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第三話 水面虚栄

「早く紙を放せ。

 破けたりしたら俺との会話が出来なくなるぞ」

「そうなのか。

 ならもう文は読んでもらえたと思って話をしてもいいのだろうか?」

 文? 

 まさかあの分厚い文の差出人か?

「お前が水面虚栄か?」

「おお、そうだ。オレが水面だ! 

 今日伺う様に先だって文を送っておいた――」

「そうか。一行も読まずに燃やしてしまったが、まさか本人が訪ねてくるとは思ってもいなかったぞ」

「な! そんな。燃やしてしまうとかありえない。

 あれには帝様からのありがたいお言葉が沢山詰まっていたのに。

 更に言えばあれを書くのに丸二日使ったのだぞ!!

 どうしてくれる」

 ……どうでもいい。

 お前の費やした時間など屑籠にでも捨ててしまえ。

 別に俺の時間が無駄にされた訳ではないからな。

 と言うかコイツと喋っている時間が勿体ない。

 切り上げるか。

「どうもしてやれないから。

 それまでだな。

 要件は無いようだからこれで終わりで良いか?」

「ちょっとまってくれ。

 オレはまだ要件を言っていない」

「だったら早く言え。

 俺の時間を無駄に浪費するな」

「ならオレの費やした時間を返せよ!」

 まあそれは無理だな。

 仕方ないから聞いてやるよ。

「わかった。なんだ」

「話に聞いていたが本当に自分勝手な人だな」

 誰がそんな事を言っていたのか大体見当はつくがそれをお前に言われると腹が立つな。

「俺は別にお前の要件を聞かなくてもいいのだがな」

「それは困る。

 ものすごく困る。

 そしてオレの首が飛ぶ」

「へえ、そうかい。

 斬首される所を俺が見に行ってやろうか?」

 別に俺の首が飛ぶわけじゃないし。

 俺は痛くもかゆくも……

「その時は行平殿。

 貴殿もオレの隣に並ぶ事になるのだがそれでもいいのか?」

「どういう事だ?」

 そもそも俺に何の関係がある。

「そうだな。どこから話すべきだろうか……

 行平殿。今涼の都を騒がせている鬼の存在を知っているか?」

「……いや。初耳だ」

 そう、俺が派遣され、住んでいる場所は涼から三つも山を越えた場所にある。

 手紙か人が伝えに来ないと涼で起こっている事件なんて伝わる筈もない。

 手紙なんて書いて送ってくるのは文官の叔父上くらいだ。

 いい加減煩いので読まずに燃やしているが。

 鬼が出たなどと言う話は一切書かれていなかった。

 昼間不用意に文を燃やしてしまった事が悔やまれる。

「取り敢えず中へ入って来い。

 話を直接聞きく」

 門に着けていた式神に命じて閂を外させ門を開け放つ。

「おお。一人でに門が開くなど本当に面白い!」

 なるほど。

 コイツは霊視が出来ないのか。

 霊視――妖怪や霊などを見る力。

 陰陽師に必要な才の一つだ。

 だが、霊視出来ない人間の大半は俺の術の力を恐れる。

 しかし、この水面とか言う男は怖がるどころか楽しんでいる。

 こんな輩は初めてだ。

 やっぱりコイツは変わってる。

「お前が掴んでいる紙を放せ。

 それに道案内をさせる」

「分かった。お願いするぞ」

 俺は紙を操り水面を今まで先導する。

 数分後。

 紙を通して見た男が目の前に立っていた。

 背は高く女人に人気がありそうな涼やかな顔つきをしている。

 俺が座るようにすすめるとゆっくり腰を下ろした

 男色のけのある者ならそばに置きたがりそうな顔だ。

 俺にそのけは無い。

 俺の式神を見て分かるだろ? 

 俺は女が大好きだ。

「俺がこの屋敷の主――杉野行平だ」

「オレは水面虚栄。

 件の酒膳童子討伐の責任者をしている」

 ほお。

 その若さで責任者を任せられるなどよほど上からの信頼が厚いか。

 それとも不要になったから消されるかのどちらかだろう。

 それより気になるのはコイツの首だけではなく俺の首まで飛ぶという事の方だ。

 一体どうなっているんだ。

「なぜ俺の首まで飛ぶのだ?

 それにだ、俺なんかに鬼が倒せる訳がないだろ?」

 何の関わり合いもないはずだ。

 コイツとの面識もないし、何より俺は陰陽院を書類上は最下位で卒業している。

 そんな落ちこぼれ君に鬼が倒せる訳がないと陰陽院連中が騒がないわけがないのだが?

「確かに、書類だけを見れば行平殿の無能っぷりを嫌と言うほど感じ取る事が出来ました……

 ですが、それが逆に不自然だった事と道雪様から伺った人間像と違和感を覚えこうして会いに来たのです」

「お前、道雪の知り合いか?」

 懐かしい名だ。

 久しく聞いていなかったが。

 まだ生きていたのか道野道雪。

 俺の幼馴染にして俺をライバル視する困った女。

 よりにもよって道雪に話を聞いてきたのか。


明日0時に更新します。

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