第二話 夕餉の来客
「行平様。夕餉の準備が出来ました」
なんだサユリ、居なくなったと思ったら夕餉の準備をしていたのか。
そうか、もうそんな時間か。
顔を上げると空は茜色に染まっていた。
今日はここまでか。
暇な時にやれる事はやっておきたいのにな。
「わかった。ここを片付けたら行くよ。
ヒサゴもう終わりにしよう」
「それが我が主の望みならば」
ヒサゴは相変わらず固いな。
もう少し砕けた言い方でも良いと思うのだが。
まあ、本人が言いたいのだからそれでもかまわないか。
剪定の切り屑を一カ所に集め、使った道具を土蔵に置きヒサゴと共に居間に向かう。
居間には藤乃、サユリ、カエデが定位置に座り俺達の来るのを待っていた。
流石に腹が減った。
全員揃った所で食事を始める。
「遅いわよ行平。もう少し遅かったら迎えに行く所だったわ。
お前の分の夕餉をたいらげてね」
夕餉を食べ始めて間もなく隣に座る藤乃がそんな事を言い出した。
俺にかまって欲しい時はいつもだ。
まったく可愛いやつめ。
「そうか。でもあまり重くならないでくれよ」
「煩いわよ。それに式神が太るわけないでしょ!」
まあそうだな。
だが分からないぞ。
「うう……ヒサゴ。今日のおかず一つあげる」
身を切られるような思いと言うのか。
そんな顔で焼き魚を半分にするとヒサゴの皿へ持っていく。
「……いらぬ。我が主の為に」
サユリの隣に座るヒサゴはそれを手で防いだ。
サユリは泣きそうな顔をしている。
一体何をしているんだ。
式神とはいえちゃんと栄養を取らないといざと言うときに動けないだろうに。
まさか俺と藤乃の会話でそんな事をしているのか?
それなら気にしないで良いだろう。
「サユリ。お前は太らないよ。
逆に栄養が違う所に行くから大丈夫だ」
まあ主に胸だが。
俺が使役している式神の中で一番サユリは胸が大
きいい。
そう、俺の願望がサユリを形作っているような物だ。
「え? でも、そうでしょうか」
「ああ、そうだとも。俺好みの身体つきだよ。
だから気にしないで食べてくれ」
サユリは頬を紅くして食べ始めた。
だが、今度はサユリの隣に座るヒサゴがモジモジし始めた。
「その……どうだろうか。我が主」
何がだろう?
ヒサゴは俺の意志を察してくれる気の利いた式神だが、何分口数が少なく俺の方がヒサゴの意思を汲み取ることが出来ない事が間々ある。
この話の流れからすると体型の事を言っているのだろう。
「今日も良く動いたからな。脂肪になることはまずない。
だから大丈夫だ、安心して食べてくれ」
「はい。我が主よ」
ヒサゴの止まっていた箸が動き出す。
俺も食事を続行する。
「ふん。私には言った事の無い言葉ばかり並べて……」
なにか藤乃がモゴモゴ言っていたが聞こえなかった。
「何か言ったか?」
「な、何も言ってないわよ!」
「そうか。ならいいんだが」
「喧嘩売ってるの? 三割増しで買い取るわよ」
「なんでそう――ん、誰か来たな」
俺は懐から人型に切られた紙を取り出し、それに息を吹きかけ術を掛ける。
紙は一人で起き上がり、玄関へ飛んでいく。
「さて、誰が来たのかな?」
俺は食事をしながら紙が辿り着くのを待つ。
俺の右目に紙の見た映像が流れてくる。
どうやら玄関についたみたいだな。
おや?
玄関には居ないようだ。
なら門か。
そう言えば中から閂をしていたな。
『御免! ここは杉野行平殿のお屋敷で間違えないか!』
武官が着るような着物を着た男が門をドンドン叩いていた。
屋敷の門は太鼓ではないのだが……
まあいい。
何しに来たのかはおおよそ見当がつくしな。
「おい。何の用だ」
紙を通して声を出した。
いい加減煩い。
「うおああぁぁぁぁあ!!」
門を叩いていた男は情けない声を上げ地べたに座り込む。
ああ、もう煩いやつだな。
「叫んでないで要件を言え。
要件を言ったらさっさと帰れ」
俺の声が宙を浮く紙から発せられた物だと解ると男は立ち上がる。
「おお、これが陰陽術と言うやつか。
一体どうなっているのだ?」
宙を浮く紙を掴むと繁々見つめる。
顔が近い毛穴まで見える。
「鼻毛出てるぞ」
「本当か。本当に見えているし、オレの声も聞こえているのか! はは、すごい。すごいぞ!!」
子供のように燥ぐ男。
それを見て少し驚く俺。
そして俺は直感する――
コイツは変わり者だと。
黒鉄と同時進行でやって行きますが、黒鉄を優先して書いていきます。
明日は0時にお会いしましょう。