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第二十話 藤姫

二日も更新を休んでしまい。

毎回楽しみにされている方には大変、申し訳ありませんでした。

「おい、どこに行くんだよ。藤乃!」

 俺は立ち上がり、藤乃の後を直ぐに追う。

 玄関の戸は開けっ放しになっていた。

 くそ、どこに行ったんだ?

 まさか、大賀山にむかったのか?

「行平、藤乃はいた?」

「それが見当たらない。

 俺は辺りを探して来る」

「全員で探した方が効率は上がるわよ。

 他の子も呼んでくるわ」

「ダメだ。

 俺があの紙にかけた術は一度しか見る事が出来ないんだ。

 だから、明日の為にも目に焼き付けておいてくれ」

「分かった。

 見終わったら直ぐに駆けつけるから」

 俺は稲穂に見送られるかたちで屋敷を後にした。

 

 ――いない。

 あれから涼中を探し回って見たが、見つからない。

 一体どこに行ったんだ藤乃は。

 俺は、一度屋敷に戻る事にした。

 もし、藤乃が大賀山に向かっていたとしても直ぐに捕まえて連れて帰ってくることが出来るからだ。

 涼を流れる河川の一つ。

 鴨の川・八条戻り橋に指しかかった時。

 橋の欄干に寄りかかるようにして蹲まっていた。

 藤色の髪をした少女に視線が行く。

「探したぞ藤乃」

 俺の声に顔を上げた藤色の髪をした少女。

 彼女はいつもの人を見下したような表情で俺を見る。

「遅いわよ。行平。

 私を待たせるなんてどういう神経しているの?」

「お前が勝手に出て行ったんだろ!」

「うるさいわよ。

 私の勝手でしょ――っ!」

 蹲っていた藤乃。

 何故か欄干に掴まりながら立ち上がっているのだ。

 明らかに不自然だ。

「おい、どうしたんだ?

 足……捻ったのか?」

 俺は藤乃の足元に膝を折り、着物の裾を少し上げる。

「このいきなり何をする!

 無礼者め!!」

 同時に右膝が飛んで来た。

 無礼者って……

 それを片手で受け止めて、はれ上がっている右足首に手を伸ばす。

 足首を掴まれ、声にならない声を上げる藤乃。

「~~~~っ!!」

 見れば履いている下駄の鼻緒が切れていた。

 これなら、転んで足を捻っても仕方ない……

 あれ、この下駄は――

 そうだ。

 この下駄は俺が藤乃を式神にした時に買い与えた物だ。

 下駄には無数の傷が入り、鼻緒は痛んでいた。

 もう買い替え時だな。

 俺が下駄を与えた時は鼻で笑われ。

 『私を馬車馬のように扱うという事?』

 そう言われたけど。

「大切に履いていてくれたのか」

「なに人の下駄を見てニヤニヤしているのよ。

 いやらしいわね……」

「うれしいんだよ。

 そうだ、藤乃。

 お前動けないだろ。

 おんぶしてやろうか?」

「ばっかじゃないの!

 絶対に嫌よ!!」

「痛んだろ?

 じゃあ仕方ないじゃないか。

 大丈夫だ。

 誰も見て笑うやつはいないさ」

「したいのなら……いいわよ」

 相変わらず可愛くない藤乃だった。



 俺は藤乃を背中におんぶし、手には鼻緒の切れた下駄を持ち屋敷をめざす。

 藤乃との会話は中々弾む事はなかった。

 どうしようか。

 聞いた方がいいのか?

 あの荒野とか言うやつの事を。

「聞かないの。行平」

「なにを?」

「……荒野の事」

 そう思っていたら。

 藤乃からその話を振って来た。

 どう答えた物か。

 あからさまに食いつくのもおかしいよな。

「お前が話してくれるまで待つさ。

 自分の中で整理がついたら教えてくれ」

 俺もいきなり複雑な事を言われても困るし、何より藤乃が言いたくないのなら仕方ないだろ。

 長い静寂が続く。

 微かに震える声で藤乃は口火を切った。

「行平……

 鬼酒の話はお前にしたわよね」

「ああ。毒酒の事だろ?

 人が飲めば死に至る。

 もしくは鬼になるんだろ?」

「ええ、そうよ……

 私は――

 その毒酒を荒野に飲まされ……

 鬼になったの」

 藤乃は時々言葉に詰まりながら、言葉を選びながら俺に自らが犯した罪と己の浅はかさを。


 その昔、涼から東にある都に藤姫と呼ばれる美しく、嫉妬深い姫が居た。

 その美しさに誰もが魅了され、涼の貴族達は気品溢れる彼女を羨んだ。

 貴族や商家からの婚姻が後を絶たなかったという。

 藤姫はその全ての婚姻を自分に釣り合わないと拒否した。

 そんな藤姫には、意中の人が居た。

 下級武家の嫡男で名を合口あいくち 又造またぞうという男だ。

 当時の涼で一番の男前と呼ばれるほど顔がよかった。

 藤姫は幾度となく又造に言い寄ったが、首を縦に振る所か相手にする事もなかった。

 美女、天女ともてはやされる藤姫を。

 だがそれにもちゃんと理由があった。

 又造は不細工びじんが好みだった。

 自分よりも容姿が劣る者が好みだと知った藤姫は当然、その事に怒り狂った。

 そんな藤姫の元に一人の男が現れる。

 名を荒野と名乗った。

「あの男を自分の物にしたくないか?」

 男は藤姫にそう持ちかけた。

 藤姫は欲に眩んだ目で男を見てこう言った。

「どうすれば私の物に出来るのだ?」

 男はニタリと口元を歪め。

 腰に下げている瓢箪から杯に黒いドロドロした液体を注ぎ藤姫に差し出す。

「これを煽れば、君は更に美しく、気品ある女性になるだろう」

 藤姫はその言葉を信じ、その杯を煽った。

「――っう!!」

 襲ってきた強い吐き気、それから激痛。

 藤姫はそれを吐き出そうとしたが、男の手がそれを阻んだ。

「痛くて苦しいだろ?

 教えてやろうか、それはそう言うモノだ。

 君が今煽ったのは人にとってはただの毒でしかない。

 しかも猛毒だ。

 だが、もしかしたら君が初めての成功例に成るかもな。

 並みの人間以上に嫉妬深く、浅ましい君なら」

 口元を更に歪め高笑いする男。

 藤姫は遠のく意識の中、その笑い声を聞いたと言う。

 次に藤姫が意識を取り戻した時には、全身血塗れだった。

 目の前には又造の変わり果てた姿があった。

 訳が分からずに恐怖に振るえる藤姫。

 また男が現れた。

 男の頭には二本の突起物・角が生えていた。

 その事に恐怖する藤姫。

 怯える藤姫を見てせせら笑う男。

「おめでとう藤姫。

 君は低俗な人間から高貴な鬼へ昇華する事が出来た初めての個体だ」

 言葉を失う藤姫を余所に男は話を続ける。

「君が煽ったあの黒い液体は鬼酒と言ってな。

 鬼だけが飲むことが出来る毒酒だ。

 あれを人間に飲ませ、悶え苦しむさまを見て笑うのが鬼は好むのだが。

 まさか、鬼に昇華するなんてな。

 さあ、祝おう新たな鬼の誕生に」

 男はまた腰に下げている瓢箪から鬼酒を杯に注ぐと今度は自らが煽り、藤姫に杯と瓢箪を投げやる。

 藤姫は強い喉の渇きに襲われ、瓢箪に直接口をつけて煽った。

 藤姫の体は鬼酒を飲めば飲むほど、人の体からはかけ離れて行った。

 角が生え、顔は厳つくなり、体色が赤黒くなる。

 更に体が今までの五倍も大きくなっていた。

「いい飲みっぷりだ、藤姫。

 だが、まだ渇きは癒えないだろう?

 その渇きは破壊衝動だ。

 そうだな……。

 まずはこの都を焦土と化すことから始めるといい」

 男は笑い。

 姿を消した。

 鬼と化した藤姫はそのまま住んでいた都を滅ぼした。


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