第二十五話 東門へ
「うるさか! デカブツ!!
目玉を潰されたくらいでギャアギャア騒ぐんじゃなか。
正兼が起きたらどうしてくれんのさ」
うわ声でか! 誰だ。
長い黒髪を靡かせながら、幽鬼のように現れたのはホムラだった。
ホムラの手には二本刀があった。
鶯色の鞘に収まった刀と黒漆の鞘に収まった刀を手に持った
その表情は怒りに染まっている。
彼女の纏う雰囲気は夜闇以上に黒く重い。
「何だ、テメェは!」
「うるさかね。
今度その口下品な口を開いたら……
ただじゃすまんけんね。
行平様、正兼からの餞別や。
もらっとかんね」
ホムラは黒漆の鞘に収まる刀を俺に手渡す。
「これは前々からアンタに正兼が贈ろうと思っていた刀やんね。
大切に使ってよ」
ホムラは俺に背を向け、鶯色の鞘から刀を抜き放ち、鬼に向けて構える。
「行平様。
はよ東門にいかんね。
ここはうちが引き受けるけん」
「大丈夫なのか?
俺もここに残って二人で討伐した方がいいんじゃないか?」
俺の問いにホムラは鼻で笑う。
「うちを造ったのは何処の誰ね?」
俺はその答えに少し笑ってしまった。
そうだった。
コイツは正兼の為に造った式だが、製作者は俺だったな。
まったく。
俺の造った式はどいつもこいつも我が強くて困る。
「分かったよ。
じゃあ後は任せるけど、無理はするなよ」
「わかっとうさ。
正兼の安眠はうちが守ってやるけん」
俺は東門を再び目指して、走り出した。
東門へ近づくにつれて、濃い霧が俺の前進を拒む。
数歩先さえも見えないほど視界は悪い。
それになんだ?
やけに体が重い。
それに息苦しいな。
空気が淀んでいる気がする。
瘴気か?
俺は口元を袖で覆う。
もう遅いかもしれないが、しないよりましだ。
結界が破壊された以上、それは想定出来る事の一つだ。
涼の四方結界は、瘴気、悪霊、妖怪、疫病などから涼の都を守るための物。
それを破壊した上で、瘴気を都に流し込んでいるのだから性質が悪い。
「なんだよ……これ……」
あの鬼が言っていたように、東門は全壊していた。
俺達が一昨日通った頃に見た。
あの雄大で堅牢な作りをした門の姿は跡形もなく、門の瓦礫だけがそこにあった。
東門警備のためにいた陰陽師や武士達の姿は無い。
死体が無いという事は食われたという事で間違いない。
東門の奴らは大量の瘴気を浴びて動けなくなっていた所を襲われたんだろう。
「誰かいないか!
安綱どこだ。
助けに来たぞ!
返事をしてくれ。お願いだ!!」
どこにいる?
―――――!!
ん?
微かにだが、瓦礫の向こうで刀が打ち合うような音が聞こえた気がする。
俺は足元に注意しながら、瓦礫を上って行く。
「はあぁぁぁ!!」
居た! ボロボロにやられているが間違いない安綱だ。
だが……あの男はだれだ?
安綱の前方は、茶色い頭髪の男が立っている。
その口元にいやらしい笑みを浮かべ、その男の雰囲気が強者の余裕を垂れ流している。
――コイツ!
「まだやるのかね?
私はもう飽きてしまったよ人間?
時間も無いようだし、そろそろ死んでくれるかい?」
荒野!!
間違いない。
あの時の風景に写っていた男だ。
コイツが藤乃を陥れたヤツか!
中々に悪そうな顔をしている。
荒野は刀を振り上げる安綱の刀を素手で掴み折り、安綱の腹部に右足の蹴りを入れ吹き飛ばす!
地面をゴロゴロと転がり、盛大に瓦礫に突っ込んだ。
モクモクと土煙が立ち上る。
力の差は歴然だった。
妖怪と人間の力の差。
この埋めようのない両者の力関係は決して覆る事はない。
故に人はその差を埋めるために陰陽術を作りだしたのだ。
俺は手を突きだし、荒野へ狙いを定めた。
「陰陽道術・十三――光射――」
眩い光弾が荒野の顔面、腹部、脚部、腕に吸い込まれるように当たって行く。
全弾命中だ。
久しぶりに陰陽道術使ってみたけど中々上手くいってよかった。
これで注意を俺に向ける事に成功したぞ。
「ふむ……人間風情が。
この私に何かしたかね?」
ジロリと赤い瞳が俺の姿を捕らえた。
おいおい。全然効いてないなんてウソだろ?
少しは痛がれよ!




