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傭兵と少女  作者: Brandish
9/15

第九話 海賊の顛末

 倉庫で助けてもらい、宿に帰るまでは平気だったのですが部屋に入ると急に恐ろしくなって、ブラトさんの腕にしがみついてしまいました。

 ブラトさんはそんな私を優しく抱きとめると、反対の手で背中をなでてくれました。


 しばらくして落ちついた私は、気恥ずかしくなってしまい。

「そ、そろそろ夕食に行きませんか?」

 などと言ってしまいました。

「そうだな、エリシュカもいつ来るかわからないし、とりあえず腹ごしらえをしよう」

 笑いながらそう言って、体を離すと食堂に下りていきました。




「やっぱり海と言えば魚なんですね」

 私は魚づくしのテーブルを見てそう言いました。


「ああ、俺たちみたいなのにはな」

「どういうことでしょうか?」

「そうだな――、あそこを見てみな」


 ブラトさんが目で示したテーブルをみると船乗りさんたちが食事をしていました。その料理を良く見ると種類はわかりませんが魚ではなく肉料理のようでした。


「店の人間も良く見てて、普段魚ばっかり食べてるような連中には肉を、そうじゃない連中には魚を出したりしてるんだ」

「なるほどぉ」

「もしかして肉が良かったか?」

「いえ、私は小さな川魚以外は食べたことが無かったので凄い嬉しいです。味もとっても美味しい」

「なら良かった」




 食事も済んで一段落した時。

「さて、一旦部屋に戻るか。このままテーブルを占領してちゃ店に悪いからな」

「そうですね」

 そういって、部屋に戻ることにしました。その際にブラトさんが店員さんにエリシュカさんが来たら教えて欲しいと言いながら心づけを渡しているようでした。







 夜も大分ふけてきた頃になってコンコンと扉を叩く音がしました。


「お連れ様が見えました」

「どうぞ」

 ブラトさんがそう言うと扉が開き、女給さんの横を抜けて顔を布で覆ったエリシュカさんが入ってきました。


「おまたせだねー」

「お疲れ様でした」

「そっちこそおつかれさん。っとこれで適当に酒とつまみを3人分頼む」

 2脚しかない椅子のひとつをエリシュカさんに譲りながら、立ち上がったブラトさんが女給さんにお金を渡しています。

「すぐにお待ちしますね、それでは」




 やがて酒とちょっとした魚料理が運ばれてきました。そして女給さんが立ち去るのを確認すると、エリシュカさんは顔の布を外して一息つきました。


「はぁー、やっぱりこれを取るとすっきりするね」

「それじゃ疲れてるところ悪いが話を聞けるか?」

「うん、でもその前に……、ぷはぁー」


 エリシュカさんはその見た目に似合わない勢いでお酒を飲み干しました。

「なかなか豪快だな」

「あははは、故郷の皆が見たら泣くかもね。それじゃあの後の話だけど……」







 2人が立ち去った後に改めてつかまっていた女の子達に話を聞く。

「僕はこれから警邏隊の所にこのことを話しに行くつもりだけど、皆はどうする?」


「わ、私はできればこのまま家に帰りたいです……」

「私もです」

 弱り気味だった子ともう1人がそう言いました。まぁ、それも仕方ないよね、あんまり色々と聞かれたくないだろうし。と思っていると。


「私は一緒に警邏隊の所に行ってもいいでしょうか?」

 意外にも最後の1人がそんな事を言いました。

「どうして?」

「警邏隊に連絡してこいつらの残りをやっつけるんですよね?それなら是非協力したいです」

 なかなか勇敢な答で僕は感心する。


「警邏隊次第だけどね、彼らにやる気が無かったらちょっとどうしょうもないけど。でもそういうことなら大歓迎だよ、一緒に行こう」

「はい!」

「そっちの君は……、この子がちょっと弱ってるから付き添ってあげて欲しい」

「わ、わかりました」

「すいみません、お願いします」


 本当は僕も一緒に行ってあげたかったけど、あんまりぐずぐずしていると海賊の残りが感づいて逃げてしまうかもしれないと思ってお願いする。

「それじゃあね」

「た、助けてくれてありがとうございました」

「お気をつけて」


 そんな言葉を背に受けて僕ともう1人の子は警邏隊の詰め所に向けて走り出した。







 警邏隊の詰め所に飛び込んだ僕たちはそこの隊長さんに経緯を説明した。そしたら意外、といっては失礼だろうけど行動派の隊長さんらしく、特に疑いもせず隊員を招集して動き出した。

 どうやら一緒に来てくれた子が顔見知りらしい。なるほどそれで強気だったのかな。


 討伐といっても港には沢山の船があって、一見してもどれが海賊の船かはわからない。そこで帰ってこない仲間の様子を見にくるであろう奴を捕らえて口を割らせる。その後に警邏艇を出して海と陸から一網打尽にするという手はずだと教えてくれた。

 捕まっていた子と僕がそこまで見せて欲しいとお願いしたら、隊長さんはちょっとしぶっていたけど女の子が重ねてお願いすると折れて認めてくれた。助かったけどこんなに女性に弱いとちょっと心配。


 警邏に出ている隊員を招集する傍ら、まず詰め所に居た数人で倉庫に急行した。もしこっちより先に来られてたら全ておじゃんになっちゃうからね。




「隊長、来ました」

 見張っていた隊員が小声で囁く。

「ちゃんと口がきけるようにしておけよ」

 隊長が隊員にそう声をかけると、みんな恐ろしげな顔で笑った。人間って色々な表情があるっていつも感心するよ。


 その後、あっさり捕まった海賊は警邏隊の『丁重なお願い』によって海賊船の場所を教えてくれたよ。どんなお願いだったのかはイリーナの教育に悪いから教えないけどね。

 その頃には20人近くになっていた警邏隊を隊長率いる突入班と、2隻の警邏艇の合計3班の分けて突入することになったよ。




 海賊船の前に居た2人の見張りに幾つもの矢が突き刺さって、その直後に隊長を先頭にした警邏隊がタラップを駆け上がって行ったよ。

 それとタイミングを合わせて逃げられないように警邏隊が海賊船の前後を塞いで、その後は泳いで逃げようとする海賊が居ないかの監視に移るみたいだ。

 

「この港でつまらん事をするとどうなるか教育してやれ!」

「言われなくても」「お任せください」「おらぁー」

 突入部隊は隊長の号令にそれぞれの言葉で答えると海賊を切り伏せていく、僕と女の子は少しはなれたところでそれを見ていたよ。隊長さんが心配して隊員を1人護衛につけてくれたけど、突入隊から外された彼はちょっと不満げで申し訳なかったかな。




 しばらくの間、怒号や悲鳴や剣を打ち合わせる音がしていたけどやがて静かになったよ。

 警邏隊は何人か怪我をしたけど死者や重傷者はでなかったみたいで安心した。

 その後で聞いた話だと、この海賊は密貿易や人を攫って売り払うのを主な商売にしていたらしくて荒事にはそんなに強くなかったみたい。







「と、まあ、これがあの後の話だよ」

 そう言ってエリシュカさんは話を締めくくりました。


「なんだ、てっきりお前さんも海賊船に切り込んだかと思ってたのに」

「か弱い僕がそんなことする訳ないじゃないか」

「あの投げナイフの腕は見事だったがなぁ」

「なんのことやら?」


 話を聞いた後にそんは風に2人でふざけ合っているのを見てちょっと羨ましくなりました。なんていうか戦う力がある人同士のわかってる会話というやつなんでしょうか。


「それで報奨金とかは貰えたのか?」

「あ、それなんだけど、それは断って別のお願いをしてきたんだ」

「金より欲しいものが警邏隊から貰えるのか?」

「討伐の終った後とかの町の人を見てると、ここの警邏隊は凄く信頼されてるらしいからね」

「信頼されてると貰えるものなのですか?」

「うん、東の大陸に行く船を紹介してもらえることになった。長年人間の世界を見てきたけど船の良し悪しはわからないし、エルフを快く乗せてくれるのかもわからないからね。その点ここの警邏隊の隊長さんのお墨付きなら安心だよ」

「なるほどな」

 ブラトさんが感心したように頷きます。


「ところで長年人間の世界を見てきたとおっしゃってましたけど、どのくらいなんでしょうか?」

 なんとなく気になった事を聞くと。


「うーん、そうだね。20歳の時に森を出てからかれこれ17年かな?」

「それは……、長いですね」

 私の生きた間よりも長く旅をしていたなんてちょっと想像がつきません。

「こんな身近でエルフを見たのは初めてだが、やっぱり老け方が人間とは違うんだなぁ」

 ブラトさんは別のところを感心していました。私もちょっと羨ましいとは思いましたけど。


「あはは、どーも。ところでお二人さんはどういった旅なのかな?」

 ブラトさんが私を見ます。私は頷いて。

「私が魔族なのはもうお分かりだと思いますが、この国で生きていくのは難しくて魔族が治めるという北の国までブラトさんに護衛をしてもらって向かおうと思っています」

「そっかぁ、でも、彼は強いから安心だね」

「はい!」

 私とエリシュカさんに褒められて少し照れくさそうなブラトさんです。


「北の国に僕が行ったのは何年前かなぁ。森を出て2、3年したくらいだったからもう15年も前かな」

「へぇ、行った事があるのか、そんときはどんなだった?」

 私もとても興味がある話が出ました。

「そうだね、15年も経てば結構変わっちゃってるかもしれないけどそれでもいいかい?」

「はい、それでも聞いてみたいです」


 エリシュカさんが昔を思い出す目をして語り始めます。

「北の国は、国といっても人間の国みたいに王様が1人居て全部を治めてるって訳じゃ無かったよ。村や町がそれぞれ独立してるって感じだったかな、とっても孤立してるとか、お互い争ってるって訳じゃなくて自然に協力する形だったよ」

 なんとなく安心できる内容に少しほっとしていると。


「でも、魔獣とかは多かったね。土地自体に魔力があるのか、魔族が多いからそうなのかはわからないけど、僕も何度か危ない目に会ったよ」

 今度は恐ろしくなるようなことを言われました。


「あの、魔獣というのはどのようなものなのでしょうか?」

 少し気になった事を聞きます。

「魔獣か、簡単に言うと魔獣は魔力をもった獣のことだよ。といっても魔法を使うような奴はめったに居ないけどね。でも本能で魔力を使って力を強くしたり、毛皮を硬くしたりするような奴は多いよ。それと普通の獣よりも少し頭が良い様な感じかなぁ」

「魔法を使わないといって馬鹿にできる相手じゃないな。俺も戦ったのは数回だけだが恐ろしく手ごわい奴らだった。それに奴らは人間と戦うことに慣れている感じがしたな」

 2人してそんな事を言っているとなんだか怖くなってしまいます。


「ああ、でも多かったって言っても月に一度見かけたとかそういうくらいだよ」

「そうだ、おれも7年傭兵やってて出会ったのは5回あるかどうかだ」

 そんな様子を見てエリシュカさんとブラトさんが慰めるように言ってくれます。


「まぁそんなに心配するな」

 それでも少し不安な私に苦笑すると、頭をくしゃくしゃと撫でてくれます。

「ああ、僕にもやらせて!」

 すると、それを見たエリシュカさんも私の頭を撫でますようにしてきます。


「ふふっ」

「ははは」

「あはははは」

 最後は3人で笑いながらお互いの頭を撫でるという良くわからないことになっていました。




「それじゃそろそろ僕はお暇しようかな」

 酒と料理も尽きて、もう町も寝静まってきた頃にエリシュカさんが腰を上げます。

「そうか……、それじゃ宿まで送って行こう」

「大丈夫だよ、僕よりも可愛い彼女の傍に居てあげなよ」

 エリシュカさんの言葉に顔が赤くなって俯いてしまいます。


「まぁ、お前さんなら大丈夫かぁ」

「そういうこと、それじゃあブラト、イリーナ、君たちの旅が無事に終ることを森の神に祈っているよ」

「ああ、お前の船旅も無事に終ると良いな」

「お元気で。今日はありがとうございました」

「縁があればまた会おうね!」


 エリシュカさんはそう言って、結構お酒を飲んでいたはずなのに軽やかな足取りで去っていきました。


「また、か」

「また会えますかね?」

「別の大陸を見てきた後じゃ、会う頃には俺たちはきっと爺さん婆さんだろうな」

「それでももう一度お会いしたいです」






 私はもう見えなくなってしまったエリシュカさんの後姿を、ずっとずっと見つめていました。

次回からやっと北の方向へ進みます

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