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傭兵と少女  作者: Brandish
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第四話 旅支度

 ギィとかすかに軋む音をたてる扉を押し開けると、中は4人掛けの丸テーブルが8脚に数人が座れる程度のカウンターを持つ、食堂兼酒場が広がっていた。

 昼飯時ということもあり、席の半分ほどは埋まっているようだ――この頃は食事は朝夜の2食が普通だが、夜明けと共に起きて働いている者や懐に余裕がある者などは昼にも食事をとる事が多かった。

 

 「いらっしゃいませ!」

 店内を軽く見渡していると、15、6歳くらいにみえる赤毛を両おさげにした少女が、いかにも女給という格好で元気に声をかけてくる。


 「お二人様ですね? お食事でしょうか、それとも……」

 「ああ、軽く食事をしたいが、その前に宿を頼みたい」

 「お泊りなら少々お待ちください。女将さーん、泊まりのお客様です」


 女給の少女が厨房に声をかけると、中から30がらみの姉御肌と言った感じの女性が姿を現した。

 「いらっしゃい、お泊りですか?」

 「ああ、2人部屋を一晩お願いしたい」

 「お食事はどうします?朝晩の2食付かそれとも素泊まりか。朝飯は基本的に食事付のお客様にしか出してませんが」

 「そうだな、それなら食事付にしておこう……そうそう、アレクセイという農夫の紹介で来たんだが」


 そういうと女将はちょっと驚いたような様子で。

 「おや、義兄さんの紹介とは珍しい」

 「ああ、今朝たまたま街道で出くわして、良い宿を訪ねたらここを教えてくれたんだ、安くて綺麗な店だと絶賛していたよ」

 「あははははっ、また心にも無いことを言うね義兄さんは。でもまぁそういうことなら勉強させてもらうよ。2人で銀貨4枚でどうだい?」

 

 食事つきでその値段はなかなか安い、俺はそれで頼むと言いながら財布を取り出す――馴染みの客でもない限り宿代は前金というのが常識だ。

 

「まいどあり、それじゃアリサ部屋に案内してやりな。2階の一番奥の部屋だよ」

 女将は銀貨を受け取ると、先ほどの女給――アリサと言うらしい、に案内を指示する。


 「それではこちらへどうぞ」

 アリサは俺の背嚢を持とうとしたが、彼女の体重の半分ほどもある荷物を持たせるのは忍びないので断り、彼女の案内で部屋へと向かう。といっても階段をのぼって10歩もあるけば目的の部屋の前になったが。

 

 「このお部屋です」

 そう言って、女将から預った鍵で部屋の扉をあけるアリサ。

 部屋の中は2リート半(約2.5メートル)四方ほどで、2台のベッドと小さな丸テーブルに椅子が2脚、それだけで部屋の中はほぼ一杯であった。

 少々手狭だが変な臭いもしないし、見たところ小綺麗でアレクセイの言ったとおり値段の割りに良い宿と言えるだろう。

 ふとイリーナに目をやると、この何の変哲も無い部屋を見て妙に目を輝かせている。


 「それではごゆっくりどうぞ」

 「案内ありがとさん。ところで軽食を2人分この部屋まで持ってきてくれるかな?」

 食堂に戻ろうとするアリサに銀貨を渡しながらそう尋ねる。

 このくらいの宿なら夕食が1人銀貨半枚、朝や昼はその半分くらいが相場なので銀貨1枚はかなり過分だ。

 

 「お客さん、これはちょっと多いです」

 「ああ、食事の後にちょっと外に出てくるが、その後にでもこの子にお湯を出して欲しい、まぁ俺も使わせてもらうが。残りは心づけという事で」

 イリーナの頭に手を乗せながらそう言う。


 「わかりました、ありがとうございます。お食事もお早めにお持ちします!」

 アリサはにっこり笑うとそう言って駆ける様にして去っていった。







 すぐに運ばれてきたパンとスープに甘酢漬けされた野菜という軽めの昼食を取る。

 イリーナがフードをかぶったまま食べようとしてたので、施錠した上でマントを外させた。


 「そういえばさっき部屋をやたら熱心に見てたけど何かあったのか?」

 「そういう訳じゃないのですが、こんなに良い部屋を2人で使っていいのかと思いました。家に居た頃はこのくらいの大きさの部屋を兄弟姉妹4人で使っていましたので、ベッドも藁をしいたものでしたし」

 食事の手を止めて答えるイリーナ。

 そう言われれば俺も傭兵になる前は同じような暮らしだったことを思い出す。


 「ところでお伺いしたいことがあるのですが、街に入るときやここの宿代などの代金を私は支払っていないのですが……」

 「ああ、それなら護衛料にその辺もコミという事だ」

 「ええと……嘘ですよね?お金のことはそんなに良くわからないのですが20日も護衛に雇った上に旅費も出していただけるほどのお金ではなかったと思います」

 適当に流そうとした俺に対して真剣な表情で更に問いかけてくる。


 「まぁ、そうだな、確かにそうだ。一応理由はあるんだが本当に大した事じゃないんだよなぁ。後で話すって事で許してくれないか?日の高いうちに買い物を済ましておきたい」




 「――分かりました。何の特にもならない私を助けていただいたのに今更疑う必要なんてありません」

 しばらくじっと俺の目を見つめたあとに彼女はそう言う。


 「それじゃ、喰ったら早速旅支度と行くか。ただしこの買い物はイリーナの自身の支払いだよ」

 そう言って2人で笑った。






 街に出ることをアリサに告げて宿を出る。その際に必要な店の場所を聞いておくことも忘れない。

 街の雑踏の中をイリーナを連れて歩く、宿まで向かうときのような緊張が無くなったのか、彼女はいかにもおのぼりさんという様子で辺りを見回している。

 俺はそんな彼女を置いていかないように気をつけながら最初の目的地である古着屋へ向かった。




 カランカラン、とドアベルを鳴らしながら扉を開けて古着屋の店内に入る。

 薄暗い店内にはこれでもかというくらいありとあらゆる古着が並べられていた。

 「いらっしゃい」

 繕い物をしていた店番の老婆が愛想少なげな挨拶をよこす。


 「旅なら丈の短めのチュニックにズボンが無難だろうな、北に向かうことも考えると厚手の生地にした方が良い。マントはそれが気に入らないならそれも買うか?」

 「いえ、マントはこれが良いです!」

 離さないぞと言わんばかりにマントを抱きしめてそう答えるイリーナ

 「そうか、ならいいが」

 その勢いに苦笑がもれる。これ以上は男の俺があれこれいうよりも彼女自身に選んでもらった方が良かろうと、気に入ったものを探させる。

 熱心に服を探す彼女の傍らで手持ち無沙汰に店内を眺めていると鮮やかな赤い色のヘアスカーフが目に留まった、これを使えば一日中フードをかぶる必要もなくなるだろう。

 彼女の髪にも映えそうな色であるし、旅の門出の記念として贈る事とした。




 「毎度どうも――そうだこれをもっておいき」

 支払いの時も無愛想なままの老婆であったが、繕い用の端切れと糸を分けてくれた辺りは根は良い人間なのかもしれない、物をくれただけで判断できることでもないだろうが。

 支払い後に店内で早速着替え――元の農作業用の服は二束三文で引き取ってもらった、イリーナが出てくる。その彼女の頭に先ほど買ったスカーフを巻いてやる。


 「あの、これは?」

 「旅立ちの記念だとでも思ってくれ」

 若干照れくさくなり背を向けながらそう言う。


 「ありがとうございます、大事にしますね」

 心底嬉しげな彼女の声に、照れくささが増す。

 「それじゃ次は靴だな、その後も色々あるぞ」

 ごまかすように言うと、俺は次の店へ向かって歩き出した。







 旅の支度を終えて宿に戻った時には既に日が大分傾く時間だった。


 「おかえりなさいませ、すぐにお部屋に湯をお持ちしますね」

 扉を開けると相変わらず元気な様子のアリサが迎えてくれた。

 「ああ、頼むよ」

 どうやら約束を忘れていなかった彼女に笑いかけると一足先に部屋へと戻る。




 荷物を部屋に置いて一息ついたところで扉がノックされる

 「お湯をお持ちしましたので扉をお開けください」

 どうやら早速アリサが来たようだ。扉を開けると湯を張った大たらいにタオルを持った彼女が立っていた、良くこんな重そうなものを持てるものだと感心しつつ部屋に招き入れる。

 アリサはたらいとタオルをおくと

 「ごゆっくりどうぞ、使い終わりましたら声をかけてください」

 と言い残して再び階下に去っていった。


 「それじゃ先に旅の汚れを落としな、俺は下で待ってるから終ったら代わるから呼んでくれ」

 「あ、はい。なるべく急ぎます」

 「いやいや、ゆっくりやってくれよ」

 俺は背中越しに手を上げて挨拶すると食堂へ向かった。







 頼んだエールをちびちびやっていると、さっぱりした様子のイリーナが現れた。

 くすんでいた灰色の髪も幾分つやを取り戻したように見える。

 

 「おまたせしました」

 「そんなことは無いから安心しな、それじゃ代わりに湯を使わせもらうわ」

 「はい、ごゆっくりどうぞ」

 俺は残ったエールをあおると、入れ替わりに部屋に戻った。







 「はい、お待ちどうさま」

 メインディッシュの鳥に香草を詰めて焼いたものが皿に乗せられて運ばれてくる。

 既に運ばれて来ていた黒パンとスープにチーズ、それとキャベツとタマネギのサラダと併せると中々豪華な食事だ。料理を作った女将とここを紹介してくれたアレクセイに感謝しよう。

 「おいしいです」

 農村での食事に比べれば大分濃厚な味付けのそれを、美味しい美味しいと食べ進めるイリーナを微笑ましく見つつ俺も食を進める。




 「えーと、今日買ったのは服に、編み上げ長靴、背嚢、保存食、火打石、ナイフ、縫い針……」

 食事もあらかた終り、僅かに残ったパンとチーズを摘みながら今日買ったものを言い上げていく。

 「後は明日街を出るときにいくらか果物と野菜でも買っていくくらいだな」

 「結構色々と必要なんですね」

 「一人旅ならもっと色々必要だ、俺の背嚢の大きさを見ただろ?」

 「そういえばそうですね、一度持とうとしたら重くてびっくりしました」


 「さて、何時までも席を占領してるのも良くない、そろそろ部屋に引き上げようか」

 ほとんど埋まったテーブルやカウンターをみて腰を上げる。

 「わかりました。それでそのお昼の話の続きなんですが――」

 「そんなに気になるか、本当にしょうがない理由なんだがな。まぁ約束だし部屋で話そう」

 「ありがとうございます」

 やはり自分の事だけに気になるのだろう、話すことを約束するとほっとしたように部屋へと歩いていく。







 今日はまだ終わりそうに無い。

基本的にブラトの一人称で行こうと今更決めましたw

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