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剣呑天秤祭 ザ・アキバ・タイブレイク  作者: オヒョウ【検閲済】
14/66

グラス 九杯目

 ――●――


 実のところ。

 ユストゥスは既に〈月光キアーロ・ディ・ルナ〉だけでなく、アキバの市場においても〈鋼〉がないことは分かっていた。

 だが、設計図だけでも引いてもらわないことには意味が無い。

 地味に差し迫った事態であり、状況なのだ。多少はやっているぞ、という態度を示してくれないと腹が立つ。

 だが、こちらで動けるなら動き、ことを進めたい。

 などと、多少の期待をしていたが、

「……無理そうだね」

 〈念話〉の相手が黙り込んでいる理由を察して、こちらから結論を伝える。

『……うん。どうやっても、今から〈鋼〉は大量に集められないね。

 それに』

 〈念話〉の先、ガーフォードは軽くではあるが声を顰める。


『……ミナミの攻撃方法が分かった。今、アキバが喰らってる。

 その所為で、カラシンさんが動けなくなっている』


 ユストゥスは辺りを見回し、何の異常も(・・・・・)ないこと(・・・・)を確認する。せいぜい、お上りさんが(・・・・・・)やらかしている(・・・・・・・)程度だ。

 呆れたような様子でつぶやく。

「大方、“F5”じゃない?

 ……あー、つまり、……ミナミのアホどもがちまちま事件起こしてる」

 ユストゥスの言葉に、

『ご名答』

 ガーフォードの声はにこやかに答える。

「表が静かだから、“攻撃”とまでは思わなかった。なるほどねぇ。

 ……さて、《円卓》がこれをどう捉えるかな?」

 その言葉に、ガーフォードの声は戸惑う。

『……いや、どういうこと? 忙しいからさっさとボクに教えてよ』

 考える気がないと明言はすごいな、と半ば感心しながら言葉を作る。

「……今、私は“F5”、つまり“DoS攻撃”の一種、と言った。

 まず、この事象はどういうことか分かる?」

 考えないアピールをした割に、ガーフォードは少しだけ考えるようにして言う。

『……理屈は分かるよ。確か、Webサーバに負荷を掛けるために、ブラウザの読み込みをリクエストしまくる、って手法。

 F5ボタンを連打することでページ更新リクエストを連打回数分行うことから、“F5攻撃”の名前が付いた』

 ユストゥスはその言葉に頷きながら、自分の意見を告げていく。

「ミナミは《円卓》というか、〈天秤祭〉の運営部門に負荷を掛けているわけだけど、対応は簡単。Webサーバでの対処と同じで、負荷を分散させるか、Webサーバの強化。

 こちらだと……窓口を増やすか、もしくは事前に、街中を監視して問題を起こしそうな不穏分子をたった切る……のは無理だから、警邏の人員を増やすか、だね。

 いずれもスマートじゃないやり方だけどね。

 ただ、実のところ対処そのものは問題じゃない。なぜこんなことが起きたのか、を考えないと」

『……もう一声』

 しっかり考えているじゃんか、と内心で苦笑し、続ける。

「そんなことをする意図は全く読めないけど、どうにも発想と手法がちぐはぐだ。

 現代日本人は、もはや“F5攻撃”なんてやらない。そんな脆弱なサーバを使用している企業はもうほとんどない。

 ……『バ○ス!!』で落ちるのはしょうがないとしても、だけど。

 だから、そんな発想をしない。というか、そんなことをしても意味がない。

 何しろ、いくら負荷を掛けようが、アキバの経済やら物流には影響、そして阻害の効果がほぼないからね」

 遠回しな物言いに、ついにガーフォードが気付く。

『そういう、ことか。

 ……だから、わざわざ“F5”と言ったのか』

 今行われていることは、アキバへの実力行使ではある。だが、先にユストゥスが触れた通り、アキバには明確な損害がないのだ。同時、攻撃側の得もない。

 失うものもなければ、得るものもない。

 つまり、ことを仕掛ける意味がない。仕掛けている意味がない。

 唯一あるとすれば、“嫌がらせ”に他ならない。

 実際、“F5攻撃”の主な目的は対象としたWebページに接続しにくくなる効果しか生み出さない。

 ユストゥスは一人微笑む。

「でも実際、仕掛けてきている。妙だと思わないかい?」

『……“F5攻撃”が、嫌がらせの一貫だと知っている人間がやっている、とは』

 後ろで〈冒険者〉が糸を引いているのでは、という言葉に、

「考えられるね。でも、それにしては明確さに欠けるし、意志が見えてこない」

 先の通り、明確な戦略目標が見えてこないのだ。

 ユストゥスは視線の先で、屋台の売り子に文句を付けている〈大地人〉を見かける。

 見ていて気持ちのいいものではない。少しだけ眉を顰めるが、まずは口を動かす。

「第一、やっているのは〈大地人〉だろう? 戦術理解度が低いからこそ、明確さに欠けるんじゃない。戦術理解度が低いから、人海戦術しか採用できないんだ。

 指揮官の戦術理解度も低いから、力技を取らざるを得ない。

 ハイ問題。

 戦術理解度の低い人間は総じて」

『プライドだけは一人前だ』

 ガーフォードの声に、ユストゥスは軽く笑みを浮かべるが、

「……先に答えるなよ」

 言葉では不満を表す。

 笑みのまま、続ける。

「つまり、〈冒険者〉からの入れ知恵ではない、ということになる。何しろ、プライドだけは一人前(〈大地人〉)が、ただの暴力機械(〈冒険者〉)の言うことをホイホイ聞くわけない。

 今のミナミの惨状(・・)からすれば、〈大地人〉と〈冒険者〉の関係は険悪だからね」

『それにしては、理にかなった攻撃方法だ。

 少数精鋭に対して、人海戦術は相性が悪すぎる』

「……確かにね。

 ただ、これが本当に〈大地人〉の知恵かと問われると微妙だ。

 ……人海戦術の恐怖は知っていると思う。何しろ、亜人類による波状攻撃や物量による蹂躙の経験は過去から伝え聞いている。だからこそ、“革新派”は領土に固執し、交通の…………あれ?

 それだと、少数精鋭の〈冒険者〉によって救われた、って部分と食い違うよね?

 だって、この世界の歴史では少数精鋭が人海戦術に勝利を収めた、ってことなんだからね。

 ……てことは、やっぱり連中は“識って”いるんだよ。経験や知識じゃなく、歴史でもない。ありえない、しかし正しい“情報”としてね。

 うまい具合に置き換えたものだと、そこだけは感心するよ。

 ……センスは皆無だがね」

 自嘲にも近い言葉に対し、

『……いや、それは仮説だ。それを裏付けることはできない。

 …………できないけど、でも……』

 ガーフォードの声も、自然と小さく、そして歯切れが悪くなる。

 だからこそ、ユストゥスは笑う。

「いや、あくまでここだけの話、と思っておいてよ。私の“世迷い言”ってね。

 表に出ているキミが、そんなことを考えている、なんて知られたらちょっと困ることになる。

 何、汚いことやら何やらは私にお任せ。手慣れたものだよ?」

 その言葉に、ガーフォードの声は笑う。今、ユストゥスが浮かべている表情を見なくても分かる、と言わんばかりに。

『……なんで“お豊”サイドの人なのに“右府”っぽいのかな』

「くはは」

 ユストゥスは、笑う。

 いつも通りの、底意地の悪い笑みを浮かべて。

 〈念話〉を切り、その笑みを浮かべたまま、

「さって、お仕事しますかね」

 先ほどから視界にある、目障りなゴミ(・・・・・・)を片付けに向かう。


 ――□――


 生産系ギルドの裏手だというのに、人の往来は多い。

 ぶつからないように軽く体を逸らしながら、とりあえず大通りを目指す。

 人の流れに逆行しながら、妙なことに気が付く。

 普通、街中では人の流れに一定の動きはあっても、規則正しい、とまではならない。

 だが、今この通りで明確に歩いているのはレオ丸だけだ。

 他の者達は立ち止まり、そして思い出したかのように前へと進む。だが、それも五メートルも行かず、そしてまた停止する。

 まるで何かに並んでいるようだ、と思い、辺りを見る。

 するとそこには、〈お酒のバッカス〉と書いてある。

 店先は見えないが、威勢のいい声が聞こえてくる。

「皆様あっての〈お酒のバッカス〉。

 日頃のご愛顧にお応えして、明日は感謝感謝の大盤振る舞い!! 『オクトーバーフェスト』開催致します!!

 当選確率30%の先行無料入場抽選券は残念ながら完売してしまいましたが、まだ10%は販売しております!!」

 思わず突っ込む。

「スマホアプリのガチャかい!! やったことあらへんけど!!」

 ……するとここに並んでいるのは重課金組、ということなのだろうか?

 そんなくだらないことを思いながら、流石に足を止めて各店舗の屋号、そして列を見る。

 見たところ列は三つある。

 一番長いのは〈お酒のバッカス〉で、折り返し地点が左右で三つある。

 次に長いのは右側、〈ツキカゲ本舗〉の列だ。

 そちらへと向かってみる。

 すると、店頭から先ほどとは違うが、威勢のいい声が聞こえてくる。

「ほんじーつのオススーメはー〆たーての若鳥くしやーき」

 ……威勢がいいわけではなかった。なんというか、妙な伸ばし方だ。だが、なぜか聞きにくいわけではなく、耳に残る。

 同時、日本人には(・・・・・)抗いようが(・・・・・)ない香り(・・・・)が漂う。

 ふらふらと、そちらに向かう。

 だが、

(……あれ?)

 途中で気付く。

(……これ、どっかで嗅いだことあるな?)

 当然だ。これは醤油の焦げる匂いだ。現実の商店街、夕方の精肉店などの前で焼かれている焼き鳥の香ばしい匂いに抗える、空腹の日本人はそういない。

 だが、そうではない。

 つい最近、この《エルダー・テイル》の世界で嗅いだことがある気がする。

(どこやったか……)

 考えながら、ふと屋号を見る。

 〈ツキカゲ本舗〉、そしてその隣には屋台調の店がある。

 どうやら、独特な伸ばし方をして呼び込んでいるのは屋台調の店の方だ。実際、店先には焼き鳥屋にあるような細長いコンロが置かれている。その前では女性が焼き鳥を一心に焼いており、その隣にはもう一人の女性が商品の受け渡しや代金のやり取りを行っている。

 その屋号は『焼鳥専門店〈鳥華族(・・)〉』とある。

 思わず突っ込む。

「パクりやんか!!」

「パクってなーい。味はこっちーの方がおいしーい」

 独特の伸ばし方で反論が来た。

「感想には個人差があるて入れとき!! ていうか語るに落ちとるやんけ!!」

「しーらない」

 再度言葉を掛けようとするが、後ろから肩を掴まれる。

「まぁまぁ」

 その手の主は、ユストゥスだった。

「おはようございます。もしかして、お腹空いてます?」

 その手に引かれるように、体を半回転する。そして、そのまま彼をねめつける。

「なんでそんな流れになんねん。それと、どっからおった?」

「彼女に突っ込まれたところからですけど。

 いや、妙にカリカリしているな、と思いまして。ホラ、お腹空いていると気分が落ち着かないじゃないですか。

 早朝にこちらにいらして、すぐにお休みになったからもしかして、と思いまして」

 後半は概ね合っている。

 レオ丸にしてみると、こういう一瞬の状況だけで概要を把握する、というところが抜け目ない、という評価に繋がる。

 だが、褒めるような真似はしない。

 第一、その状況を当てたからといって、レオ丸の腹は膨れない。

 なんの気なし、とりあえずは状態を口にする。

「そら減っとるけど……」

 すると。

「ちょっと待って下さいね。

 ……おーい」

 あっさりと、店頭で焼き鳥を焼いている女性の方へと向かい、声を掛ける。

「ダメですよーお客さーん。並んでくださーい。

 ……って、オーナーの“ヒモ”さんでしたかー」

 妙な言葉に眉を顰めるが、ユストゥスは全く気にした様子もなく、彼女と話を続ける。

「そうだな……串盛り10本お願い。全部タレで」

「あいよー盛り10本タレー」

 そのやりとりを聞いていた並んでいる面々からは不満が噴出しそうになる。

 だが、機先を制したのは店員の彼女だ。

 忙しく手元の串に刺さった肉を操りながら、口を開く。

「あ、すみませーんこの“ヒモ”の所為で順番狂っちゃいましてー。

 今お待ちの方々には一本サービスしますからー……そちらの女性……あ、いつもありがとうございますー。その方までですねー」

 一瞬で不満が立ち消え、喝采が上がる。

 あっさりとその場を収めた女性の手腕に感心するが、そこはかとない違和感を覚える。


 ――●――


「はいどうぞ。

 (……“買収”予定?)」

「サンクス。

 (……うんにゃ、“エルヴィン”関連)」

「毎度ー。

 (じゃあしょうがない)」


 ――□――


 その違和感を探る前に。

 ユストゥスは笑顔で、こちらに向かってくる。

 そして、

「熱いうちにどうぞ?」

 複数の串が盛られた、笹船のような包みを差し出す。

 忙しく湯気を立ち上らせるそれを受け取らないのも変な気がして、なんとなく両手で受け取る。

 見た目よりも重い笹船と、そこから伝わってくる熱さに少しだけ驚く。だが、やはりこの匂いには抗えない。

 左手で笹船を持ち、空けた右手で一番上の串を掴むと、そのまま口に運ぶ。

 先端の肉はそう大きくなく、串を横にせずにそのままかぶりつく。

「あつっ!! うまっ!!」

 じわ、と溢れる肉汁と、タレの甘さとしょっぱさが一気に口内に広がる。

 前歯だけで噛みつぶせる柔らかい肉に、タレが合う。

 どうやら、売出し中の若鳥の串だったようだ。肉汁を感じられたのは最初の一口目だけだったが、一口よりも小さい肉片であればそれ以上の肉汁を望むのは期待過多というものだ。

 その代わり、鶏の脂はしっかりと感じる。その脂と、タレがよく絡む。

 恐らく、タレだけであればしつこく感じるだろう。だが、鶏の脂と合わさることで後を引くような味わいになるように調整されている。

 旨い。

 すかさず、次の肉を口に頬張る。

 五回の咀嚼で、口内から消え去ってしまう。

 足りない。

 串を横にして、一番下の肉に食いついて、一気にこそぐ。

 口内に二つの肉片が転がり込み、口内が肉でいっぱいになる。

 それでも、十回も咀嚼せずになくなってしまう。

 何も刺さっていない串を笹船に投げ込み、漁るように次の串を掴む。

 確認もせずに口に入れる。

 今度は噛み付いても肉汁を少ししか感じない。だが、その分先程はなかった弾力と、肉本来の味を感じる。

 独特の食感に、正体を胸中で叫ぶ。

(ズリやな!?)

 やや血抜きが甘いのか、少しだけ臭みを感じる。

 だが、不思議な事にその臭みとタレが合う。

 レオ丸本人の嗜好では、ズリは塩焼きの方が好みだ。ズリはやや固めの歯応えと、肉本来の味わいを楽しむには余計な味の少ない塩が最も楽しめるからだ。

 しかし、このズリにはこのタレが最も適切だ。

 やはり先程と同じように串を横にして、一気にこそぐ。

 だが、ズリは固めの部位だ。すんなりとは行かない。

 自分だけの串焼きだと分かっているのに、焦って口の中に入れなくてはならない、と思わせる。

 たっぷりと感触を楽しむと、次の串へと手を伸ばす。

 自分の左手、笹船にしか関心が向かなくなる。


 ――●――


「はいおまちー、若鳥と砂肝、皮五本ずつ。まいどありがとうございまーす!!

 次、焼けるまでお待ちくださーい。

 ……で?」

 贔屓にしてくれる客を捌き、炭をいじりながら、〈大地人〉の女性は目の前の〈冒険者〉に目を向ける。

 いつもの通り胡散臭そうな笑みを浮かべているその〈冒険者〉に対して、いつもの通り女性は物怖じしない。

「支払いは現金?」

「あとで現物渡すよ。それとお願いがあってさ、ここで大きめの鳥を焼くことはできそう?」

 炭の位置と、移動させてきた炭の具合を確認する。

 当然のことながら、火は上に向かって燃える。だから、ずっと同じ位置に置いていれば上のものから燃え尽きてしまう。

 加えて、下の方の炭はそこまで温度が上がりきっていない。上の方は高熱を保ち、下の方はくすぶっている状態だ。だからといって、すぐに上下を入れ替えてしまえば火力が維持できなくなり、焼きにムラが出る。タレ焼きをしているので、どうしても垂れてしまう。それもまた、火力が減衰してしまう原因だ。

 その調整を行うのが難しい。

 だが、

(あたしはもともと竈で煮炊きしてたからね。このくらいは簡単)

 焦った様子もなく、炭を置き換えていく。

「大きさによるけど、できなくはない。でも、数は無理よ」

 配置を確認して、次の串を並べていく。とはいえ、既に軽く焼いてあるので、暖めながらタレを絡めていくだけだ。

「いや、新商品。ただ味付けなんだよね、塩とスパイスを揉み込んだの」

 その言葉に、少し考える。

 タレ焼きを専門にしているが、オーダーがあれば塩焼きもやる。

 しっかり焼くと肉の味が消えてしまうので、タレ焼きの場合はそこそこ火を通すようにする。塩もほぼ同様だが、タレ焼きよりは少ししっかりと焼くことにしている。

 だが、味付き肉となると少々趣が異なる。

 肉の味付けはどんな程度か。どのくらい揉み込み、どれくらい味が浸透しているのか。

 ある程度の完成品のイメージが分からないと、焼き加減も曖昧になる。

「うーん……」

 こういう焼き方を教わったのはユストゥスからだが、彼自身はそこまで技術がなかった。だが、自分の経験と知識とで補うことが出来たので、飲食店としてはあまりいい位置ではないのに繁盛している。

 ……この辺の立地条件、だとか、動線、とかいう言葉はユストゥスとガーフォードが話しているのを聞いただけでよくは理解していない。ただ、人の通りは少ないだろうな、という印象だけはあった。

「“壺抜き”した鳥? あれの要領だとすると、とにかく火を通すのが難しいんだけど?」

 タレが落ちて、じゅう、という音が辺りに響く。同時、香ばしい香りが広がる。

 この炭火で、鳥をまるまる焼く、というのはまず不可能だ。

 中にまで火が通らない。焼き鳥くらいであれば遠赤外線、とかいう効果でふっくらと焼きあげることができる。だが、まるまるだと分厚すぎる。

 だが。

「そっちは半ばクリア。ただ、この状況じゃ量産まで行けないから困っててね。

 で、半身くらいなら逆に焼き方を変えて対応しようかと考えていてさ」

 意図は分かった。

 結局量を焼かなければならないようだ、ということも。

「で、肉は?」

 見たところ、棒きれを持っているだけで、それ以外はない。

 とはいえ、彼のいるところはここからそう遠くない。むしろ15歩くらいだ。

「あ、忘れてた。後で味付けしたのを持ってくるから、ここで焼いてみてくれないかな?」

「分かったわ。

 ……ねぇ、それって、鳥の丸焼き、ってことよね?」

 こちらに背を向けていたユストゥスは、振り返ると頷く。

 そこには困ったように眉を下げた表情が浮かんでいる。

 どうやらこちらの意図が伝わっていないようだ。

「ここで焼くのはいいんだけど、そうじゃなくて。

 今回の『お祭り』ではどうするの?」

 ユストゥスは体を半回転させ、再度こちらに向かってくる。

「……実はそれも込みで聞いてみたんだけど」

 まだ何か言いたそうにしていたが、手のひらを向けて遮る。

 それだけの価値があることだからだ。

 だから、伝える。


「あたしに案があるわ。このコンロで、大量に鳥の丸焼きを焼く方法」

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