訳にも行かない。食糧も調達しなければならないし……。
「…クソッ、こんな事なら向こうの世界の方が―――」
――――ズゥゥン。
そう言いかけた時、地鳴りと共に家が激しく揺れた。
「……地震…か?」
そう思った。
―――――だが、違った。
地震よりももっと恐ろしいものだった。
窓の隙間から外の空気が流れ込んでくる。それを吸った瞬間、俺は驚愕で目を見開いた。その空気から感じられるのはこの世界にあってはならない「魔の気配」異世界では「禍」と呼んでいた障気。向こうの世界で嫌という程吸い込んできた忌まわしいモノ。でもそんなものが何故この世界に?……分からない。そもそもこの禍を発生させるモノは向こうの世界にでさえ存在しない筈だ。何故なら俺が消したから。これを発する魔王とその眷族は……。
「チッ、考えてる暇なんてないか。何れにせよ異常が起きているのは事実だろうしな」
………それに禍は耐性のない者が吸い込むと体が腐って死ぬか、魔族と呼ばれる眷族にされてしまう。つまりこの世界にとっての危険性は言うまでもないだろう。
「最悪の場合……世界が終わる…」
【To BeContinued】
ありがとうございました。