第十九話 偵察隊の成果
剪定を終わらせて、ヒサゴと縁側で休憩していると大賀山に放った式神が続々帰って来た。
予想通り、夕餉までには放った式神が全て帰ってくる筈だ。
俺は帰って来た順番に術を解き、元の一枚の紙に戻していく。
「これが明日役に立つのですね、我が主よ」
「そうだ。
もう少し時間があると思ったのだが、そう悠長な事も言っていられないようだからな」
道雪の話では毎日のように貴族の屋敷が襲われ、金品や若い娘、女中をさらわれる被害が続出しているらしい。
その為早急に対処しなくてならないらしく、明日の討伐と相成ったそうだ。
まあ、早く帰れるからいいのだが。
「行平様。夕餉の準備が整いました」
「ああ、直ぐ行く。
サユリこの紙を居間に持って行ってくれ。
俺は片付けと残りの式神を回収してからくるから」
「はい。
分かりました」
俺から紙を受け取り、一礼して下がるサユリ。
「じゃあヒサゴ。
片付けて夕餉にしようか」
「はい。我が主よ」
使った道具を土蔵に直し、ヒサゴと剪定屑を片付けていると。
放った式神が帰ってくる。
なので、俺は主に式神の対応に追われ。
その後の片づけの殆どをヒサゴに押し付けてしまった。
「遅いわよ、行平!
夕餉が冷めてしまうわよ!!」
居間で元気よく出迎えたのはサユリではなく藤乃だった。
昼間動き回ったお蔭で腹が減っているのだろう。
先に食べていても良かったのに。
俺が食卓に着くと皆箸をつけ始める。
「そう怒るなよ、藤乃。
明日の段取りに忙しかったんだよ」
「明日? なんの話よ」
「明日は鬼退治に行くって話さなかったか?」
「初耳よ!」
「そうか。なら今言った。
皆もいいか?
明日は酒膳童子討伐に行くから」
藤乃以外からの不満の声は上がらなかった。
夕餉を終え、使った食器を片づけてヒサゴとサユリが戻って来るとようやく作戦会議をはじめる。
俺は最初にサユリに渡した紙と俺が新しく回収した紙を床に並べ再び術を掛けた。
真っ白な紙達に式神の見た風景が映し出される。
「本当に行平様はすごいです」
「こんな物見た事ない……流石我が主」
ヒサゴとサユリが驚きの声を上げ、カエデは食い入るように見ている。
稲穂と藤乃は特に感想もないようで。
並べられた紙からの景色にから目を放さない。
景色は物凄い速さで移り変わって行く。
映し出されるのは鬼達が昼間から酒を煽る光景や、花札をする光景。
まるで人間のような事をする。
「あ、この方は討伐隊の生き残りでしょうか?」
サユリが次に映し出された武士と鬼との戦闘。
武士の鎧は壊れ、全身傷だらけだ。
鬼は容赦なく持っていた金棒で武士を叩き殺した。
討伐隊の武士たちが帰ってこないのは、捕まりって嬲り殺されているからか。
酷い事をしやがる。
次は鬼達が集まる部屋に景色が変わる。
鬼達が取り囲んだ中心には、女性が手首、足首を縛られ、手首は天井の柱から吊るされている光景だった。
女性の足元には茶色い大きな瓶が一つ。
何処からかさらわれて来た貴族の女性か?
なにが始まるんだ?
「まさか、これは――
鬼酒を造ろうと言うの!」
藤乃が驚きの声を上げる。
その顔は俺が今までに、見た事が無いほど怒りに染まっていた。
「藤乃、鬼酒ってなんだ?」
「鬼が好んで飲む毒酒の事よ……」
鬼は泣き叫ぶ女性を瓶の中へ徐々に下ろしていく。
瓶の中にはドロドロの黒い液体が入っている。
その中に吊るされた女性を足から沈めていく。
吊るされている女性の足が液体に付けられると同時に溶けて液体と同化してしまう。
悲鳴を上げながら悶える女性の姿に鬼達からは歓声が上がる。
なんだよ……これ。
「鬼酒の原料は人間の女性。
鬼酒の入った瓶に生きたままの女性を足から入れて溶かし、その悲鳴と涙で鬼達は力をつけ、その絶望と憎しみが鬼酒になる」
鬼達は別の部屋から男を連れて来て抑え込み、男の口を無理矢理こじ開ける。
他の鬼が杓子を突っ込んで瓶の中をかき混ぜ、鬼酒を杓子から溢れるくらい取り出すと抑え込まれている男の口の中へ流し込む。
「もし人がそれを飲めば、内側から爛れ、溶かされ死ぬか。
珍しい場合は鬼になるわ」
男が吐けないように鬼は口を押えた。
男は身悶えながら蠢き途端に動かなくなった。
その後も悲惨な景色の数々に嫌気がさして来た時だ。
更に藤乃の顔が険しくなったのは。
「荒野――
やはりお前の仕業か!」
この部屋の上座に座る茶色い毛髪の男が大きく映し出されると藤乃が声を荒げた。
普段の藤乃からは考えられない声色に俺は少し驚いてしまう。
「どうしたんだよ、藤乃。
お前らしくもない。
知っている顔だったのか?」
「……アンタに関係ないわよ!!」
そう言い残し藤乃は居間から出ていってしまった。




