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二十一話 決着④


「さて、悪逆非道な前菜はオシマイ。」

 クインの手からは新しい写真が一枚。

「魚料理にしようか?」

 何時撮ったのだろう?

 テトラポッドに腰掛けて例の遠い目をした神和が写っている。

「でも、ミナちゃんはちょっと違うね、キミにしては珍しく───」

「珍しく、何だ?」

「例えば、ミナちゃんのお父さん事、神和カミナ三千時ミチトキ。職業刑事。それも捜査一課。にも関わらずその本性は悪逆非道な殺人鬼。」

「知ってるよ。」

「はい、ダウト。」

 ぴっと細い指が俺を指す。

 よく見ると薄っすらとスミレ色に爪が塗られている。

「知っている筈がないんだよ。だって、捕まっていないんだから。正体不明の殺人鬼は正体不明のまま一昨年の秋には消えたんだよ。でも、キミは知っている。どうして?」 

「俺が最後の被害者だからだろ。」

「ビンゴッ!」

 一昨年の9月。

 俺は神和三千時に襲われ、返り討ちにした。

「死体はどうしたの?」

「どうもしないさ、歯全部叩き折って、目は抉って、顔は、というか頭さら潰して手首と足首切り落として、少なくとも個人の特定になりそうな箇所は全部焼却処分してから工事現場に捨てたよ。」

「そういう事。結局キミの行動のお陰で神和三千時は行方不明扱い。海那緒チャンも殺人者の娘なんて的外れな汚名を着せられ事は無くなったんだけど、今度はその事からまた問題が起きたと。」

 クインがもう一枚写真を取り出す。

 写っているのは一人の人物。禿頭姿に真っ白な詰襟を着込み両肩に緋色と青色を交互に織り交ぜた布を垂らしている。その後ろには湿地とか深海とか干潟とかに棲んでいそうな生物を適当に混ぜ合わせ狂気で纏めた様な均整の取れない何とも人の不快感や不安感を煽る物体が蓮華台の上に鎮座させられている。

「海那緒チャンのお母さんは何をどう間違ったのか、それとも間違わされたのか、選りにもよってこんなのにどっぷりと肩を通り越して頭の上まで浸かっちゃったと。」

 宗教法人<瑠璃の癒え>

 どうしようもなくカルトだった。

 写真に写っているのは代表者の魚還オガエリ真海シンカイ。後ろに写っているのは御神体の一つで守護洲さまとやら。万物は海から生まれやがて海に帰る。海中深くに眠る神殿を擁す島を浮上させこの世界に永遠の恩恵と安らぎを与えるとか何とか。そんな教義を振りまいていた。

 実際やっていたのは世界各国の悪魔主義者や悪魔崇拝者も真っ青な儀式の数々だったり………まぁそんな所だ。

「今更切欠とか探る気も無いけどね、何にせよ海那緒チャンのお母さん、神和カミナ深風ミカゼは文字通り身も心も捧げちゃったと。」

「で、身も心も捧げた結果代表者の魚還さんと他の信者多数と共に集団自決と。」

「はい、ダウト。」

 空になった俺のカップにクインがティーサーバーから新しく紅茶を注いでくれる。

「全部が全部間違いでも無いけどね、例えば集団自決は本当。全員服毒自殺の後教団本部は時限式発火装置によって全焼。ここまでは本当。でも、勿論嘘もあるよね?」

「美人の淹れてくれたお茶は良いな。」

「絆チャンが怒るよ?」

「………だから、一々真柩に怒られる要素は無いんだけどな。」

 関係ない事を口走りつつ。あの時の事を思い出す。

 実際問題として俺がやった事は一つだけ。

 それは魚還真海の殺害。

 先に神の身元に行くとか何とか、志ある者は私に続いて赫々云々、永遠なる淵の果てで不滅の浄化された魂の生活がどうしたこうした。

 そんな遺書も用意しておいた結果、日本の人民寺院と呼ばれる事件が起きましたとさ目出度し目出度し。

「最小の行動で最高の結果を出すって素晴らしい事だね。」

 俺は無言で笑っておいた。

「けど、またここで問題が起きる。父は失踪、母は変なのに被れて自殺。そんなスキャンダラスかつ俗悪な内容で両親が相次いで消えた結果、元々少々神経薄弱気味だった海那緒チャンのおにーさん、神和浬クンは───」

「失踪。」

「また、ダウト。」

 言われなくても分かってる。

 神和浬は失踪したワケじゃなく───

「キミも思い切った事するよね、正直放っておいても良かったんじゃないかと思うけど?」

「放っておいたら、神和も死んでいただろ。」

 浬は心中しようとしていた。

 だから、俺は浬も殺した。

「おまけに言えば海那緒チャンに酷い事していた遠い親戚のお家が火事になったのも勿論偶然なんかじゃなくて、キミがやったと。」

「そうだよ。」

「あらら、随分素っ気無い。もう少し言い逃れとかしてくれないの?」

「最初から言い逃れする気なんて欠片も無い、自分から言うつもりこそ毛頭も無いけど、誰かが聞いてきたら正直に答えたさ。」

「あっそぅ………」

 クインがスコーンを取りマーマレードを塗って一口。多分ここの店主お手製夏みかんのマーマレードだろう。

「一つ聞いても良い?」

「どうぞ。」

 指に付いたマーマレードをぺろりと舐め取り、テーブルに置かれた写真を一枚撮る。

「キミが神和三千時を返り討ちにしたのは何時だっけ?」

一昨年おととしの9月だ、生憎日付は憶えてないよ。」

「良いよ、そこまで細かくは求めてないから。じゃあ次、キミが<瑠璃の癒え>代表、魚還真海を殺したのは何時?」

「一昨年の十一月二十七日だ。コレは流石に憶えている結構話題になったからな。」

「ふん、あんな劣悪なのどうでも良いよ。それよりも次の質問。君が神和浬を殺したのは何時?」

「去年の一月───十日前後だったかな?」

「海那緒チャンの引き取られた家に火を点けたのは?」

「去年の五月だけど、それがどうかしたか?」

「じゃあ、本題。」

 顔の前に一枚写真が突き出される。

 写っているのは遠い目をしてテトラポッドに腰掛ける神和。


「キミが海那緒チャンに逢ったのって何時だったっけ?」


「………何時も何も、去年の四月。入学式の日だ。」

「そう、そうだね。それじゃあキミが海那緒チャンの過去を知って君にしては一体どういう心境の変化か少し何とかしようなんて稀有な事思ったのは何時?」

「………確か去年の7月辺りだったかな?」

 そこまで自分で言って漸く気付く。


「そういう事、どう考えてもオカシイって分かった?」

 そうだ、俺が神和と知り合ったのは去年の四月。そして神和の状況を知ったのは去年の七月。

 なのに、俺は一昨年の時点で行動を起こしている。

 記憶違いなんてレベルじゃない。時系列上に矛盾が生じている。

「……………どういう事だ?」

「一応言っておくけどキミ割と規格外だけど時を越える能力なんてモノは持ち合わせていないからね。」

 気に入ったらしくマーマレードだけをスプーンで口に運びながらクインがそう告げる。


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