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六話 後輩 神和 海那緒①


「さて、どうしたもんかな…」

 今日も今日とて朝日が自棄ヤケのように照らしてくる。

 それなら俺も自棄になるべきだろう。

 と、言う訳で、普段より随分早起きしてしまった俺は、久しぶりに海でも見に行こうと、そこらに落ちていたバイクに跨り法定速度を気持ち良く無視した速度で走っていた所、それを見つけてしまった。

「・・・あーあ、嫌な予感。」

 ぼやきながらバイクから降りる。

 俺が見つけてしまったのは、神和の家。

 昨日、真柩が楢巣区二丁目毎消えたと言ったはずの神和の家。

 鍵は開いている。一歩踏み入れるまでもなく漂ってくる匂いは甘酸っぱいような何かが腐っている臭い。

 ますます沸き起こる嫌な予感を覚えつつ神和の名を呼びながら部屋を見て回り、リビングと一緒になった台所に入った時、それはあった。


 死体。


 誰が見たって間違えようがない。何しろ首が無い。

 多分、いや、間違いなく海那緒だ。肩甲骨の上にあるオリオン座のように三つ並んだ小さな黒子には見覚えがある。

 服は着ていない。傍に血塗れの服が丁寧に畳んで置かれている。

 下腹部が緑青色に変わってきている所を見ると、死後24時間程度か。解剖でもすればもう少し詳しく分かるかもしれないが、生憎そこまでの知識は無いので保留。それに一昨日神和は学校に来ていた。だから死んだのは多分一昨日の夜から昨日の間だろう。この腐り具合からして1、2時間の出来事には見えない。


 もう少しよく観察してみよう。

 体に傷は・・・ある。言うまでも無く首と、左胸に、大体心臓の辺りに深い刺し傷が幾つか。それに腿の辺りが大きく切り取られている。

 ・・・・・・・何故か近くにその切り取られた箇所の皮膚が無造作にある。

 ・・・何だろう、昨日真柩は朝既に神和は消えていたといった。

 剥がされた皮、新鮮な生肉………猛烈に嫌な予感がする。

 ま、まあいい。観察を続けよう。

 服を広げてみる。前述の通り血塗れで左胸に穴がある。つまりこの服を着ていた状態で刺されて、何故か脱がされている。

 失礼とは思ったが足を開き性器に指を突っ込む。精液は無し。

 首の切断面は粗い。ザラザラでこぼこ。決して手馴れた人間が切り落としたとは思えない。首の手馴れた切断跡ってヤツも見たことないが。

 すぐ脇に大振りな糸鋸が放り出されている。刃がべったりと血脂で汚れている所を見ると、コレで首を切断したのだろう。

 争った跡は無い。床は血塗れ。半分乾いている上に腐ってきている所為で悪臭の上に足の下がぬるぬるとしていけない。ハエが消えていてよかったというものだ。蛆なんか集っていたら目も当てられない。

 しかし、腐敗するという事は、世界から細菌までもは消えていないようだ。

 さて、これらの情報を整理して言えることは何だろう?

 まず、他殺だろう。もしかしたら突然死した海那緒の死体を誰かがもてあそんだだけかもしれないが、そこまでは不明。

 まあ出血量と様子から見て、胸の傷は生前。首と腿方は死後だと思うが。

 他殺だとした場合、犯人がもし俺の知り合いの中にいるのなら女生徒の誰かだろう。何しろ俺がやっていない事は当たり前として、もう二人の男子生徒國嵜はあんな状態。黒限に至っては神和に随分と懸想していたようだからこんなことをするとは考えにくい。

 さてそうなると、どうしても怪しいのは・・・・・

 俺の口からため息が漏れる。

「・・・・・・・・・・真柩・・・」

 早起きは三文の徳だなんて絶対ウソだ。


 彼、黒限音弥はその場に座り込んでいた。

 目の前には女生徒の、神和海那緒の死体。

 裸の左胸に幾つも傷穴が開き、じくじくと染み出した血液がフローリングの床を汚している。

 腿は大きく切り取られ傍に剥がされたらしい皮膚が放り捨てられている。

 顔は驚愕を浮べたまま凍りつき、既に眼球は白濁してきている。


 世界が変って直ぐに、黒限は神和に告白していた。

 結果は振られた。

「ありがとうございます、でも、私は貴方が好きになれません。今までも、これからも。」

 短いが完全な拒絶の返答。

 だから黒限は諦めた。

 色恋沙汰に失敗や成功なんて付物。

 そう自分を騙して誤魔化して諦めたという心境を無理やり飲み込んでいた。

 だから、朝、神和の姿が無かった時、神和が町ごと消えたと訊いた時。何をしたいのかも分からず、確認するんだ、花を添えるんだ、もう一度告白するんだ。言ってしまえば混乱を通り越し錯乱したような状態で花屋の扉を叩き壊し、萎れかけた胡蝶蘭を鉢から引っこ抜くと紙にも包まず土まみれの根っこを握ったまま「花を、花を」とうわ言の様に呟きながら駆けつけた黒限を待っていたのは、消えた筈の神和の住居と、神和海那緒の死体だった。


 何時間そうしていたのだろう。

 流れ出した血は乾き始め、僅かながら腐臭が漂い出し、外から差し込む日差しがオレンジ色に変わり始めた頃だった。

「この世は不条理、死が尊ばれ生は弄ばれ、愚者が蔓延り賢者は迫害され、只唯一の安らぎである眠りですらこの世界には目を背ける………うん哲学的だね。」

 何時の間にかいた。

 のろのろと振り向く黒限の視線の先にソレは立っていた。

 レザーのような光沢を放つタイトな服。オレンジ色に染まった白銀の髪、乾いた血よりも朱い唇、落陽よりも金色の瞳。不自然な程に整いすぎた存在がそこにいた。

「………誰だ?」

「ふふん、つまらない質問だねぇ黒限クン。」

 ソイツはニヤリと笑いながら黒限に近づいてゆく。

「ボクが誰かなんてそれこそどうでもいい事だよ、それよりさ、彼女、神和海那緒を蘇らせたいと思わない?」

 満面の笑顔でソイツはあまりに莫迦莫迦しい事を言い放つ。

「・・・そんなの・・・無理だ・・・」

「諦めの良い奴って面白くないね、もっと足掻くべきだよ。現にキミったらあれだけ完全に拒絶されたのに、まだどこか根拠の無い希望を抱いているんでしょう?」

「………なんの事だ?」

「良いんだよ、ボクは総て分かるんだから、さぁ、海那緒チャンを生き返らせよう!」

 ソレの手が黒限の手を掴み立たせる。

 導くように海那緒の死体の傍にひざまずかせると手渡したのは大型の糸鋸。

「さあ、首を切り落として。」

「そんな・・・出来ない・・・」

「それじゃあ海那緒チャンは蘇らないね、残念だなぁ、キミが海那緒チャン蘇らせて上げればきっと彼女だって感謝してキミの心を受け入れてくれただろうになぁ………」

「………本当か?」

 黒限の目に暗い光が過ぎる。

「勿論!」

 震える糸鋸の刃が海那緒の首に触れる。

「ほら、引いて。」

 細かい刃が海那緒の首筋に無数の小さな引っかき傷を作る。

「さあ!引くんだ!!」

 ぞりゅ

 ぞりゅぞりゅぞりゅぞりゅぞりゅぞりゅぞりゅぞりゅぞりゅ

 ねっとりした液体が零れ落ち黒限の手を汚す。

 顔に飛ぶ飛沫を拭おうともせず取り付かれたような表情で黒限は糸鋸を引く。

「そうそう、その調子、まだやる事は結構あるからね………」

 糸鋸を引く音をバックにクインが楽しそうに嗤った。


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