第26話 揺れる心
「水は豊富か。厳しい寒暖差が課題だな」
風呂から戻った土方は休憩室でテレビを見ていた春人らの姿を見ると上機嫌でそう言う。
どうやら制限なく水やお湯が使えることに満足しているようだ。
「この星だと、このままでは外には出られないんですよね?」
陽葵の言葉に土方はうなずく。
「明日は機密服が必須だ。着用方法を確認しておけよ」
その言葉に陽葵はうなずくと席を立ち、
「また明日」
「ああ」
そういうと陽葵は春人と土方に頭を下げてあてがわれた部屋に戻っていく。
「おい、時任」
陽葵がいなくなってしばらくすると土方は不機嫌そうに春人に声をかける。
「これは爺のお節介だがな、あの子が気になるんだったらアプローチしろよ」
突然のことにうろたえる春人。
「…でも」
「でないと俺が口説くぞ」
土方のその言葉に春人はどきりとするが、土方は笑みを浮かべる。
「なんてな。中身が爺の30過ぎの親父なんてあの子からすれば対象外だろう。だが、油断しない方がいいぜ」
そう言うと土方はニヤリと笑みを浮かべて寝室へと戻っていく。
一方、春人はしばらく考えていた。
結衣に言われたこと、土方に言われたこと。
しかし、答えは出ない。
翌日
用意を整えた春人らは案内を受けてクレーター内に築かれた町まで降りる事となった。
機密服を着用した彼らは軍の車両に乗り込み、採掘用の鉱山に向かう。
巨大な気密扉が重々しく開くと、彼らをのせた車両の列は舗装された道路を走る。
外は絶え間なく風が荒れ狂うため、車は空を飛ばず、地上を走る。
窓の外、東の空にはこの辺りでは沈むことのない太陽が輝く。
夜が来ない、永遠の朝日が照らすなか、彼らは鉱山に到着する。
そこは設備の多くが機械化されており、採掘され、精製された地下資源が輸送車両に載せられて運び出されていく。
採掘を行う機械を遠隔操作する指令室を彼らは見学する。
鉱山といいながら人力での作業はほとんどなく、現場は遠隔操作と人工知能で動く重機が画面の向こうで絶え間なく動いている。
しかし、人力が不要なわけではないらしく、屈強な作業員が行き来している。
「機械任せにするんじゃなくて、人が入って何とかするというわけか」
「さすがは現役ですね」
土方の言葉にイーテニス大尉が賛辞を送る。
大尉は続けて参加者一同に告げる。
「完全自動化が実現して人が全ての労働から解放されても、それで得られる収益だけではすべての国民を養える力はありません。
また、生産活動の全てを機械に頼りきるのも危険です。我々が調査した限りでも過去、銀河の文明のなかには完全なる機械化を実現した結果、機械に支配され、滅ぼされた文明の記録もあります。
どれだけ技術が進歩しても人の世を維持するにはやはり人の手が必要、これが我が国ゼフィル共和国政府の出した結論です」
その後、彼らは惑星改造の研究機関を視察する。
ここはこの星の厳しい環境におかれた地球産の植物が適応していく様を研究しているのだと言う。
「奴ら、この分野でも手慣れてやがるな」
視察を終えた春人らは、港に戻り第六惑星へ向かう軍の輸送船の用意を待つことになった。
民間船が行き来しているのは第四惑星までで、ここからは軍の船しか行き来していないのだと言う。
その間、土方が春人らに告げる。
「これがゼフィルの強みさ。
やつらは銀河系中の天体を常に調査している。そして、人がすめる環境の惑星をもつ恒星系を発見したら、場合によっては調査の名目で艦隊を駐留させて確保する。
で、人がすむ恒星系があったらその星の興亡を観察して記録し、外宇宙に進出できるほどになった文明には接触し、地球みたいに核兵器を捨てられない危険な文明には警告をする。
これを何万年、下手したら億単位の時間をもかけてやってきた。このアドバンテージは容易には崩せねぇだろうな」
「彼らは銀河の支配者のつもりなのでしょうか?」
春人の問いに土方は肩をすくめる。
「どうかな?この銀河にはやつらよりもでかい国はいくつもあるって話だ」
こちらにきてまもなくやったネットでの検索でその事を知っていた春人はうなずく。
「ゼフィルがその気になればそいつら以上の国になれるはずなのにそれをしない。そこがわからんな。
いや、それもやつらが他の文明を観察して得た成果かもな。自分達がこの巨大な銀河系世界の覇権を取る、その危うさに気付いているんだろう。
奴等は圧倒的な武力ではなく、それ以外の方法で裏から銀河系を支配している。
たぶん、このアマテラスも含めて、この銀河のどこの国もゼフィルの協力なくして自分の勢力圏外の未開星系の開発なんてできないだろうな。一から調査するには手間と金がかかるからな」
それを聞いた春人は改めてゼフィルの力を思い知るのと同時に、いつか彼らを相手にしなければならない大変さを実感する。
彼は漫画やアニメに出てくるような強大な悪の帝国とは根本から違うなにかをゼフィルから感じていた。
日本、いや、地球の文化文明を尊重しながらも同時にいくつもの策を張り巡らせているしたたかさ。
自分達は果たして彼らに対抗できるのか?
やがて用意が整い、春人らは軍の輸送船で第四惑星を離れる。




