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傭兵と少女  作者: Brandish
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第二話 野営

 「とりあえずここを離れよう。こいつらも埋めるくらいはしてやりたいところだが、すぐに色々と厄介な奴らが来ちまうからな」

 ブラトがイリーナにそう促して襲撃の場を後にする。


 「厄介な奴らってどんな人ですか?」

 ブラトの後を着いて来ながらちょっと外れた事を言うイリーナに苦笑する。

 「奴らってのは人じゃない。野犬程度ならマシだが、狼や場合によっては魔獣が来たりすることもある。そいつらが死体だけで満足してくれればいいが、そうでなければ近くにいる人間も危ないからな」

 「な、なるほど…… それは怖いですね」

 説明を聞いたイリーナは少しおびえて、ブラトのそばに近づく。

 そんな少女の言動をほほえましく思いつつあたりの様子を伺うと、既に日が傾き始めてきていた。


 「少し早いが、もう少し離れたら適当な場所で野営をしようか。そろそろ腹も減ってきただろ?」

 「――いえ、大丈夫です!」

 と、答えたときにイリーナのおなかが、くぅーっと可愛らしい音を立てた。

 絶妙なタイミングでの出来事に、イリーナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


 昨日の昼過ぎに何の準備も出来ぬまま村を追い出されてからは、小川を流れる水と僅かに見つけた野いちごしか口にしておらず、盗賊やらなにやらの緊張が途切れたので体が空腹を思い出したのだろう。


 「そう言うな、俺も腹が空いてきたことだし――、そうだな、少し先に見える小屋みたいなのを使わせてもらうか」

 彼女のおなかの音を聞かなかったことにして、ブラトは200リート(約200メートル)ほど先にある、少し道から離れて建っている小屋を指差す。

 おそらく昔――、世間がもっと大らかだった頃に近隣の農家が農具などを仕舞っていたのだろう。

 今のご時勢ではそんなことをしたら盗まれ放題となるためか、その小屋も放置されて久しく、天井は落ち、壁も穴だらけであるがただの地面で野宿するよりは大分ましというものだ。


 小屋に着き、ざっと様子を見るが思ったとおりの元倉庫という感じであった。大きさは2リート(約2メートル)四方というところだろうか

 これから野営の準備、といってもさほど大したことをするわけではない。

 水場が近くにあれば水を汲み、枯れ枝があれば拾い集めて焚き火を起こすだけである。寝るときは薄っぺらい毛布に身をつつみ、そのまま寝る。

 テントだのなんだのと用意するのはある程度以上の規模の商隊キャラバンか軍隊くらいのものである、馬車があればそこが寝床となるが徒歩の者なら皆この程度だ。

 幸いにして、この小屋の近くには林と、道沿いに小川があるので水も焚き火も確保できそうだ。

 

 「それじゃちょっと、水と枯れ枝でも集めてくるからそこで待ってな」

 「私も手伝います!」

 小屋の中に盾と背嚢を置き、剣だけを腰に下げて出て行こうとしたがそんな言葉に足を止めた。ブラトはちょっと悩んだ末に仕事の片方を頼むこととする。

 「それじゃ枯れ枝と何か食べれそうな実や草でもあれば取ってきてくれ、といっても枝を拾い集めるのが目的で、食べ物はあくまでついでだからな」

 「はい!」







 ぱちぱちと焚き火の炎の中で枝のはぜる音が響く。

 簡単な石組みの上に乗せた小鍋からは中々良い匂いがしてくる。

 鍋の中は普段なら干し肉と豆に、そこそこ貴重品である塩を入れただけのスープであるが、今日はイリーナの戦果である山菜がふんだんに放り込まれていた。


 「それじゃそろそろ頂きますかね」

 そう言ってイリーナの持つカップになみなみとスープを注ぐ、自身の分は鍋から直接食べるつもりだ。元々は余計な荷物など無い一人旅である、二人分の食器など持ち歩いていないので必然的にこうなった。

 熱々のスープにカチカチの黒パンをひたして柔らかくしながら食べていく。

 無言でもくもくと食べるイリーナを微笑ましく見ながら自分も食事を進める。




 「そうだ、これを渡しておこう」

 二人とも食べ終わり、小川で食器で洗ったところでブラトが背嚢の中から短剣を取り出した。刃渡りが20リル(約20センチ)ほどの質素な拵えのものだ。


 「……これは?」

 「護身用の短剣だ」

 「でも、私は武器なんて使ったことありません……」

 そう言って、受け取った短剣を返そうとするが、それを押しとどめ

 「抜いて、相手に向けて構えるだけでも結構違うものだ、だから持っていた方が良い。もちろん護衛としてそんなものを使わなくても良いようにしたいとは思うが、相手がそれに付き合ってくれるとは限らないからな」

 「そう、ですか…… わかりました、ありがとうございます」

 「ただ、使いどころを間違えるとかえって身を危険に犯す場合があるから注意してくれよ」

 「どんな時ですか?」

 「そうだな――相手がこちらに直接危害を加えようと思ってない時に下手に武器を危なくなる。例えばちょっと脅して懐の財布を頂戴しようって時に抜かれると、傷つけたり殺した上で奪おうと考えを変えるかもしれん」

 「それはどうやって判断するのでしょうか?」

 「あー、それは経験を積むしかないな。でもまぁ、武器があって困ることより無くて困ることの方が多いからとりあえずは腰にでも下げておけ、使い方は明日からでも教えていく」

 「はい、よろしくお願いします!」

 

 早速大事そうに短剣を腰の紐の間に差し込み、丁度いい具合を捜しているイリーナだったが、ふと思い出したようにこんなことを言い出した。

 「こんなにしてもらって申し訳ないです、何かお礼をしたいのですが」

 「いや、これも護衛の一環だよ」

 律儀な彼女の物言いに思わず苦笑する。

 「でも……」

 まだ気にした様子の彼女に俺はどうしたものかと少し考えたが、あることを思いついて提案する。

 

 「それじゃ何か歌ってくれないか?」

 農村では農作業や機織や洗濯の時なども何かしら歌いながらやることが多いのだ、それは作業の辛さを忘れるためでもあり、共に作業する人との仲間意識を高めるためでもある。


 「わかりました、これでも歌には自信があるんですよ」

 イリーナは少しはにかんでそういうと、両手を広げ、刈り取りのときの歌を綺麗な透き通った、それで居て十分な声量で歌い始めた。


 満天の星空の下で、神に感謝し、大地に感謝し麦を収穫する歌を歌う少女。

 それは本来どこにでも居る農村の娘のはずだった。それが何の因果か遠く北の地まで追いやられようとしている。それが幸せな結末となることを今はただ祈ろう。


 ブラトがそんなことを考えていると、ふとイリーナの目に光るものがあるのに気が付いた。

 迂闊だった、村で覚えた歌なんて歌わせたらこうなる可能性は十分にあったはずだ。彼女はまだ村を出て――それも理不尽にも追い出されて今日で二日目なのだ。


 目を潤ませながら、それでも歌を止めないイリーナに近づくと、ブラトは少女を強く抱きしめた。

 「泣け、思う存分泣いてしまえ」

 そう声をかけ、一層強く抱く。


 「うぁあああああああああ!!」

 歌声が泣き声に変わった、広げていた両手をブラトの背に回し、しがみつくようにして泣く。







 イリーナを抱きとめたまま見上げた夜空には、星がさきほどと変わらず静かにまたたいていた。

ちょっと短めですが、キリが良いのでここまで

ブラトがイリーナをここまで気にかける理由はそのうち書きたいと思います

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