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剣呑天秤祭 ザ・アキバ・タイブレイク  作者: オヒョウ【検閲済】
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ジョッキ 二十七杯目

 ――●――


 時系列は前後する。


 朧は便宜上出口と呼んでいる、アキバから遠い出入り口で警備に従事していたが、正直暇を持て余していた。

 正直、こちら側からは来ない、と踏んでいた。

 自分達の敵はアキバの連中なのだから、わざわざ遠回りをしてくるとは考えにくい、というのがその理由だ。

 だが。

 会場から一分も離れていない場所、アキバへと向かう道上を外れた、木々の密度の高いところに、十数名の人間が集いつつあるらしい。

 自身の目視ではなく、〈コンドッティエーリ〉構成員からの〈念話〉による、『怪しい人物が次々とアキバを出た』という、間接的な報告だ。

 朧はそこを偵察することにし、その共有として銀薙へと連絡する。

『……分かった。ただ、くれぐれも無理はするな』

「ああ、大丈夫」

 銀薙との〈念話〉を切ると、あっさりとした歩調でその場所へと向かう。

 あくまで情報収集に限るなら、こそこそしないでそのまま堂々と行けばいい、と考えたのだ。

 これは銀薙に共有していない。

 言えば紛糾することは分かっていたため、それに時間を取られるよりは気軽な自分がさっと行ってさっと帰ってきた方が対応する時間が稼げる、と考えたのだ。


 朧は〈ダザネックの魔法の鞄〉から、アキバで金さえ出せば入手可能なストールを肩から上半身に被り、気軽な調子を装って歩く。

 猫人族の彼女の足は隠密性に長けるが、この時ばかりは多少の足音を立て、酔客のような運脚を行う。

 気軽な気配を放ち、足音をさせることで、酔って道を間違えた、という体を装うのだ。

 その点、斥候任務が多かったという猫人族の体は有難い。

 何しろ、星明かり程度の夜闇であれば夜目が利くため、特殊な装備や薬剤を必要としないし、身軽さもあるために敵地からの脱出も容易だ。


 そのはずだった。


「皆さん、こんなところで何してらっしゃるんですか?」

 何も知らない体を装って声を掛けたところ、一瞬のタイムラグの後、

「……敵だ。殺せ(・・)

 あっさりと矢の迎撃を受けた。


 ハイド系の特技で身を隠して、肩に受けた矢を抜きながら素直に認める。

(そりゃそうだ。ステータス見ればすぐ分かるよな)

 ギルド間闘争(カチコミ)の『鉄砲玉』役は一旦ギルドから抜けて〈無所属〉となることを忘れていた、というよりは、今の境遇を重視しすぎた結果だろう。

 〈月光キアーロ・ディ・ルナ〉においては新規参入ができず、その結果抜けることもできないことから、分かりやすい嫌がらせ(カチコミ)を禁じていたことをすっかり忘れていた。

 しかも、その矢には毒の類が塗付されていたようで、眩暈のような症状に見舞われ、まっすぐに立てない。

 隣にあった木に体を預け、

「……っち」

 息を吐き捨てながら、逡巡なく手首を縦に切る。

 すると当然、どばどば、と血が流れる。

 それが狙いだ。

 血液に毒が混入、しかも即効性なら犯された血液を抜けば症状は軽減する。

 だが、当然状態異常:失血に陥るため、継戦能力は大幅に落ち込む。

 その前に、

(……逃げ、ないと)

 朧はあっさりと引く決断を下す。


 それは当然だ。

 戦う気満々の相手に対して、こちらは準備が足りない。

 それに人数の差もある。見た限り、20名はいただろう。

 つまり、完全装備のフルレイドが相手だ。

 一人で立ち向かうなど、

(……正気の沙汰じゃない)

 朦朧としながらも、朧は何とかしてここから脱しなくてはならない。

 そして、今の状況を誰かに伝えなくてはならない。

(〈念話〉を……)

 猫人族であるはずなのに、脂汗が滴る。


 Tips:

  猫は足裏にしか汗腺がないため、額に汗をかかない。

  ……ことを参考にしているけど、実際どうなのかは不明。


 へたりこみそうになるが、耐えて脳裏のステータスから名前を選ぶ。

(……)

 何の逡巡もなく、ユストゥスの名を叩く。

 他意はない。

 ただ、一番最初に動くだろう人間を選んだ。それだけだ。

 だが、

「いたぞ!!」

 〈念話〉が繋がる前に見つかってしまう。

 それは自分と同じ、猫人族の〈暗殺者〉だった。

 応戦しようにも、既に体は動かない。毒が回ってしまったのか、それとも血を抜いたことが原因なのか分からない。

 その場に完全にへたりこみ、相手に目を合わせる。

 すると、相手は苦悶の表情を浮かべ、絞り出すように声を出す。

「……悪く思うな」

 短刀を構えると、

「がっ!?」

 その短刀を持つ手の横に矢が刺さる。

 相手はあっさりと、身を翻し闇へと消える。

 同時に、女性の高い声が響く。

「〈四方拝〉!!」

 よく聞き知った、頼れる女性の声であることに安心して、朧は意識を失った。


 ――●――


 藍那はユストゥスとの簡単な状況確認ブリーフィングを行う。

 その際、二人は明確に役割分担を決めていた。

「藍那は先行してボロちゃんを回収。私は時間稼ぎ」

 ユストゥスの言葉に頷く。


 〈神祇官〉である藍那は、世間一般で言われているような攻撃一辺倒のビルドを形成していない。

 その証拠に、防御系特技を〈秘伝〉にしており、攻撃に関しては装備品による底上げによって対応している。

 ただ単に、敵が彼女がいるパーティまで辿り着くころには防御が必要ないほどに削られているだけで、後一歩のために狙撃(ズドン)するのだ。

 基本、巫女は人撃っちゃいけませんから。

 ええ、危機が迫ったからですよーぅ。


 Tips:

  氏子の危機には撃ってもいい。人だろうが、龍だろうが航空艦だってOK。


 Tips:

  応用、何でもいい気がしてきた。


 だが、言っておかなくてはならないことがある。

「私が見つけた場合、まずは最適な行動を取るわ」

 ユストゥスの告げた前提、防御ではなく、攻撃によって守ることも視野に入れているとの意思表示に対し、

「構わないよ」

 ユストゥスはあっさりと一任した。

 気にしていないのではない。藍那であれば違えず、確実に朧を救出できると信頼しているのだ。

 だから、あっさりと認める。

 藍那は思う。

 ユストゥスのこういうところが、

(……嫌いよ、ええ嫌い)

 自制を込めて固く思う。

 ……自分だけを見てくれないのは嫌なのだ。

「じゃ、そういうことで」

 ユストゥスの軽い言葉に、仏頂面で返す。

 どうにも緊張感がないこの男に対し、それでも先だってのこともあるし、心境としてのこともある。

「……気を、付けなさいよ」

 少しだけ、気に掛けてやることにする。

 だというのに、ユストゥスはこちらの心境を知ってか知らずか、肩越しに手をひらひらと振るのみだ。

 こういう、余裕を見せることでこちらを慮る態度も、

(……嫌いよ、ええ大っ嫌い)

 自制を込めて固く思う。

 皆に優しいのは嫌なのだ。気が多いのは仕方ないにしても、大勢のうちのひとり、というのが気に入らない。

 そんなことを思いながら、朧の足跡を追う。


 彼女は賢い。努力を否定せず、しかし最大の効果を求めることに貪欲だ。

 だから、

(……正面から行ったわね)

 やや短慮だ。

 最短で結果を得られる、と考えたのだろう。

 それは正しい。

 こちらと同じ条件なら、と注釈が付くが。

 相手はこちらと同じ条件でやるわけがない(・・・・・)

 何しろ権力を保持する側だ。遠慮も何もない。

 今までもそうなら、これからもだ。


 藍那は静かに動きながら、相手の集合地点(ランデヴー・ポイント)がどこかを考える。

(剣戟を始めとした戦闘の音は意外に響くわ。となれば、かき消すものが必要だけど……音は私達の方が大きいわ。

 その点で、うちの『墨俣城』は都合がいいわね。となれば、アキバと『墨俣城』の延長線上、等距離か、ちょっと遠く)


 『墨俣城(ステージ)』は音が会場の端から端まで鳴り響くように作られている。

 だが、会場を出たら音は途切れるわけではない。

 音とはつまるところ空気の振動であり、波動の特徴を備えているため伝播する。障害物にぶつからない限りは減衰しない。

 だが、より大きな音、すなわち大きな振動とぶつかれば消される。

 波の発生するプールで、人間がいくらばしゃばしゃやっても機械の生み出す大きな波にかき消されるのと同じことだ。


 藍那は思考を続ける。

(戦端を開くタイミングは、キリリン達の音楽が始まってしばらくしてから。具体的には、二曲目終わるか、三曲目に入ったら、くらいでしょうね。

 ……その前にボロにゃんが動いたわけだから、恐らく準備段階だったはず)

 大きな音が鳴らされることは分かっているだろうが、どのくらいの音かは演奏が始まらない限りは分からないし、続けて演奏されるかも不明だ。

 そのためには、数曲演奏されることを確認しなければならない。

 逆に、それだけの時間的余裕があったと推定できる。

(……それでいて、突然現れた猫人族を朧と断定したうえで音がしない?

 しかも朧と連絡取れず?)

 鈍い汗がこめかみを伝う。

 その理由を、思う。

(……特殊な戦場であっても慣れている、手練れだわ)


 戦闘の準備と一言でいっても、兎狩りと虎狩りには使う武器が異なる。

 双子の乗ったセダンを対戦車ライフルで撃っては死体の確認ができないのと同じだ。

 だというのに、あっさりと無音の兵器にて迎撃するとなると、とっさの判断を体が理解し、その上対応できている証拠だ。

 藍那は軽く緊張を見せる。

(……遂に動き出したかもね)

 〈月光キアーロ・ディ・ルナ〉を本格的に潰すため、戦闘系ギルドが本腰を入れたと考えたのだ。


 だが、いかな戦闘系ギルドと言えども、奇襲と心理戦によって対応してきたユストゥス、そして超長距離からの狙撃を主とする藍那を相手にするには荷が重い。

 ならばどうするか、と考えていると、ふと、微かな血の匂いが鼻に届く。

 匂いの方、右側の木々へと目をやると、そこには二人の猫人族がいた。

 立っている男性と、木の根元に座り込んだ女性。

 藍那にしては、両者とも見知った顔だ。

 だが、何の躊躇もなく早撃ちを行う。

 狙いは男性、短刀を構えた右腕だ。

 それは藍那の狙い通り、肘の外側に命中する。

「がっ!?」

 短い悲鳴と同時、男性はこちらを見ると、奥の暗がりへと身を翻す。

 今は追わない。

「〈四方拝〉!!」

 一定量のダメージを肩代わりする障壁を生み出し、まずは朧を確保する。

 同時、〈念話〉を繋ぐ。

「朧を確保したわ。意識はなし。外傷は肩の裂傷と、肘の内側の切傷。失血は多量。

 それと……」

 言い淀むが、伝えねばならない。

 藍那は、意を決したように告げる。


「敵は、〈ホネスティ〉よ」

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