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十七話 終わりの始まり

 

 全開に開いた窓からは爽やかな風が吹き込んでくる。

 神経質的なまでに細かく編みこまれたレースのカーテンを僅かに湿り気と潮の匂いを含んだ風が靡かせてそのまま何処かに吹いて行く。

 窓の外は何処までも青い。何処までも青い海が広がり、何処までも蒼い空が広がっている。海と空の境界すら曖昧なほどに、ただ青が広がっている。

「座ったら?悪いけど《開かれた窓》、《青い空と海》、《爽やかな風》なんてキミには似合わな過ぎるイメージだよ。」

 カウンターの中でごそごそやっているクインが憎まれ口を利いてくる。

「お前な、それじゃあ俺はこうやって窓際にたってムーディーな気分になるのも許されないのか?」

「勿論、キミに似合う舞台装置は精々《閉じられた窓、オプションとしてさびの浮いた鍵付き》《鉄格子、手枷、足枷付き》《荒れ狂う海と曇天、或いは雷雲、雨雲》それに《血、硝煙、腐臭、死臭》《乾いた風》そんなところじゃない。」

 適当な椅子に腰掛けた俺にクインが紅茶を差し出してくる。

「───前々から思っているんだが」

「何を?」

「何故か俺とある程度親しい連中は俺にそういった何処となく犯罪者チックなイメージを持つようなんだが、俺ってそんなにアレか?」

「アレも何も───キミは元からそういう存在じゃない。」

 向かいに腰掛けたクインが優雅に紅茶を口に運ぶ。だが、熱かったらしく慌てて離し、顔をしかめている時点で台無しだ。

「やれやれ、それじゃあ先ずはボクの事から話そうかな、時間もあまり無い事だし手際よく済ませないとね。」

 諦めたのか、ティーカップをソーサーの上に戻し、クインが語り始める。


「さて、当たり前の事だけど、世界は無数にある………何だい、その予約しておいたはずなのに開けてみたら生米が入っていた電子ジャーを覗いたような顔は?」

「気にするな、誇大妄想には慣れている。」

「あのね、人の言う事をいきなり誇大妄想って切り捨てないでよ………まあいいや、キミがどう思おうが、コレが真実だからね。」

 コホンと小さく咳払い。

「では、改めて。世界という存在は無数に存在して、そのどれもが休むこともなければ留まることもなく永遠に枝分かれして偏在していく。そしてボク、クインはそんな偏在していく世界に必ず一人ずついる存在。」

 ふむ、得体の知れないヤツだと思っていたが、頭の中は得体がしれないを通り越して、随分遠くに逝っちゃっているようだ。

「コラ、逃げようとしない。」

「ハッハッハッハ、俺は美人から逃げるような無粋な真似はしないよ………電波からは逃げるがな。」

「うっさい毒電波。」

 ヒデェ………

「いいから、最後まで聞きなよ、別に納得しなくても良いから、今ボクがやっていることは一つの儀式みたいなモノなんだから。」

 一つの儀式。

 その言葉の意味を聞こうとする前に、クインがまた話を続ける。

「ボク等の存在理由は一つ、どんな形であろうと世界を存続させて面白い世の中を作ること。まあ、手段を選ばないせいか《混乱の担い手》とか《這い寄る混沌》なんて中々ステキかつ邪悪な名前で呼ばれる事もあるけど、それは置いておこう。要はボクはそういう存在。世界に混乱を振りまいて、良いにせよ悪いにせよ世界を騒がせるトリックスターのようなモノだと思ってもらえれば良いよ。」

 ようやく冷えたらしく、紅茶を一口。

「何か質問は?」

 質問?

 疑問点は沢山ある。

 何が何だか端から分からない気がする。

「無言って事は理解してくれたんだね、理解力が高い事は良い事だよ。」

「いや、質問と言うか、疑問は大いにあるが、何を聴いたら良いものやら少々困っているんだ。」

「あらら、数学の出来ない子供の言い訳みたい。どこがわからないんですか?何が分からないのかすら分かりません。ってね。でもね教える方だってこう思っているんだよ。何故分からないのかが分からないって。」

「その比喩の仕方だと何か俺が凄く愚かなように聞こえるんだが?」

「そうでもないよ、自分が知っている事を人に教えるっていうのは案外難しいモノだからね、自分が分っている事は他人にも分かる筈だなんて間違った認識が在る内はどんなに噛み砕いて教えたところで喩え分かってくれても理解には程遠いもの。だから、キミはゆっくりと考えてくれて構わないよ。時間はあまりないけどキミとこうやって話す時間はまた別問題だからね。何しろキミがしっかりと理解してくれない事には次の段階にもいけないしね。」

 さっきからチラホラと気になる言葉は出てくる。

 そもそも、どうして俺がコイツの戯言を理解しなければならないのだろう?

「さて、キミが考えているうちに今度はキミについて決着を付けようか。」

「俺の決着?そんなものあるのか?」

「当然、よく言ったモノだね。散々人の人生にちょっかいかけて食い散らかして修復不可能にしてきたキミの台詞とも思えないよ。」

「お前ね、俺がいつ誰の人生を壊したって?」

「いやぁ、自覚あるでしょ?」

 冷めた紅茶を呷る。

 味はかなり良い。こういうモノは、料理の腕前とか音楽や絵画の才能とかは人格と比例しないものだ。

「少なくとも真柩絆、神和海奈緒、黒限音弥、國嵜師朗、御巫瑞葵、八重波七瀬、防人譲羽に関しては、キミはしっかりと関わってる。」

「───そうか、お前俺の過去知ってるんだったっけ。」

「そう言う事。」

 ティーサーバーからクインが新たに紅茶を注いでくれる。

「一人一人言ってみようか、先ずは國嵜クン。」

 クインの声が妙に遠くに聞こえた。


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