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剣呑天秤祭 ザ・アキバ・タイブレイク  作者: オヒョウ【検閲済】
19/66

グラス 十四杯目

 ――□――


 場がそれなりに落ち着き、ユストゥスが温和な方の笑顔で全員に説明を始める。

「改めて。

 レオ丸さんはいろいろとアグレッシブな方でね? 私らとは〈ロマトリス〉でアチョー決めた後にお会いしてね?

 その時はアマミYさんとの“逢引”の最中でね、流石の私もちょっと気が引けたね」


 その言葉に、アマミYは白磁の肌を朱に染める。

「……懐かしく、そして恥ずかしゅうありんした……」


『もげろ』


「なんでやねん!! なんでワシが言われなアカンねん!!

 ……なぁユストゥス君、それが君らの平常運転なんは理解したった。

 で、その紹介の仕方。前も聞いた気もするんやけど、それは褒めとるんかな?」

「当然ですよ?

 だってー、私タウンをまとめられるような発言力も行動力もないですし、……なんだっけ、どうしても覚えられないから“脳内お花畑狐の園”でいいや、ができたきっかけを作るようなことはできませんし、若さにかまけて建物壊すようなことしてませんもん。

 若さにかまけたのは……嫁の量産かなぁ?」

 その一言に、ほぼ全員がざわつく。

 ちなみに最後の一言ではないようだ。

「……できればこれ以上はダメ」

「……ただでさえ時間と“弾”が限られているのに」

「……」

「……」

「大丈夫ですユストゥス様!! 英雄は色を好まれますし、私は全く気にしませんから!! ラリサやファビ共々、いつでもどこでも種付」

『下品なこと言うな!! それにお前は嫁じゃない!! あと妹に了解を取れ!!』

「……うん、ちょっと今のは私でも引いたなー」

「……オマエらは余所でやれ。

 とにかく、レオ丸殿はユンと比べると非常に人のできたお方だ。多くの知己に囲まれ、そしてその影響力も多大なものがある。ユンやハルとは違う発想に優れ、そして行動力にあふれるお方だ。

 ……ちょーっとばかりはしゃぎ方に大人気ないところも多々あるし、ユン以上の逃亡癖があると聞く。

 それでもれっきとしたお客人だ。粗相のないようにな?」

『お前(エルヴィン先輩)が言うな』

 全員の声がハモったところで、食事の開始となった。


『いただきます』

 全員が声を揃え、食事が始まる。


 意外にも和食が多く並ぶ食卓で、レオ丸は本格的な品々に舌鼓を打つ。

 筑前煮のような煮物にはしっかりと醤油の味がする。

 関西人のレオ丸にも、そこまでしつこく感じない味付けに驚きながら、次々と口に入れる。

「はー、こらうまいなぁ。まさかこの世界で、こんだけのモンがいただけるとはなぁ」

「お口に合いますか?」

 ミニスカートのよく似合う女性が、満面の笑みを浮かべながら聞いてくる。

 足には目のないレオ丸はそちらにも注意を払ってしまう。

「……おほん」

 奥の方に座る大柄な男性に咳払いをされ、視線を彼女の顔に移す。

「あ、ああ。吃驚だわ。こんなん、現実でも食べたことそうないで!!」

「お気に召されたようで何よりです」

 朗らかな笑顔を残し、その素晴らしいおみ足……彼女は去っていく。


 ――●――


 〈パーティ念話〉を使い、ぼそぼそとしゃべる。

「(……なんというか)」

「(サイテー。ハルだと許せるのに)」

「(なんででしょうね?)」

「(……ハルは“身内”、だから?)」

「(キリーさんの口からその発言はちょっと驚きですよ)」

「(……良心が咎めないところがサイコーだね)」

「(ではGo!! で)」

「(ああ、よろしく)」


 ――□――


 視界の隅で、ユイAと一瞬で意気投合? した胸のふくよかな女性、キルエリーヒが席を立つのを見つつ、レオ丸は食事を再開する。

 戒律に基づき精進すべき身ではあるが、仏の教えとはアバウトなモノと理解しているために、気にせず次の器へと手を伸ばす。

 目を瞠る。

 それはくたくたに煮てあるような様子で、串に刺さったものだ。

 上にかかっている緑の野菜は葱のようにも見えなくない。

 この外見に、レオ丸は心当たりがあった。

 否。

 関西人で見たことがないのはいないといっても過言ではない。

 だとすれば、煮てあるのではなく、焼いてある、という表現が正しい。

 認識を改めるや、口に運ぶ。

「こ、これは!!」

 ユストゥスの弱々しい声を聞く。

「新作の白味噌を使った、ドテ焼きなんですけど。

 ……本場の方の、お口に合います?」

「問題ないで!! いやうまい!!

 ……あ、いや、ようもここまで再現したよな自分? エエ味しとるし、正直驚いたわ!」

 その言葉に、素直に胸を撫で下ろすような表情を見せるユストゥス。

(……なんや? 今回は随分と素直に表現するな?)

 気にはなるものの、だからと言って目の前の食事と比較すると些末事に過ぎない。

 今は楽しまないと。

 それも、ユストゥスの願いでもある……はずだ。

 続いて、

「お、これもウマイ」

 西京味噌(っぽい)を塗ってある焼き魚も贅沢だ。

 と、傍らに影が落ちるのに気付く。

 そちらを見ると。

 先ほどの胸の大きな女性が、透明な液体の入ったガラス製のコップをいくつか差し出してくる。

「……うちで作った日本酒と、いくつかの試作品です。

 是非品評をしていただきたいと」

 有無を言わせぬその口調に少しだけ引き気味になる。

「い、いやワシそんなに強くないんで」

「量を飲め、というわけではありません。味見です。

 ……それとも、“このくらい”でも飲めませんか?」

 最後の一言には軽く笑いが含まれていた。多少はご褒美としても、流石に年下に言われるとカチンと来る。

 ここがどこだかを忘れて、ぶっきらぼうに言い放つ。

「……そこに置いとき。食事の後や」

「ええ、よろしくお願いしますね」

 にこりともせずつぶやくと、その割には丁寧にコップを置いていく。

 そして、最後にショートパンツ調のボトムのポケットから、折りたたまれた紙片を取り出す。それは皆から隠すようにして、レオ丸の手元に置かれる。

「(……今開発中の〈アルコール分解薬〉です。これを使えば、いくらか飲めるようになると思います。

 まだ実験段階ですが、個人レベルでなら効果は実証できています)」

 その女性は小声でそんなことを言う。その言葉に、驚くというよりもあっけにとられる。

 つい、同じように小声になる。

「(……どういうことや?)」

「(明日の為の“チューニング”がしたいんです)」

 答えのようで答えになっていないものの、これは見方によっては極めて有用だ。

 何しろ、敵は強大すぎる。むしろ渡りに船、だろう。

「(……服用のタイミングは?)」

「(…………今の時間ならいつでも大丈夫ですよ。

 飲み始めてから飲んでも一定の効果は挙がるはずですから)」

 妙な言い回しは気になるが、意味は通じた。

「(……副作用は?)」

「(特には。ただ、なるべく多めに水分を摂取するようにしてください。この辺は現実のアルコール分解のメカニズムと条件は同じです)」

 そこまで丁寧ではないものの、概要はきちんと把握できた。

「(……おおきに、と言ってエエんかな?)」

「(……センパイからの指示です。何かあればセンパイに。あと皆にはバレないように)」

 言うと、本当にあっさりとその場を立ち去る。

(センパイ……ユストゥス君のことかいな? しっかし……いろんな人間揃えとるな、ここは。

 それと、これはユストゥス君とあの娘の独断ってことなんかな?)


 現実でも、〈アルコール分解薬〉の開発には成功していない。

 そもそも、アルコールは人体にとっては毒だ。つまり、アルコールの分解とは言ってしまえば解毒だ。

 そこで、気付く。

(……そうか、いろんな解毒剤(・・・)がある世界やからそのくらいは作れる、か。

 ……やっぱりどっかおかしいな、ここの連中は)

 気付きのレベルがどこか違う。

 原理としては理解できる。だが、そこに気付くことができるかといえば全く違う素質が必要となる。

 極端に言えば、

(世界を信用していない?)

 気付きとは、今までとは違うのでは、と疑うことと同義だ。

 つまり、

(ここの面々は、この状態だけでなく、今までの世界すら疑っている、と?

 ……いつの時代やねん!!)

 だが、彼らが気付きを得ていることは事実だ。

(……考えてもしゃあないか。

 ほなコレ、使わせてもらおか)

 レオ丸は慎重に紙片を開く。そこには、荒々しく砕かれた薄黄色の粉末が乗っている。

 妙な匂いはしないものの、

(……ホンマに大丈夫なんか、コレ?)

 “未知”に対して、少しだけ躊躇が生まれる。

 だが。

(ええい、ままよ!!)

 誰もこちらを見ていないことを確認し、口にさらさら、と入れる。

 そして、最初から飲んでいたお茶で流し込む。


 ――●――


 〈パーティ念話〉を使い、ぼそぼそとしゃべる。

「(“試薬”及び“A液”の服用を確認)」

「(見えた。アルくん、時間は?)」

「(……今からなら大丈夫です。でも、どれくらい保ちますかね?)」

「(それを実験しているんだよ?)」

「(分量は多めにしたから、そこまで早く切れる(・・・)ことはないと思う)」


 ――□――


 怪しい薬を飲み、しかしレオ丸は特に変化らしい変化を感じていない。

(……まぁ、すぐには変化ないやろ)

 返答代わりに、腹が鳴る。

(ホレ、気にせんとエエって体がゆうてるやん?)

 なので、食事を続けることにする。


 ――●――


 〈パーティ念話〉を使い、ぼそぼそとしゃべる。

「(……味覚にはほぼ影響なしと推測)」

「(……パターンも変わらず、どちらかというと濃いめの味付けが好みのようだね。うーん、この辺は関西人とかそうじゃなくて、単純に個人の好き好きなんだろうね?)」

「(……にしても)」

「(うん、バカスカ行くなぁ)」

「(……普段、なかなか味のする料理は口にされないからじゃないですか?)」

「(……見ているこっちがお腹一杯)」

「(……あとは時間の経過だね。そういえば、結局“B液”はどうなった?)」

「(臭いはキツいままで、色も茶色のままです)」

「(原料そのまま、か。

 しょうがない、味噌汁作って飲んで(・・・)もらうか(・・・・))」

「(いえ、だったらウイスキーっぽいものに混ぜます)」

「(……なるほど、そうするか)」


 ――□――


「それにしても、よく召し上がりますね?」

 年下のハルに苦笑交じりに言われ、いったん食べる手を止める。

「……あ、スマンな?」

 余所のところに居候して食べまくっていることを言われていると思い、素直に茶碗と箸を置こうとすると、

「あ、違います。食べ過ぎとかでなくてですね。

 ……実は、この体を維持するに当たってのカロリーの調査をしているんです。

 といっても、体動かした日と“座学”の日と比較してどれくらい食べるのか、とかを調べているんです。

 で、できればレオ丸さんにもいろいろと伺いたくて」

「……ハル君、自分随分とユストゥス君に引っ張られとらんか?」

 その言葉に、ハルは小首を傾げる。

「……そうですか? 俺の発想なんて、ユンさんに比べれば大したことないですよ。普通ですって」

 本気でそう言っていることは、彼の目を見れば分かる。

(……アカン、ここでは“普通”の適用範囲が違う)

 いうなれば、メジャーの選手ばかり台頭する中で、トリプルAの選手が草野球の一般人に対して「自分は大したことない」と言っているのと同じだ。

 自分がいる位置が、分かっていないのだ。

(これは危ないでぇ? 上ばっかり見とると、足元簡単に掬われるさかい……)

 だが、と思う。

(……いや、誰が彼の足元掬おうと思う? たかが53レベルの、現実で言うたら高校生やろ?)

 そこで、気付く。

(……〈切り札ジョーカー〉やな、彼は。

 ただでさえ、《狐将軍(エルヴィン)》や《闇風(銀薙)》、《道化師(ユストゥス)》や《藍の教え子(藍那)》がおるから、自分が特殊だという心理的な圧迫がない。

 そして、対外的にはどんなプレイヤーでも、彼は意識に置かない。彼らが良くも悪くも“楯”になっとるからな。

 ……そのための、“英才教育”か!!)


 どのように転んでも、彼にマイナスはない。加えて、彼らにもマイナスにならない。


(……どんな修羅場経験したらそこまで突き詰められるんや)

 改めて、このギルドの面々の先見性に舌を巻く。

「レオ丸さん?」

「あ、御免やでハル君。

 そうやな、ワシは結構食べる方でな? それにあまり自分の足では歩かんよって」

「そうなんですね。

 でも、いくら〈冒険者〉だからって、適度な運動もしないのは感心しません。太らないからこそ、いろいろと試してみないと!!」

 ……前言撤回。

 彼はある意味、ユストゥスよりも厄介かもしれない。

 レオ丸は率直にそう思った。


(そういや、試せって言われてたんやった)

 目の前に並ぶ、複数のコップに視線を落とす。

「一番手前が今、〈お酒のバッカス〉で販売している日本酒です。

 右隣が熟成させたもの、真ん中が絞りたて、左隣は非加熱処理のものです」

 いつの間にか後ろに立っていた、キルエリーヒが説明する。

 明確に色が違うのは右のもので、微かに黄色がかっている。対して、左のものはやや濁っているように見える。

「……ワシ、あんまり詳しくないんやけど」

「そういう方に飲んでもらうからこそ、出来が分かるんです」

 有無を言わせない口調と態度に、少しだけ引く。

「……じゃあ、まずはこれから」

 販売している、という日本酒から口を付ける。

 一口含み、思わず声が出る。

「お」

 アルコールらしいとげとげしさがないのだ。そして香りが口内に広がる。

 どこか懐かしさを感じる、米の香りだ。

 レオ丸もそこまで詳しくはないが、日本酒に適合するお米ではないために香ってくるのだろうと当たりを付けるが、それがまたいい具合で味わいを生み出している。

 そして後味だ。

 甘みを強く感じるというのに、しつこさがない。舌の上にある時はあれだけ香りを感じたというのに、飲み込んでしまうと余韻が仄かにあるだけだ。

 確かに、

「うまいな、コレ!!」

 だがそこには既にキルエリーヒはおらず、彼女とはまた違う美貌の〈冒険者〉が立っていた。

 彼女・・はにこやかに笑う。その美しさに、思わず相好が崩れそうになるが。

「そうすか、ありがとうございます。そちらは主力商品なんすよ」

 表情とその声の差異に違和感を覚える。

(いやいや、義盛の嬢ちゃんの例もある。変な目で見んと)

 レオ丸はなるべく表情に出さないよう努める。

 しかし、あっさりと彼女・・の方から共有される。

「あ、俺は男す。趣味で女装してるんす。だから大丈夫す」

 ……いろいろとダメなのは自分の気の所為なのだろうか。

「ん? てことは……」

 レオ丸と同性ということだ。

 先ほどの笑顔に、少しでも情動が動いたということは?

「……」

 深く深く反省することにする。

 そのため、レオ丸は入れ替わった(・・・・・・)ことに(・・・)気付かず(・・・・)、手元にあったコップに手を伸ばし、ヤケ酒の要領で一気に呷る。

(うん?)

 先ほどとは違う味を舌の上で感じる。

 それは、アルコールであることは間違いない。

 だが、先ほどのような、芳醇さはない。どちらかというと、アルコール独特の荒々しさが先に来る。

 しかし、それ以前に臭う(・・)

 嗅いだことはないが、なんというか、青臭さにも似た、えぐい感じの臭いだ。

 普通に飲めば、明らかに吐き出すレベルだ。

 だが、ヤケ酒の要領で一気に呷ってしまったため、喉奥へと流れこんでしまう。

 そして。


 ――●――


 〈パーティ念話〉を使い、ぼそぼそとしゃべる。

「(……キリーは上手いな、あっさりとすり替えた)」

「(怖いよねー)」

「(センパイ、聞こえてます)」

「(“B液”、どれくらい入れた?)」

「(体重から判断して、およそニ時間くらいと見てます)」

「(〈首無し騎士(デュラハン)〉喚ばれた時はちょっと焦ったけど。

 ……なんでだろう、もう“対応”できてるなぁ)」

「(なんでユン先輩って日頃の行い悪いのに、こういう時は)」

「(……さーて、メアちゃんに)」

「(すみませんホント許してください)」

「(うん、じゃ寝床に運んであげてね)」

「(……ハイ)」


 ――□――


 それは、突然だった。

「うーにゃ?」

 主様(レオ丸)は妙な声を上げ、前のめりに倒れる。

「……主、殿?」

 情けない声を上げる〈吸血鬼妃〉に対して、

「貴様!!」

 アヤカOは一瞬でユストゥスに飛び掛かる。


 先ほどから、主様(レオ丸)に何かしていたのは知っていた。

 それを主様(レオ丸)が受け入れていたことから、様子を見つつ放置していた。

 だが、ことここに至っては猶予も、容赦もない。

 敵の首魁ユストゥスを、倒す。

 主様(レオ丸)を、守るために。

 だが。

「何!?」

 その行く手を阻むのは、誰も触れていないのにふよふよと漂う長大な双剣。

 その二振りからは、明確な敵意(・・・・・)が溢れている。

 その二振りからは、嫌なもの(・・・・)しか感じない。


 そんなものはどうでもいい。


 アヤカOは、自身が絶対に(・・・)勝てない(・・・・)ことを認識する。

 それだけではない。

 今召喚されている全員では、この二振りには(・・・・・)勝てない(・・・・)ことまで分かっていた(・・)

 それでも、何としてでも仇を取らなくてはならない。

 だが。

「〈天割右翼アトモス〉、〈地裂左翼リソス〉、お座り」


 Tips:

  〈天割右翼アトモス〉・〈地裂左翼リソス

  〈幻想級〉、意思を持つ二振りの長剣。

  ……と説明しているが、実際は〈古来種〉の装備していた長剣に〈典災〉を千切って定着させた。

  所有者のユストゥスの他、イアハートと葉月にはなついていて、ハルと♪ヒビキ♪の言うことは多少聞く。


 ユストゥスは漂う双剣を手に収め、アヤカOと視線を合わせる。

 しかしそれを嫌い、じりじりと間合いを詰める。

「……」

 敵の首魁ユストゥスの、柔和に見えるその笑みが。

 今は強大な悪魔のそれに見える。

「うーん、ハル? レオ丸さんの様子を見てくれないかな?

 アヤカOさんは私が彼に近付くことを良しとしていないみたいでね?」

 その言葉に対しても、アヤカOは視線を逸らさず、じっと敵の首魁ユストゥスの一挙手一投足に気を配る。

 おかしな動きをすれば、即座に飛び掛かる。

 例え、敵わなくても。

 例え、左右の二刀で切り捨てられても。

 他の仲間が、自身の想いを継いでくれる、と。


 だが、まだ気付いていなかった。

 他の仲間が、全く動いていないことに。

 アヤカOの悲壮なまでの覚悟は。

 しかし。


「えーと。

 レオ丸さん、寝てるだけなんですけど……?」


 ハルの言葉に、全否定される。

「……はい?」

 聞き間違いかと、思わず主様(レオ丸)の近くにいる狼牙族ハルを見る。

 彼は主様(レオ丸)の首元に手指を当て、脈を見ているようだ。

「専門じゃありませんけど、ちゃんと脈打ってます。結構速いですね。

 息もちゃんと……うわ酒臭っ!?」

 口元に手を当てた際、呼気が狼牙族ハルの鼻先にかかったのだろう、彼は大きくのけぞる。

「多分、だけど。

 実はそのお酒。熟成させたやつなんだけど、結構度数高いんだ。で、一気に飲んだから一気に回ったんじゃないかな?」

「……」


 くたり、とその場で伏せる。

 恥ずかしい。


 確かに。

 確かに主様(レオ丸)はそこまで酒に強くない。加えて、長旅の疲れもあったろう。

 気が抜けて、疲れも出て、そして慣れない酒を飲めば、そうなる可能性もある。

 更に。

 どうやら他の“家族”はそれに気付いていたようだ。

 思い返せば、〈吸血鬼妃〉の声は、情けない声、というより仕方ない声にも聞こえる。


 つい。

 今日の午前中のことを思い出し、血気に逸ってしまった。


「……大変、失礼致しましたユストゥス様……伏してお詫び申し上げます」

「あー、よくあることだから、気にしないでいいですよ、アヤカOさん。もう伏してますし。

 ……しっかし。ふーん、あ、そーぉ。冷静なアヤカOさんがねー。ふぅーん?」


 妙な相手に、妙な誤解・・をされてしまい。

 顔を胸に潜り込ませ、完全に突っ伏した状態になり、胸中でつぶやく。

(……屈辱です……)


 ――●――


 〈パーティ念話〉を使い、ぼそぼそとしゃべる。

「(二液混合バイナリー方式は成功、と)」

「(……後は時間通り(・・・・)に起きるかですね)」

「(起床時間が多少前後する分には問題ないでしょ。

 それより、やっぱり運用を考えなきゃ。あれ臭いし味もひどいから、さっきみたいに不意を突かないとダメだね)」

「(そすね)」

「(あ、オリゼーも?)」

「(うん。この辺の調整はオリゼーくんが一番だからね)」

「(キリーさん、後でデータと規定書プロトコル見せていただけるすか?)」

「(分かった)」

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