第9話 そびえ立つ巨大なる壁
「そうか。
だが、異星文明調査局の仕事は楽ではない。
未知の星系、未知の文明と接触し、互いの価値観の違いを理解して相互理解をもたらさなければならない。
それは容易いことではなく、時には厳しい現実を知ることもあるだろう」
青年の言葉に結衣はうなずくと背筋をただして答える。
「覚悟しております。入局の際はゼフィル共和国国民として忠誠を誓い、共和国を祖国として最後まで尽力いたします!」
まっすぐにユリウスを見つめる結衣。その視線を受け止めたユリウスはうなずく。
「そうか。では再会を楽しみにしていよう」
「はい!」
そのやり取りの間に、春人はようやく思い出していた。
ユリウス・クアモデス。
ゼフィル共和国の軍人にして、元大統領。大統領の任期終了後の今は異星文明調査局の代表として銀河系各地の調査の指揮をしている。
そして太陽系からこの星に住む日本人を連れてきた張本人。
ということは今彼が身に付けているのはゼフィルの軍服か。
胸に勲章をつけているような公の場に立つときに着る正装ではなく、動きやすさを重視した野戦服のようである。
傍らに立つのは別の制服を着た狼顔の人物。こちらは正装であろう。
そんな国家的重要人物が自分に何の用事なのか。
「すまないがわたしたちは彼と話をしたい。
院長、しばらく人払いを頼みたいのだが」
傍らにいる院長先生にユリウスはそう言うと、彼はうなずく。
「わかりました。この病室は一時面会謝絶としておきます」
そう言って院長先生は頭を下げて病室を辞する。
そこに、
「あの!閣下!
わたしも一緒に、同席してもよろしいでしょうか?
先ほどの通り、兄は今…その…情緒不安定で、もしかしたら閣下に失礼をするかも知れませんし」
上ずった声で歩み出てそう提案する結衣。
ユリウスはそんな彼女と春人、そして傍らに控える部下とおぼしき狼顔の人物、3人の顔を見比べていたが、
「そうだな、君が異星文明調査局に入るのならこの件にも関わってくるかもしれないな」
そう言うとユリウスは後ろに控えている人物にむかってうなずく。
「えっ?」
意外な言葉に目を瞬かせる春人。
結衣も同じであった。
ユリウスはあっけにとられている二人を見渡すと言葉を続ける。
「順を追って話そう。時任君、すでに聞いたかもしれないが、ここは君たちの始祖である地球人の太陽系から100光年以上離れている恒星系アマテラスの第三惑星」
それは昨日、自分自身で調べた事。
ユリウスの言葉に春人はうなずくと彼は続ける。
「そして君は地球、それも平行世界の地球の日本から何らかの形で魂、意識と言えば良いか。それだけがこちらに来てその体に宿ったようだ」
その言葉に春人は唖然となる。
「え?そう…なの?」
「平行…世界?」
ユリウスの指摘に顔を見合わせ、目を瞬かせる兄妹。
そんな兄妹をユリウスは穏やかに見守り、間を置いて話を再開する。
「こことは似て非なる別の宇宙ということさ」
「そんな」
唖然とする兄妹にユリウスは病室に置かれていたパイプ椅子に座り、説明を始める。
「実は君以外にもこの星には平行世界から転生した日本人の意識が宿った人は少なからずいる。
我々はその報告を受けて彼らから聞き取りを行ったが、彼らの話には矛盾、つじつまが合わないところがある。
同じ年の同じ月に全く違う出来事が起きているのに互いにその出来事を知らないのもざらだ。
しかもそれは、我々が知るこの世界の地球でもまだ起きてない出来事についての話もある。
協議の結果、我々は君たちを平行世界の日本からの転生者として扱うことにし、調査と接触、そして保護を行っている」
「どうしてです?」
ユリウスの言葉に反射的に訪ねる春人。
「君たちが知る平行世界の日本の知識の無秩序な拡散は危険だからさ。
このアマテラスの社会にすむ日本人に望郷の念を抱かせ、地球への帰還を求めようとする動きを生み出し、不安と混乱をもたらすかもしれない」
その言葉に春人は愕然とする。
「そんな」
呆然とした声をあげる結衣、春人は思わず結衣の方を見る。




