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二十四話 決着 世界の終わり


 彼女は憤っていた。

 何故私の名前が出てこないのか。

 この女が並べた写真の中にどうして私の写真が無いのか。

 もう茶番にもうんざりだった。

 彼の正体がこの女が造り出した物?

 冗談じゃない。

 この女が気に食わない。

 あの何時も彼にべったりとくっ付いていた一年のガキ二人よりも。

 一人お高くしていたあの女よりも。

 だから彼女はゆっくりと形作る。

 自分の身体を形成しつつ、右手を変形させ薄く硬く、鋭利に、刃に当たる部分を滑らかに流動させ。

 満足行く形に出来上がった凶器を、彼女は迷う事無く、振るった。


「─────」

 俺が思いを口にしようとした瞬間だった。

 ごとん───

 重い音と共にテーブルの上を丸いモノが転がる。

 顔に生暖かい飛沫が飛び、テーブルを、皆の写真を、俺を赤く染める。

 テーブルの上で揺れていた丸いモノが動きを止める。

 静かな、優しい微笑みを浮かべたままの表情が血に染まり、俺をテーブルの上から見上げている。

「──────」

 何か声を上げようと口を開けるが、声は出る事無く、俺の口も閉じる。

「───冷たいのね、と言うべきかしら?」

 冷笑、或いは嘲笑を含んだ声。

「その写真の中に私の顔が無い事は気づかなかった?それとも私の事なんて忘れていた?もしかして気がついてはいたけど無視したのかしら?」

 顔だけには笑みを浮かべている。

 けれど、その目は───

「私だって望んだのよ、私に相応しい存在を。全てに秀でてヒトという種においては最高レベルのパートナーという存在をね。だから貴方は最後には私の事を迎えに来てくれると思っていたのに、期待外れもいいとこ。折角邪魔者も排除したのにね?」

 すっと、その手に携えられた獲物の刃先が俺に向く。

「ねえ、教えてくれない?」

 その手に握られた───違う、自体が変形している。

 肘から先が一振りの緩やかにカーブを描く肉色の曲刀に変化し、その切っ先が俺ののど元に向いている。

「どうして私の望みは叶えられなかったのかしら?」

 曲刀の刃の部分がゆらりと波打つ。見る間に細かな振動が沸き起こり刃の部分が微かにぶれる。

「簡単な事だよ。」

 飄々とした声。

 テーブルの上に転がっていた筈の首は肩の上に収まり、血の跡も何も無く、クインが優雅に写真を広げる。

「彼はね、強い想いにしか答えられないんだよ。」

 ニヤリとクイン笑う。

「それにね、彼はヒトの想いを骨子にしたから、ヒトの想いにしか応えられない。」

 立ち上がり、その顔に嘲りと同情を混ぜた複雑な笑みを浮かべる。

「もう少し、詳しく言って上げようか、つまりね、キミは選ばれた訳じゃなく、偶々残ったんだ。イレギュラー何だよ。有態に言ってあげようか、キミは瑕疵かし何だよ。だからキミの想いは彼に反映されるレベルには届かない、そしてキミはもうヒトですら無いって事、理解わかる?それとも脳までどろどろ?」

 ───プツンッ

 そんな音が確かに聞こえた気がした。

 理性の光があった目が一瞬のうちに曇り、また戻る。けれど、理性の光は無い。変わりにあるのは───狂気。

「───いいわ、それなら私が終わらせて上げる、貴女も、彼も、この世界も私も何もかも全て、総て、凡て、全て全て全て!!!!みぃぃぃぃんな、終わらせてあげる。」

 凄絶に笑う梧深紅がそこにいた。


 勝負は、いや勝負とすら呼べないものは一瞬だった。

 クインがパチリと指を鳴らす。ただそれだけの事で決していた。

 びちゃりと梧の体が床に崩れる。

 恐らく張本人の梧だって何が起きたかわからなかったのだろう。

 クインが只指を鳴らした。

 それだけの行為で梧の身体の半分が消し飛んでいた。

 だんっとクインが梧の体の一部を踏みつける。踏みつけられた箇所は飛沫となって消えていく。

「このゲル状生物は何を勘違いしているのかな?」

 クインが笑っている───いや、その表現には語弊があるかもしれない。正しくは顔の筋肉を笑みという形に作っている。

「確かにボクに力は殆ど残っていない。けどね、この世界はボクが創り出したといっても過言じゃないんだよ、この世界に属するものはね本当に極々一部を除いて、ボクに隷属するしか無いんだよ。」

 クインが梧の身体を踏みつける。梧の身体は踏みつけられる度に飛沫となり、少しずつ減っていく。

「そもそもね、さっきも言ったけどキミはイレギュラー何だよ。候補者を何人も殺してくれるし、挙句の果てにはキミが世界を終わらせるって?冗談じゃない、少なくとも世界を終わらせるのはキミ以外のナニカだよ。」

 梧がいやいやするように身もだえしてみせる。けれど、その身体には既に四肢は無く、頭と胸が半分ほど残っているだけ。喉には大穴が開き声も出ないらしい、口を開けて涙を流して何やら哀願する様は伝わってくる。

 だが、俺はそんな梧を見ながら妙に醒めている自分に気がついていた。

「なあクイン?」

「どうかした?」

 振り下ろそうとしていた足を空中で止めたまま、クインが顔を此方に向ける。

「今言った候補者っていうのはもしかして───」

「そう、キミ達、キミも含めて残っていた七人の事だよ。」

 俺は視線を梧に向ける。

 俺の顔を見て必死に何か訴えかけているようだ。

「で、コレが候補者を何人も殺したって?」

「そう、さっき自分で言ってたじゃない。邪魔者も排除したって。」

 ふむ、ということはだ、つまり───

「神和と八重波を殺したのは、コレか?」

「正解。」

 クインが一つ頷く。

 改めて梧に向き合う。

「梧、助けてやる、お前を俺のパートナーにする事も異存は無い、だから二つだけ答えろ。」

 梧が喜色に満ちた顔をする。

「お前が、神和と八重波を殺したか?」

 梧が、頷いた。

「もう一つ質問だ。」

 一つ息を大きく吸う。

 うん、大丈夫。俺は冷静だ。

「お前、真柩も殺していないか?」

 そう、ずっと気になっていた。どう考えたって黒限じゃあ真柩は殺せない。

「どうなんだ、もし殺したんなら、頷け。」

 果たして青桐は───頷いた。

 ずどん。

 足を思いっきり顔面に踏み下ろす。

 験した事は無いが、木綿豆腐を思いっきり踏めばこんな感じだろう。

 足を上げる。

 踏み下ろす。

 足を上げる。

 踏み下ろす。

 何度も何度も繰り返す。

「………もう十分じゃないかな?」

 クインの言葉に俺はその動作を止めた。

 梧はもう無い。

 微塵に磨り潰され、飛び散った飛沫も全て踏みにじり、消した。

「オメデトウ、コレで名実共にキミが最後の一人さ。」

 さして感動も無く、それでも何となく祝福が籠もった声でクインが告げてくる。

「どう、敵を討った感想は?」

 何を言っても無意味な気がして、俺は笑うだけに留めておいた。


「───さっきの話の続き何だけど?」

「うん?」

「俺の望みさ。」

「ああ、そっか、良いよさっき約束したとおりボクは笑わない。改めてキミの望みを聞かせてよ。」

 俺の望み。

 さっき口にしようとして梧に邪魔されたその望みの内容を今一度じっくりと思い出す。

 何度思い返しても、苦笑が浮かんで来てしまう。

「さあ、流石にそろそろお終いが近いんだ。聞かせてよキミの望みを。」

 そのクインの言葉が発端となってか、それとも本当に時間が無いのか。銀月堂の店内に突然ヒビが入り、俺とクインの座る席を除いてさらさらと細かい破片になって消えていく。

「急いで。」

 ちっとも急かすような気配も無くクインが急かしてくる。

 そうこうしている内にクインの身体にも細かな亀裂が走った。

 テーブルの上でティーカップを支えていた右腕が、カップと一緒に細かい飛沫となって消えていく。

 こんな状況下なのに恐怖心は微塵も沸かず、寧ろ何だか笑い出したい気分で、事実俺は噴出しながら、何故か一緒に流れてきた涙を拭うことも面倒で、細かな欠片となって消えていくクインに向かって、俺の望みを、願を口にした。

「────────」

 クインが満面の笑みを浮かべながら消えていく。

「素晴らしいよ、キミは、素晴らしい。」

 ピシリッ

 そんな音が足元から響いた。

 視線を下げると、俺の脚にも亀裂が入っている。そして瞬く間に細かな欠片となって消えていく。

「さあ、終末だ、終わりだ、終焉だ、キミはコレを目に、心に、魂に焼き付けて、ちゃんと終わりを終わらせて、それがキミの最後の役目だよ。」

 クインの身体は殆どもう無い。

 胴が消え、胸が消え、首が消え、頭が天板だけを残して消えたテーブルの上に転がり俺を見上げる。

「一足先にお別れだね、サヨナラを言わないのが《クイン》の流儀なんだ。だからボク達は別れの時は何時だってこう言う。」

 クインの頭が霞むように消えていく。


「それじゃあ、また、何時か何処かで。」


 その言葉を残してクインは完全に消えた。

 クインが消えると同時に残っていたテーブルの天板も消える。

 俺の腰掛けていた椅子もいつの間にか消え、俺の身体も半分が消えた。

 目は瞑らない。

 自分の体が少しずつ消えていくのが見える。

 それと同時に、終末も。

 目を逸らさず終わりを見続ける。

 終わりを認識して終わらせる為に。

 今更になって疑問が幾つか頭を擡げてくる。

 例えば、俺と終わり。

 終わりが終わってから俺が終わるのか。それとも俺が終われば終わりも終わるのか。

 俺が消えてしまったら終わりの終わりは誰が認識するのか?

 そもそも、終わりを終わらせる事に何の意味があるのか?

 疑問に囚われ続けながらも俺は真っ直ぐ見続ける。

 もう俺の体があるのかどうかも分からない。

 今見続けているモノが俺の目を通しているものなのか、それとも俺は既に消えてしまって霧散しきれない俺の意識がみせている物なのか、もう何も分からない。

 それでも、俺は見続ける。

 訪れは唐突だった。

 虚無。

 唯、只管、何も無い。

 《無》という存在としてあり得ないものですら、無い。

 終わりが終わったのか、それとも俺が終わったのか。

 結局何が終わったのか、それとも、もしかしたら何も終わっていないのか。下手をしたら始まってすらいないんじゃないか?

 俺の思考は千々に乱れ。

 やがて、全てが、終わった。


 今年の更新はコレでお終いになります。年明けは一月四日の更新を予定中です。

 

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