十九話 決着②
ガラガラ………ガラン………
そんな音が聞こえてくる。深い空井戸に石でも落すような音だ。
「やれやれ、始まっちゃったか。」
クインが頬杖を突き、ドアに視線を向ける。
「何がだ?」
「うん?見てみれば分かるよ。」
怪訝な思いに囚われながら、紅茶の入ったカップ片手に立ち上がり、ドアを開ける。
そこは───
「どう、中々壮絶な光景でしょ?」
世界が崩壊を始めていた。
遠くの方から得体の知れない………何だろう?表現できないモノに世界が音を立てて崩れながら呑み込まれていく。
「今ね、キミが見ているのが虚無ってヤツだよ。」
何時の間にか隣に来ていたクインがそう告げる。
「アレの事を終末とも言うんだよ、ヒトには絶対に認識出来ないモノさ。」
クインがドアを閉める。
「さあ、まだ時間は少しだけあるんだ。とっとと決着を付けよう。」
「お前さ、俺に何させたいんだ?」
再びクインと向かい合うように席に着く。
「いいから、キミの話が片付いたら全部教えてあげるよ。」
理由も理屈も分からないが、俺の身辺をすっきりさせない事にはこの茶番も終わらないし、世界も終われないようだ。
だが、何かおかしくないか?
「さて、次は誰にする?」
「誰でもどうぞ、麗しいお嬢さん。」
「この状況下で軽口が叩ける神経がとってもステキだよ。それじゃあこの二人。」
空っぽだった筈のクインの手から二枚の写真が現れる。
写っていたのは損壊が酷いが何とかヒトの形を保っている真っ黒焦げの焼死体と幹に苦悶の表情を刻み込んだ捩れた樹木。
「黒限と、御巫か。」
「そう、キミが大嫌いな二人。」
「またそういう誤解を招きそうな事を。俺はね、こう見えても世界博愛主義を広めようの会会員───」
「あのね、その突っ込みにくい微妙な大嘘はどうでもいいから話を進めようよ。」
一刀両断とはこの事だ。
「第一博愛主義だろうが何だろうが嫌いなものは嫌いでしょう?誰にでも笑顔を振りまいて全ての人から好かれようなんて───勘弁してよ気持ち悪い。」
「───確かに同意見だよ。どちらかと言えば俺も嫌われ者に分類される方だしな。」
「そうそう、ヒーローは人に好かれちゃいけないんだよ。後ろ指差されて妬みと嫉みの的になって見当違いの恨みを買って不条理に貶められて全人類から唾棄されて世界から呪われるような存在じゃないとね。」
「………また随分穿った意見だな。それ以前に俺ヒーローじゃないし。」
「何言ってるの、世界の終末なんてモノを見ちゃったらとてもじゃないけど常人にはもう程遠いよ、それこそヒーローなんて呼ばれ方がキミにはもうしっくり来る所まで来ているんだから。それに並外れた何かを持った個体はどうしても嫌われるんだよ。だからこそ、それにも関わらず、そのヒーローを好きだと言ってくれる数少ない人たちの存在が輝くんじゃないの。」
クインが紅茶を一口。
「尤も、キミはそんな人たちまで全部壊しちゃったんだけどね。」
クインは誰の事を言っているんだろう?
いや、誰も何も俺に好意を寄せていてくれたのは真柩と神和それに八重波の三人。
只、俺が一方的に好意を寄せていてくれたんじゃないかと思うだけで、向こうからすれば何寝言をほざいてるこのスカタン位に思われていたかもしれないが。
「だからそういう娘達はメインディッシュ。先ずは十把一絡げな前菜前のフィンガーボール程度のヤツから始末しないとね。」
「悪いが、この二人に関しては特に語る事も無いな。」
「本当に?」
「ああ、どちらにも興味無いよ。黒限はあんな事しなければ別に手を出す気すらなかったし、御巫には興味すらわいて来ないしな。」
「その割には、随分酷い事しなかった?」
「自業自得だろ、黒限は俺の大切な真柩を壊したし、御巫は俺の友達を侮辱した。」
「キミってさ、容赦ないよね。」
「ふん………けどお前にだってあるだろ、逆鱗の一枚や二枚、そこに触れられたら最後、相手が誰であろうと俺は許せない。」
「うん、良いと思うよ。でもさ、気が付いているんでしょ?」
「何をだ?」
「結局の所、黒限と御巫の二人を追い詰めたのもキミだって事。」
─────勿論。
「またワケの分からん事を………」
クインはただ意味ありげに笑っている。
例えば、黒限が神和に惚れるように誘導したのは、俺だ。面食いなのは知っていたから割と簡単だった。それとなく趣味思考好みを探り出し、それとなく神和をそういう方向に誘導して、ここまですれば後は時間の問題だった。真柩と共に頻繁に俺の元に来ていた神和に食指が伸びるのも当然。
ついでに言えば、神和が黒限を拒否するのも当たり前、何しろ神和にはド本命がいるのだから太刀打ちしようも無い。
名前は神和浬。この際実の兄だとかは些細な問題だろう。
兎に角、神和海那緒はほぼ同じ遺伝子情報を持つ、少々精神薄弱気味な兄を愛していたのだ。
しかし、こう考えてみると、黒限が真柩を壊したのは、神和を生き返らせるための血液が欲しかったから。では、何故?
要因の一つとしては目の前に澄ました笑顔で座っているコイツが唆したという点もある。
しかし、第一に、黒限が神和に惚れていた事が原因なのだろう。となるとだ、黒限が真柩を殺す動機となった大本は俺が作った事になる。つまり、真柩を間接的に殺害したのは、他でもなく俺。
………ああーでも直接手を出したかったしなぁ………
うん、やっぱり黒限は有罪。
………虚しい思考だ。




