24 非現実的な現実
「航海長、軌道変更は可能かね?」
船長は傍らに座る人物に尋ねる。
「軌道変更は可能ですが、予定が遅れます。また、遅れた予定を取り戻すには大きく燃料を使う必要があります」
着いている席の前にある端末を操作していた人物が答える。
「進路変更よりも迎撃対処の方が賢明です」
その報告に船長はうなずく。
「飛来物は本船前方、一時から二時方向より接近」
「二分後に交差します」
「飛来物の解析出ました。人工物ではありません」
操舵室の各部に座る管制官からの報告が次々に上がる。
「脅威度中、質量から光線砲を用いた溶断による対処が可能と思われます」
春人らの前で緊迫したやり取りが交わされる。
そんな中船長はうなずき、判断を下す。
「船上部の光線砲及び防御力場用意」
「了解、船内の電力を光線砲に回します」
「客室の照明、人工重力への電力供給停止」
船長の指示の下、部屋の照明が非常灯へと切り替わり、部屋が赤くなる。
「飛来物さらに接近!まもなく照射圏内に入ります」
レーダー手からの報告に船長は表情を険しくさせる。
「光線砲用意!」
その命令からややあって報告が帰ってくる。
「用意よし!」
「照射!」
船長の指示の下、船内に光線の照射を伝える警報が数秒鳴り響き、やがて、
「飛来物の反応消失」
その報告に船長はうなずく、が、
「破片、飛来します!驚異度低!」
続けての報告に即座に答える。
「力場展開!警報!」
船長の指示が飛ぶとすぐに船内に警報が鳴り響く!
同時に真っ暗だった窓の外が防御力場の光で輝きはじめる。
ややあって衝撃が起こり、船内が若干揺れる。
「船上部の防御力場に負荷発生、想定内です」
「防御力場の出力数値、正常に戻ります」
「船内に異常無し」
「周囲に反応無し」
管制官からの報告に船長はうなずく。
「問題ないようだな。では警戒体制を解除」
船長の指示で照明が元に戻っていく。
「航海長、航路はどうなっている?」
明るくなった操舵室で船長が再び航海長に尋ねる。
「誤差の範囲内です。しかし若干の軌道修正と加速の必要有り」
「算出してくれ」
「了解」
一通りのやり取りを終えると船長は席につく。
「さすがですね」
イーテニス大尉が船長を労う。
「仕事ですからな」
それに対し船長は不敵な笑みを見せる。
そうして見学を終えた春人らは客室区画に下りてくる。
ふわふわした無重力の区画から人工重力が支配する区画に戻ると、身体にかかる重力の存在に春人は安堵する。
そんななか
「すごかったな!」
「正にSFだぜ!」
周りではそうした声が上がっている。
「時任春人くん」
大尉が春人に声をかけてくる。
「は、はい」
彼女は歩み寄ると小声で春人にささやいてくる。
「君たちのことについて詮索はしないけど彼女の事、守ってあげてね。どうやら彼女は君を頼りにしているみたいだし」
「…はい」
「私たちは君たち一人一人の事までは対処出来ないから。お願いね」
「はい」
大尉らと別れた春人と陽葵は船の売店に通じる通路を歩いていた。
「これがこの世界の日常なんだな」
「…うん」
彼らにとってはまだ非現実的な、しかし紛れもない現実に春人が呟くと陽葵もうなずく。
売店に向かって歩いている間、春人はさっき握っていた陽葵の手の感触を思い出していた。
震えていた彼女の手。しかし、対処が終わる頃には震えは収まっていた。
「あの、先輩」
「ん?」
おずおずと頭を下げる陽葵。
「先ほどはありがとうございました」
素直な感謝に春人は頭をかく。
「それで、あの」
陽葵はためらいながら続ける。
「先ほどは大尉さんと何を話されていたんですか?」
「え、いや、その」
不意の問いかけに春人は言葉に詰まるも、陽葵はそれ以上の追求はしてこなかった。
その後、二人は売店で米菓とお茶と和菓子をいくつか買い、土方が待つ船室に戻る。




