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第十四話 御所へ

「酷いですよ!

 稲穂さん。

 一人だけ抜け駆けするなんて!」

「まったく、油断も隙もない……」

 みんな顔が怖いぞ。

 なにを怒っているんだ?

 俺は稲穂に抱きつかれたまま上体を無理矢理起こす。

 とすぐにカエデがずぶ濡れの俺に抱きついてきた。

「こら。カエデまで着物が濡れるだろ。

 ほら稲穂も離れて」

 カエデは首を横に振り顔を俺の胸に押し付ける。

 おーい。

 これじゃあ体が冷え切ってしまうだろ。

 まったく。

 また風呂に入って体を温め直さないと風邪を引くぞ。

「稲穂さんばかりずるいです!」

「稲穂はずる賢い……」

 サユリが俺の後ろから抱きつき、ヒサゴが左腕に抱きついた。

 背中に当たる胸の感触が堪らないな。

 いや、そんな事より……

「どうしたんだよ……みんな。

 怖い夢でも見たのか?」

 俺じゃあるまいし。何言ってんだろ。

「夜中に行平の寝言で起こされたのよ」

 藤乃の話によると……

 俺の寝言は大変煩かったようで、式神達は起きてしまったらしい。

 何事かと思って来てみたら俺が井戸の方へ歩いていくのが見え後を追い。 様子を伺っているといきなり水をかぶりだし、かなり落ち込んでいるように見え、誰が話をかけるか話し合っていると。

 稲穂が勝手に抜け駆けしてしまったそうだ。

「慰めるだけでなく、押し倒すなんて信じられません!」

「いいじゃない。

 私は半年も行平と離れていたのだから。

 それくらいのご褒美貰っても罰は当たらないでしょ」

 平然と言い放つ稲穂にサユリもヒサゴも二の句が告げない。

 そう、稲穂はマエノスソノの場所に行っている間、屋敷に一度も帰って来ていないのだから。

「私がどんなに寂しい思いをしたのか分かる?

 分からないでしょ?

 だからこれくらいは水に流しなさい」

「それより行平を早く着替えないと本当に風邪をひいてしまうわよ」

 冷静に藤乃がその事を指摘して俺に手を差し出す。

 そう言えば、前にも藤乃と稲穂には慰められた事があったな。

「藤乃、稲穂、ヒサゴ、サユリ、カエデ……

 心配をかけたな。

 お陰で俺は元気になった。

 ありがとう」

 俺は差し出された藤乃の手を掴んで立ち上がり式神たちに振り返り礼を言う。

 傍にいてくれてありがとう。

 そういう気持ちでいっぱいだった。

 


 朝だ。

 言わずもがな寝不足である。

 昨日の悪夢さえなければ俺の気分はこの空の如く見事に晴れ渡っていたに違いない。

 俺は朝餉を食べて支度を済ませると道雪に言われた通り御所へと足を運んだ。

 もちろん牛車で向かう。

 涼は広いからな。

「おはよう行平殿!

 昨日はよく眠れたか」

 御所の門の前で虚栄が俺の来るのを待っていたらしく駆け寄ってくる。

「いや、あまり眠れなかった。

 帰って寝直したいくらいだ」

「まあまあ、そう言わず……

 あれ、式神の皆さんはどうしたのだ?」

 俺は虚栄にしか聞こえないように術を使って話しかける。

「俺はこの涼では力のない三流陰陽師として通っている。

 そんな奴が式神を連れているなんておかしいだろ?」

「まあ。

 だがそれは書面だけで行平殿は」

「面倒事はごめんだ。

 今回の事だって俺の首がかかっていなかったなら来ていないぞ」

 そうだ。

 俺を捨てた奴らが居る涼のためになぜ俺が骨を折ってやらないといけないのだ。

 俺の力は俺の為に使う。

「それよりどこに車を置いたらいい?」

「ああ、そうだな。

 暫し待っていてくれ」

 そう言い残し御所の門の中に消えていく。

「おい、どの貴族の車だ」

 ん? 門番の声か。

「高杉だよ。あの能無しの」

「ああ。あの落ちこぼれか」

 それにしてもデカイ声で悪口を言ってくれるじゃないか。

 だいぶ離れていても聞こえるのだから、わざと聞こえるように言っているのだろう。

 力もないくせにいいように言いやがって。

 一泡吹かせてやろうか。

「お待たせしたな行平殿。

 そのまま中に入って構わないそうだ」

 そう思っていたらタイミングよく虚栄が帰って来た。

 ちっ、命拾いしたなクソ門番ども。

「言われた通りに来てやったぞ道雪」

 牛車を虚栄の指示した場所に止め、虚栄の案内で道雪の居る部屋まで案内された。

 部屋に入ると道雪は沢山の書物に埋もれていた。

 と言うか、足の踏み場もないと言った方が正しいか。

 道雪は何やら調べ物をしているようだ。

「あ、おはよう行平。

 少し散らかっているけど気にしないで適当に座ってよ。

 虚栄お茶出してあげて」

 言われた通り適当に書物をどかし、腰を下ろした。

「何を調べているんだ?」

「ん?

 ああ、帝様の娘・里桜りおう様が病気で伏せっておられて、それによく効く薬を探しているんだよ」

 帝……ね。

 道雪も大変だな。

 そんな事までしないといけないのか。

「そんな事は医者の領分じゃないのか?

 なぜ陰陽師のお前がそんな事を調べる必要がある?」

「私と里桜様は幼い頃から面識があってさ。

 おこがましいかもしれないけど私は友達だって思っているから。

 里桜様を助けてあげたくて……

 でもどこにもそれに効く薬草がないんだよ」

 いつもの道雪らしくもない顔をしていた。

 なんと言うか。

 切羽詰まっている感じだ。

 コイツのこういう顔は見たくないな……

「道雪。

 その里桜ってやつの症状を一から教えろ」

「え? 行平……

 手伝ってくれるの?」

「ああ。手伝ってやるから早く症状を言え。

 俺の気が変わらない内にな」

「ありがとう行平!」

 道雪は里桜の症状を事細かく書かれた紙を俺に渡し説明していく。

 助けたい。

 その気持ちが強く伝わってきた。

「……道雪。

 それは確かに俺達――

 陰陽師の領分だな。

 その里桜って子は誰かに死の呪いを受けている」

「え! そんな馬鹿なことはないんだよ!

 呪いを受けた呪印もどこにもなかったんだよ!!」

「どうしてそんな事が言い切れる?

 自分の観察眼か?

 経験か?

 呪印が浮き出ないで人を殺す術はいくらでもあるのはお前も知っているだろ?」

 こんな所で時間を食っている訳には行かないな。

 道雪の話を基準にすればよくもって明日の朝、悪くて今日の夜が限界だ。

「俺を里桜の所に案内しろ。術を解く」

「そんな……いいの? 出来るの?」

 立ち上がった俺を見上げる道雪は少し間抜けに見えた。

「助けたくはないのか?」

「助けたいに決まっているんだよ!

 でも、内裏は帝様以外男子禁止なんだもん!!」

 マジかよ。どうすればいいんだ……


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