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第二話「雨(2)」

 三日前に降り始めた雨は、一度も止むことなく降り続いていた。時々、雨脚が弱くなったり、反対に強くなったりするぐらいで、雲は相変わらず空を覆っていた。増水した河川や、各地で起こった土砂崩れの被害は絶えず、世間はこの雨のせいか、どことなく鬱々とているようだった。

 今年の夏は猛暑になると言われていたが、幾らか冷たい雨のせいで気温は下がりつつあった。

 男は撮りためた写真の整理をしながら、コーヒーを飲んでいた。ここ数年でアルバムが二冊に増え、未整理の写真もかなりの量になっていた。

 公園で撮った写真、バスで少し遠くに行った時の写真、それに近所の人にせがまれて撮った写真が主だった。男が公園でよく合う老婆の写真が数枚でてきておもわず苦笑した。それ以外にもいくつか気に入った写真を選んで、アルバムに入れた。残りは捨てるのも忍びないのでダンボール箱に無造作にため込んである。

 いつかそれも整理しなければならないと思いながらも、放置してある。

 趣味が充実する事が、仕事の充実に繋がっているというのが男の考えで、実際に上手くいっているといって良かった。

窓の外の雨は滝のように地面を濡らした。このまま雨が降り止まなければ、海になってしまう。そんな事を男は考えて、冷たくなったコーヒーを飲み下した。雨の音は少しだけ緩まった。


 女が週末に計画していた夫との旅行は、夫の仕事の都合で中止になった。何度も頭を下げて謝る夫を見て、女は逆に申し訳なくも思う。女はこの旅行が本当に楽しみに思っていたのかどうか、既に判らなくなっていた。本当は、この旅行を楽しみにしているという演技をしていただけではないのか。そして、その事が夫を酷く騙していたのではないかとさえ思えた。

 夫は、その不器用なまでの優しさで、絶対に埋め合わせをすると言った。そして、もし女が良かったら一人で旅行に行くのはどうかと。女は迷ったが、夫の優しさに応える事で、この馬鹿げたやりとりに決着をつけたいと思った。

 旅行の日は、あいにくの雨だった。女は邪魔にならないように荷物を減らし、真っ赤な傘を差して家を出た。バス停まではそれほど遠くない。旅行中、夫は気を使って電話を寄こさないだろうと思ったので、夫にメールを送って、家を出た事を伝え、今晩の夕食の作り置きがあることも書いた。

 女は、この旅行の意味を考えてしまい、後悔しかないことを思い出す。夫なしのこの旅行は、演技をしなくてもいいので気軽ではあったが、女は旅行を楽しもうなどとは全く思えなかった。

 雨がさっきよりも激しく地面を打っている。



 

 


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