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傭兵と少女  作者: Brandish
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後話 そしてそれから

その後のふたりです。

何の事件も起きない蛇足な話ですがどうぞひとつよろしく。

 ヒュンと空を切る音を立てて、弓から放たれた矢がシカの首筋に突き刺さる。

 シカはその場に倒れて何度かもがくと、やがて静かにになった。


「俺の狩りの腕も上がったな」

 ひとりで居るとつい独り言が出てしまう。すこし気をつけるとしよう。


 シカに近づくと、僅かに心臓が動いている間に素早く血抜きを行い、その後は近くの沢に運び内臓の処分を行う。そして手ごろな枝を切り落とし、革紐と組み合わせシカを運びやすくする。

 血と内臓を抜いても60ガート(約60キログラム)はありそうで、1人で運ぶのは中々骨が折れそうだ。


「よいせっと」

 肩に枝を食い込ませてシカを運び上げる。流石にこれ以上狩を続ける必要は無い。少し早いが今日は帰る事にしよう。







 村に戻るとちょうど畑から引き上げてきたヴァシリーさんに会う。


「これはなかなか大物ですね。それにしても猟師もすっかり板についてきましたね」

「畑とどっちどっちつかずになってしまってますけどね。こいつは食べごろになったらお裾分けしますから楽しみにしていてください」

「いつもすみませんね」

「いえ、こちらも色々お世話になっていますからお互い様ですよ」


 ヴァシリーさんの家とは結局隣り合わせとなったので、シカを運ぶのを手伝ってもらいながら家に向かう。


「それでは私はこれで」

「ありがとうございました」


 家の前につくと手伝ってくれたヴァシリーさんに礼を言って分かれる。

 さて、家の裏の作業場にシカを運ぶかと、ひとりで担ぎなおした時に家の扉が音を立てて開けられ、小さな影が飛び出してくる。


「おとーさん! おかえりなさい!」

 娘のラリサだ、母親譲りの灰色の髪をしている。

 シカを担いだままの俺の脚にかじりつくようにしがみつく。俺はその頭をなでてやり。


「ただいま、でももうちょっとお仕事があるからお母さんと待っていなさい」

 そう言って顔をあげると家からお腹の大きくなったイリーナが出てくるのが見えた。


「おかえりなさい、あなた」

「ただいまイリーナ」

 ラリサの背を軽くイリーナの方へ押しやるとおとなしく離れてくれる。


「それじゃあ俺はこいつを解体してくるから」

「はい」

「おとーさんはやくきてね!」

 ふたりに見送られながら家の裏手の作業場へ向かう。

 屋根と四隅に柱があるだけの場所に作業台が置いてある。その上にシカを乗せると早速皮剥ぎなどの解体を行う。

 そしてしばらくして作業が終り、ほっと一息ついたとき。


「へぇ、手馴れたものだね」

 後ろからそんな風に声がかけられた。

 どこか懐かしい声に振り向くと、そこにはいたずらっぽい笑顔を浮かべたエルフの女性が立っていた。


「エリシュカさん!」

「や、久しぶりだね。6年ぶりかな?」

 あの港町で手助けしてれた放浪のエルフであるエリシュカさんだった。


「東の大陸に渡ったんですよね?」

「そうなんだけどね。いまいち面白くなかったから6年で帰ってきちゃった」

 いかにもがっかりという感じで肩をすくめて言う。


「色々伺いたいことはありますが、ここじゃなんなので家に案内します――。っとその前にこのシカをむろに置いてきます」

「はいよー」


 急いでシカを吊るしてくるとエリシュカさんを家に案内する。


「ただいま。珍しいお客さんが来たよ」

「おじゃましまーす」

「はーい。いらっしゃ……。エリシュカさん!」

「やぁ、元気そうだね」

「お久しぶりです! エリシュカさんもお元気そうで何よりです。それにしても変わりませんね」

「まぁ、エルフだからね。イリーナはすっかりお母さんって感じになったねぇ」


 予想通り盛り上がるふたり。それを眺めているとしたから腕が引っ張られる。

「おとーさん。あのおねえちゃんはだあれ?」

「あの人はね、昔お父さんとお母さんを助けてくれた人だよ。ラリサが今元気でいられるのはあの人のお陰でもあるね」

「そうなんだー」

 ラリサはそういうと、たたっという足音を立ててエリシュカさんに駆け寄る。


「おねえちゃん。おとーさんとおかーさんをたすけてくれてありがとー」

「いえいえ、どういたしまして」

 しゃがんでラリサに目を合わせて返事をするエリシュカさん。そしてラリサをひょいと抱き上げると立ち上がる。


「可愛い子だねぇ、いくつなのかな?」

「3歳です。女の子なのにやんちゃで困ってしまいます」

「そんなことはないよ。子供は元気なのが一番だよ」

「いちばんだよー」


 エリシュカさんに抱き上げられているのが嬉しいのか上機嫌なラリサ。


「立ち話もなんだし座るか。エリシュカさんも夕飯はまだでしょう?」

「うん。僕もお腹すいたよー」


 そんな風に揃って夕飯にしようかと言う時にノックも無く玄関の扉が開け放たれる。


「おーい、ブラ坊。またシカを仕留めたって?」

 肩に息子を乗せたオリガ姉さんだった。


「食べごろになるのはまだまだ先ですよ」

「わかってるよ。いっつももらってっから今日はウチで取れた野菜を持ってだな……。ん、お客さんかい?」

 そこまで言ってエリシュカさんに気が付くオリガ姉さん。


「ええ、古い友人で、恩人でもあるエリシュカさんです」

「そうかそうか。ブラ坊の恩人と聞いたら歓迎しないわけにはいかんな。オレはオリガって言う、こっちは息子のヤーコフってんだ。ほら挨拶しな」

「よ、よおしく……」

「うん。よろしくねヤーコフ君」

 姉さんにつっつかれてこわごわと挨拶するヤーコフと、それに微笑ましげに言葉を返すエリシュカさん。


「よし、こうなったらもうウチの旦那も呼んできて客人の歓迎会をするしかないな」

 勝手に決め付けると、そういうや否やヤーコフを床に置くと玄関を開けっ放しで自宅に走っていった。


「ねえちゃ、ねえちゃ」

 床に置き去りにされたヤーコフがラリサに手を伸ばす。ヤーコフはうちの娘が妙に気に入っているようだ。


「よしよし」

 ラリサもお姉さんぶることができるのが嬉しいのか満更でもない様子。

 さて、姉さん達がくるまで椅子やテーブルの準備をしますかね。







「そうか、猟師だけじゃなくて畑もやってるのか」

「ええ、どちらかだけじゃなかなか不安定でして」

 エリシュカさんと近況を交換し合う。


「東の大陸はどんな感じだったんですか?」

「最初に言ったけどあんまり面白く無かったよ。こっちより大分人が少なくて町から町への移動で何度飢え死にしかけたか」

 などと、大げさに言うのを皆で聞き、笑う。


「ところでヤーコフ君は何歳なのかな?」

 エリシュカさんが少し離れた場所でラリサとなにやら遊んでいるヤーコフを見ながら言う。

「2歳ですね。ウチのラリサを見た姉さんが『ブラ坊に子供がいるのにオレに居ないのはおかしい』とかわけの判らない事を言い出して。それまでの傭兵家業をすぱっとやめて村にずっと居るようになったんですよね。そしてすぐに出来た子供なんですよ」

 俺はヴァシリーさんにお疲れ様という目線を送る。すると彼は苦笑して頷いた。


「なんか負けた気がしたんだから仕方ないだろ。しかもまた仕込みやがって、今に見てろよ」

 という、姉さんの言葉は聞かなかったことにする。


「それにしても子供は良いねぇ」

「ええ、何人でも欲しいくらいです」

 イリーナが大きくなった自分のお腹を大切そうに撫でる。


「いいなぁ、僕も欲しくなっちゃった。ねえブラト協力してくれない?」

 そう言っていたずらっぽく笑いながら俺の左手を抱きかかえる。


「だ、だめです! ブラトさんは私のです!」

 慌てて引き剥がすように右手を引っ張る。

 小さな家に笑いがこだまする。








 ふたりの人生と言う旅はよき友人たちに囲まれてこれからも続いていくだろう。


●この小説を書くに当たって影響を受けたり参考にした作品やサイトです。

戦塵外史 五 戦士の法花田 一三六 著

死ぬことと見つけたり隆 慶一郎 著

欧羅巴人名録http://www.worldsys.org/europe/

Dragon's Lairhttp://dragonslair.jp/main/index.html

中世史の保管庫http://ameblo.jp/sumire93/

WikiPediahttp://ja.wikipedia.org/wiki/

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