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十六話 幕間①


「いきなり出てきて、開口一番それか?」

 ニヤニヤと口角を歪めクインが嗤っている。

「事実だからしょうがないよね?」

 無礼なヤツ。

 それじゃあまるで俺が人でなしのようじゃないか。

「少しは自覚した方がいいね、君は正真正銘何処に出しても恥ずかしくない三国一の人でなしだよ。」

「頭の中まで突っ込むなよ、しかも何だそれ、もう少し言い方ってモノがあるだろ?」

「………そうだね」

 おもむろにクインの右手が動く。

 腰の後ろに回された瞬間、俺の体は動いていた。


 僅かな金属音を。

 微かな硝煙臭を。

 無視する事が出来なかった。

 俺の予測を遥かに上回るスピードで腰から引き抜かれた拳銃の銃口が此方に向けられる。 

 軽い、とても人の命を奪う事が出来るとは思えない程の軽い音で発射された初弾がこめかみの脇を通り抜ける。横っ面を鈍器で殴られたような衝撃に襲われるが、俺の動きは止まらない。

 手のひらが焦げるのも構わず銃身を掴み、捻り上げクインの指を粉砕する。そのまま手首から肘に腕を絡め間接を外す。さらにその腕を背中側に回し身動きできぬよう極めた上で、俺の左手に掴まれたままだった七瀬のナイフがクインの咽喉のどを掻き切っていた。

「ほら、キミはやっぱり人でなしだよ。」

 切ったはずの咽喉は切れておらず、外したはずの腕もそのまま。粉砕した指すらそんな素振りも無く、するりと俺の腕から逃げたクインが再び俺に向けて発砲してくる。

 銃口からは《BNG!!》とポップな筆跡で書かれた旗が飛び出していた。

「少なくとも、ボクが腕を動かしただけで行動を読み取って、即座に反撃、しかも何度も言葉を交わしてそれなりに顔見知りになってきている間柄の人間を躊躇なく殺そうとしてくるのはやっぱり、人でなしだよ。」

 旗を軸に巻きつけ、砲身に押し込みながらクインが言葉を続ける。

「尤も、キミにとって今の行動はごく当たり前なんだけどね。」

 結局上手く押し込めず、引き抜いた旗を放り捨て、銃だけ腰の後ろに回すとベルトに挟みこみ、そのまま歩き出す。

「何処行くんだ?」

「さぁ?」

「自分の事だろ?」

「何言ってるの、キミだって自分の事が一番分からないでしょ?」

 ああ、その通りだ。

「そもそも自分の事すら理解できないんだから、他人を理解しようとかわかろうなんて元々無理な話だったのかもしれないねぇ。」

「………何を言いたい?」

「いいからさ、付いてきなよ。」

 よく分からないが、クインの後を追う。

 学校を出て、商店街を抜け、海沿いの道を二人で行く。

 色々話した。

 というか、クインがひたすら話し、俺は相槌を打つだけの聞き役。

 静かになるのを嫌がるかのようにクインは話し続け、ようやくその口を閉じた時、俺とクインは一軒の店の前に立っていた。

「ねえ、一つだけ問題を出しても良いかな?」

「どうぞ、一つと言わず百でも二百でも。」

「──本当に出すよ?」

「………スマン、勘弁してくれ。」

「良いよ、勘弁してあげる。それじゃあ一問だけ。」

 クインは相変わらず笑っている。

 ───いや、俺コイツの笑い顔以外の表情って見たことあったか?

「森羅万象全てにおいて、必ずある二つのモノは何でしょう?」

 答えは知っている。

 分かっているではなく知っている。

 何故なら俺は過去にも同じ問題を出されている。

 あれは、確か………半年ほど前の………

「…………始まりと、終わり………だろ?」

「そう、大正解。」

 クインが店の、銀月亭の扉に手をかける。

「キミは運が良いよ───否、どうしようもなく悪いのかな、始まりは確かにあった。けれどそれはどうしようもなく不確かで認識しようにも出来ないモノ、そんなモノだから始まりは大抵紛らわしくて、他のモノと大差無いようになっている。朝になれば日が昇ってしまうように、夜になれば月が灯るように、始まりはいつだってこっそりと誰にも気づかれること無くその役目を終えて、いわばボク等は何時だって途中を過ごしている。」

 扉に手をかけたまま、クインが此方に振り向く。

「でも、終わりは違う。突然訪れても緩慢に訪れても終わりは終わり、始まりと違って誰かに認識されない限り、終わりは終わりとして存在できない。」

 ゆっくりと、扉が開く。

「オメデトウ、それとも………残念でした。キミが終わりを認識するモノだよ。」

 クインが開いた扉の向こう。

 そこは何時も通り、見慣れた銀月亭の内装が広がっている。

「さあ、決着をつけようか、キミの事も、この世界の事も。」

 何故だか分からないが、笑った気がする。


 短めなのでもう一話投稿します。

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