第十一話 土蜘蛛討伐の負の遺産
「それより何しに来たんだ正兼?
まさかまた仕事をサボっているんじゃないだろうな」
「馬鹿野郎。そんな事しねぇよ!
俺は鬼退治に行く桃太郎にきびだんごを渡そうと思って来てやったんだよ!」
突き出された手には一振り刀が握られていた。
鞘は上品な朱色をしている。
これ、まさか!
「これは!
あの時俺が折ってしまった刀じゃないか?」
「そう、あの土蜘蛛退治の時に折れてしまった退魔刀さ」
俺が幼い頃に討伐した妖怪・土蜘蛛。
涼の霊力の高い人間を食い物にし、更には道雪を食おうとした妖怪である。
退魔刀を持っていなかった俺が正兼に頼み込み、家にあった退魔刀を借り受けそれを使って討伐したのだが……
最終的にその退魔刀を折ってしまった。
最後に分かった事がその折ってしまった刀――
実は黒夜家の家宝である事が後に分かり。
正兼は父親と祖父、俺は稲穂と藤野に一生分くらい怒られた。
いや、マジ。
土蜘蛛との戦闘より怖くて、二人共小便漏らしてしまった苦い思い出がある。
「正兼……お前が打ち直したのか?」
「ああ。今はただの刀だから。
これから退魔刀にする術を道雪に頼みに行こうと思った。
そしたらお前が帰って来たから、どうせなら行平に術を施して貰おうと思ったんだ」
「そう言えばお前……
退魔刀にするための言霊を唱えるのが下手くそだったな」
「うるせぇよ。
だから造り上がったら道雪に頼んでいるんだろ」
まあそれならいいか。
「正兼、上がっていけよ。
お茶くらい出すぞ」
「そうだな……
特に予定もないからな。
お邪魔させてもらうか」
俺の誘いを快く受けた正兼を連れて屋敷に入っていく。
俺の気配を探知したのか、ヒサゴとサユリ、カエデが俺を玄関で出迎えてくれた。
「おかえりなさい……我が主」
「もう道具の整理は終わりましたので、夕餉の支度を始めますね。
ユキヒラ様……
あの、お隣の方はどなたでしょう。
お会いしたことがないのですが?」
「そうだったな。
ヒサゴ、サユリ、カエデ。
お前達は初対面だったな。
コイツは――」
「オイの名前は黒夜 正兼。
君の名前は?」
サユリの手を握り、キラキラした目でそう言った。
かなり鼻息が荒い。
大丈夫かコイツ?
「え? え?
あのユキヒラ様どうしたらいいのでしょうか?」
うーん。どうした物かな。
サユリが困っているし、夕餉が遅れるのも嫌だしな。
それにヒサゴが正兼を殺しかねない。
今だって既に正兼の背後を取り短剣を逆手に持っている。
その顔がご命令を……そう言っているようにしか見えない。
流石に殺されるのは困るので助け舟を出してやろう。
「正兼。お取り込み中の所悪いが、ここにいる三人は俺の式神だ」
「…………マジ?」
泣きそうな顔で俺を見るな。
気持ち悪い。
取り敢えず頷いておくか。
「世の中、こんな理不尽な事があっていい物なのか!」
玄関先で崩れ折れ、土間をドンドン叩いている正兼。
サユリとカエデが怯えて俺の背中に隠れてしまった。
怯えさせるなよな。
「おい。正兼お前は土間を叩きに来たのではなく。
退魔刀を仕上げに来たのだろうが」
その言葉に立ち直ったのか。
正兼はゆらりと立ち上がった。
「そうだ行平。
オイにも式神を作ってくれよ。
サユリさんみたいな綺麗な式神を」
そうきたか。




