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第一話五月晴れ

不定期更新です。

 鮮やかな五月晴れとなった今日。

 俺は縁側に座り茶を啜っていた。

 俺の日課であり、久しぶりに帰って来た屋敷の主として庭の手入れが行き届いているか心配だったからだ。

 俺が丹誠込めて育てている四季折々の花や実をつける木達の世話をこの屋敷に居る者達だけで回すのは些か骨が折れるだろう。

「中々綺麗に剪定されていて驚いたよ。

 留守間ご苦労だったな。ヒサゴ、サユリ」

 俺の声が庭と屋敷に虚しく響く。

 まあ当たり前の事だ。

 生きている人間はこの俺しか住んでいないのだから。

「いえ、主の為ならば」

「喜んでいただけて光栄です行平様」

 何もない空間が歪み、二人の女性が姿をした。

 黒い髪を後ろで結い、凛々しい顔つきをしている方がヒサゴ、茶色の髪を肩ほどで揃え、温和な雰囲気の方がサユリ。

 俺の式神だ。

 俺が造り、俺が与えた、俺の為に生きる者達。

 いや、ここは家族と言っておこう。

「俺の留守中に届いた文はあるか?」

「はい、ご実家から三通と水面(みなも)虚栄(きょえい)と言われる方からも一通届いております」

 サユリが文の内訳を言い。

 ヒサゴが盆に四通の文を持って俺の隣に置いた。

 俺はそれらを一瞥して鼻で笑う。

「ふん。また叔父上からの文か。

 どうせ帰ってこいと言いたいのだろう。

 まあ帰る気もさらさらないがな」

 乱暴に文を広げ内容を見る。

 数か月前と何ら変わりない内容に頭が痛くなる。

 叔父上、貴方に文を書く才能が無いのが悔やまれるよ。

 文の内容はこうだ。

 いつになったら帰ってくるのだ。

 お前の活躍を聞いた帝様がお前を専属の陰陽師として取り立ててくれると言う話が来ている。

 そんな片田舎で遊んでいないで早く帰って来い。

 新たな役職と帝様が首を長くして待っておられる。

 帝ねぇ。

 竜神の子孫か何だか知らないが、顔も知らない相手にへいこらしてどうするって言うんだ。

 先ほどまで読んでいた文とまだ読んでいない二通も一緒に宙に投げる。

「カエデ焼き払え」

 宙を舞っていた文は炎に包まれ跡形も残らないほど燃えた。

「また何かあったら燃やしてくれ」

 座っている俺の傍まで歩いてくると。

 俺の膝にちょこんと可愛らしく腰掛け嬉しそうに、そして楽しそうに笑う。

 赤い髪を頭の左右で分けて結い、愛らしい笑顔で笑うカエデ。

 コイツも俺の式神の一人だ。

「俺は今の生活で満足しているし、まして涼に戻る気なんかサラサラない」

 周りがどんな状況だったとしても俺はここから一歩も動きたくない。

 例えこの世界が終末に向かってひた走っているとしてもそんなのは優秀な涼の陰陽師がやってくれる。

 そう、明野明石のような優秀な人材が。

 陰陽師になりたいと思い志す者は多い。

 何と言っても収入がデカいからである。

 優秀であろうとそうでなかろうと陰陽師は陰陽師として区分される。

 多いに越した事がないからだ。

 数百年前に現れた八つ首の龍の時も。

 八十年前に起きた白面金毛九尾の襲来の時も多くの陰陽師が活躍し、そして大勢死んでしまった。

 まあ、最終的には明野明石によって白面金毛九尾は大岩に封印されたのだが。

 往生際の悪い事に、白面金毛九尾は封印された腹いせに瘴気を垂れ流しその一帯を人や動物が住めない不毛の大地にしてしまったが。

 更に間が悪い事に白面金毛九尾の襲来以降。

 各地で妖怪の出現率が大幅に高くなり始めた。

 先の襲撃で減ってしまった大勢の陰陽師の欠員を埋めるために陰陽師を志す者を集め教育する場所を造ったそれが――

 陰陽院だ。

 陰陽院を卒業した陰陽師は要望のあった村や町、まだ派遣されていない場所に派遣される。

 成績優秀な陰陽師は帝の陰陽師として取り立てられたり、陰陽院の教師になったりする。

 俺はその陰陽院を見事最下位で卒業しこうして片田舎の派遣陰陽師となった。

「さて、残るは水面虚栄とか言うやつの文かなんか分厚いな……

 ふん。読む気が失せた。燃やしてくれカエデ」

 たちまち分厚かった文は炎に包まれ燃える。

「そんな事をして良かったのか?

 もしかしたら大事な用かもしれないのではないのか?」

 藤色の髪を腰ほどまで伸ばした、気の強そうな女性が俺の後ろに立っていた。

 名を藤乃という。

 この家に居る式神の中で一番の古株である。

「知らない相手であんな分厚い文をお前なら読むか?」

「読まない。読ませるわ」

「だろ。

 知り合いでもないのにあんな分厚い文を読みたくもない。

 俺の大切な時間をなんだと思っていやがる」

「どうせ庭の手入れくらいしかしないじゃない。

 それなら少しは――」

「分かってないなお前は。

 少しでも気を抜けば来年綺麗に咲いてくれないだろ。

 俺はこの庭に一年中いて四季折々の花を愛でていたいのだ」

 俺はヒサゴやサユリがまだ手を付けていない生垣の剪定に取り掛かる。

 術で長く花を咲かせたり、成長をいじったりする事は造作もない事だ。

 だが、それでは面白みがない。

 こうして手を掛けてこそ美しい花を咲かせ実をつける。

「行平様。私たちも手伝います」

「我が主の為に」

 まったく、ヒサゴとサユリはよく出来た式神だよ。

 涙が出そうだ。

 藤乃なら熱いとか言って屋敷から絶対出てこないのに。

「悪かったわね。熱いのは嫌よ。寒いのも嫌なのよ」

 俺の独り言に突っ込むなよ。

 お前に戦闘以外で期待はしていないから。

「それじゃあ、俺が剪定した葉や枝を掃いて一カ所に集めてくれるか。

 肥料を作るから」

 二人は元気よく返事をして作業に取り掛かる。

 ヒサゴが熊手で集め、サユリがその残りを笹箒で掃いていく。

 式神が増えて思う事は何をするにも時間が節約できるという事が何よりうれしかったりもする。

感想等ございましたらお願いします。

黒鉄と同時進行でやって行きますが、黒鉄を優先して書いていきます。

明日は0時にお会いしましょう。

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