第十五話 里桜・呪い祓い
「里桜様の体の具合はどうですか?」
「それが、悪化するばかりなのです。
どうか里桜様をお助けください。道雪様」
ここは内裏・里桜のいる部屋の前だ。
今、道雪が女官の一人と話していている。
内裏に入ってから本当に男に出くわさない。
本当にここは男子禁制の場所なんだな。
「分かっているんだよ。
だから今日でこの苦しみから解放するために知り合いの陰陽師を連れてきたんだよね行房さん」
クソ。
なんで俺がこんな目に……
道雪から内裏が男子禁止という話を聞いて里桜の所に行くことを断念し話紙による口頭での援護をしようとした。
が……
「誤った術の解き方をしてしまったらそれこそ命に関わるでしょ!」
そう道雪に言われてしまい。
最終的に俺が女装して内裏に向かう事になった。
女装に抵抗のあった俺を道雪はニヤニヤしながら。
「大丈夫だよ。
行平は女顔だから女装して行けばなんとかなるよ!」
そう言い通しやがった。
人の命が掛かっているから仕方ないと割り切ったが……
正直気色悪いわ!!
着物はそのままに、結っていた髪を下ろし、細かい髭を剃り、化粧を施された。
唇が紅でベタベタして気持ちが悪い。
最後に胸に手ぬぐいを丸めて詰め込んで、行平=女装・行房さんが完了する。
名前は道雪のバカが決めた。
声質も術で女性のような声に変えている。
唯一気になるのは本当にバレないか――
そういう事になる。
「お待たせしました。お茶――」
丁度よく虚栄がお茶を持って帰って来た。
「よう。虚栄どうだ。女に見えるか?」
虚栄は答えなかった。
表情が固まっている。
これは余程強烈のようだな。
「…………」
「ダメだよ、行平。反応がないんだよ」
試す前からわかっていた事だろ。
そもそも俺に女装なんて似合うわけがないだろ。
「だから言っただろ俺は――」
「え! 行平殿なのですか?」
俺と道雪が言い合いを始めてすぐに固まっていた虚栄が驚きの声を上げた。
今頃か!
「男に見とれてしまった自分を殺したい……」
「おいおい。そんな事で死ぬなよ!」
「これではっきりしたね。
虚栄が女性と見間違ったんだからこれは剥かれるまで分からないよ!」
そのままのノリで、里桜の部屋に向かったのだが引き止められることなくここまで来ることが出来た。
不思議だ。
普通気づけよ。
「ほら行房さん入りますよ」
俺は戸の前に立つ女官に頭を下げて中に入る。
どんよりとして重い空気が充満していた。
「なんて瘴気だ」
その発生源は明らかに部屋の中央で寝かされている長い黒髪の少女。
彼女の口から吐き出されているのが分かる。
歳の頃は俺と変わらないか少し上だろう。
年頃だというのに頬は痩せこけ、彼女の肌に張りはなかった。
目に見えて衰弱している。
俺はすぐさま掛けてある布団を捲り全身を見ていく。
「道雪やはりこれは呪いだ。
今日、解除しなければこの子の命はあと一日しか持たない」
呪印が体の表面に浮かび上がらないのは当然だ。
腹の中に呪印が見えているからな。
まあ、道雪には見えなかったようだが……
恐らく呪いのかかった物を食べたからだな。
「――助かるの?」
泣きそうな顔で俺を見る道雪。
そんな顔をするなって。
「ああ、大丈夫だ。ただな……
腹の内部から呪いを取り出さないといけない」
「お腹の中?
どうやって取り出す気なの?」
まあ、普通は表面に浮き出ている呪印に手を当てて剥ぎ取る。
だが内部に呪印がある場合は――
「道雪……
龍神の涙って知っているか?」
「当たり前なんだよ。でも……」
龍神の涙はあらゆる呪や病、けがを消し去ってくれるすごい力を持った水だ。
龍神の涙を手に入れるには竜神に会い直々に貰うほか方法はない。
故に入手が困難なのだ。
だからこそ、偽物が多く出回っている。
もし本物が手に入れば一生を遊んで暮らすことの出来る金が手に入るだろう。
「助けたいか道雪。
お前が本当に助けたいと願うならお前にコレをやってもいい」
俺は着物の中から小さな小壺を取り出す。
「それは――まさか!」
「そう、これには龍神の涙が入っている。
だが、約束しろ。
コレを俺が持っていたことは誰にも言うな」
コクコクと頷く道雪。
俺は衰弱している里桜の上半身を起こして、口を少し開けて小壺の中身を流し込んでいく。
小壺から直接飲ませると口の端から流れ出てきしまう。
クソ、上手く入っていかない。
「ちょ! 行平何してんの!」
俺は小壺を煽り、里桜へ口移しで龍神の涙を流し込んだ。
後はこれで、呪いが口から出てくるのを待つだけだ。
俺は里桜を再び寝かせて、少し離れる。
「な、なんて恐れ多いことをするんだよ!
帝様の娘だよ。そんな人に口吸いなんて」
ん? どうした道雪。
顔が真っ赤だぞ。
「あのな、口吸いじゃなくて、口移しだ。
これは緊急事態だったから口吸いとしての数には入らねぇよ!」
里桜の体がバタバタ勝手に暴れ始めた。
明らかに異常な動きをしている。
俺は気合を入れ直す。
「道雪来たぞ。
コイツが里桜を苦しめていた呪いだ」
里桜の口から澄んだ水と黒くドロドロした物が絡み合いながら飛び出した。
デカイな。
里桜の霊力を吸って更に力をつけたか。
俺は里桜の口に素早く札を貼り戻れなくする。
「さあ、選べ……黒いの。
この壺に入るか。
大人しく術者の元へ帰るか。
それともここでこの俺に消滅させられるかを」
『リオウヲコロゼ……ゴロゼ……』
喋るのか!
これは驚いた。
「お前は何者だ?
誰にここに来るように言われたのだ?」
『ゴロゼ……ゴロゼ……』
これは話が通じないと思っていいのか?
まあいいか。術をかけ直してコイツをかけた術者に送りつけてやろう。
俺は小壺を左手の平に置き前に突き出す。
「我と命脈を同じくする龍の神よ。
この弱き者に悪しき力を封じる力をお貸しください」
黒い物に絡みついていた水が龍の形へと変わり、黒い物を咥えそのまま小瓶に向かって飛んで来る。
急に重くなる小壺を落としそうになりながらも体勢を整え黒い物が全て入り切るのを待つ。
「封・縛!」
全てが入り切ると同時に小壺に札を貼り封印を完了した。
「終わったぞ、道雪」
道雪は呆然と立っていた。
何度か頬を叩いて、比較的強めにつねってみる。
痛そうに蹲り、頬を摩っていた。
「痛いじゃないか行平!
なにすんのさ!」
「どうした。終わったぞ。
里桜の布団を整えて寝かせてくれ」
頬を摩りながら乱れた布団を整え、帰ってくる。
なんか不満そうだな。
「どうした?」
「なんでもないんだよ。
ただ気を失っていても、もう少し優しく起こしてくれないかな?」
「お前が道雪じゃ無かったらな」
「やっぱり行平は意地悪なんだよ!」
俺達は里桜の部屋の前に控える女官に事の顛末を伝え、起きたら消化のいい物を食べさせるように言い渡し里桜の部屋を後にした。




