第20話 第四惑星
「第四惑星と言えば潮汐固定が有名だな」
「ええ」
土方の言葉に席に備えられた端末で検索をしながら春人はうなずく。
潮汐固定、天体が常に一定の方向を向いたまま公転している。
このアマテラス星域の第四惑星は常に特定面を太陽に向いている。
検索結果が表示され、端末の前には第四惑星の全景が触ることが出来る立体映像として映し出されていた。
春人らはまるで地球儀を回すかのように宙に浮かぶ惑星の立体映像を動かす。
その惑星はまるで目玉のような見た目。だが、それは昼の側であり、そちらは常に日差しにさらされている。第四惑星にも海はあるが、その水は昼の側で暖められて蒸発して雲となり、大気は熱せられて対流が起きる。
また、反対の夜の部分は永遠に太陽が登ることはなく、凍てついた氷と極寒の大地の世界。
太陽面で熱せられた大気と極寒の夜側の冷えた大気が激しい対流を生んでいる。
アマテラスでは便宜上つけられた常に太陽に面している側を東極、その反対側を西極とよんでいる。
「ここ、まだ外では人がすめないんですよね?」
陽葵の言葉にうなずく春人。
「月と同じで、でかいクレーターに天井をつけて、そのなかで暮らしているみたいだな」
「そしてずっと日が沈まない」
「うん、今人が住んでいるのは昼と夜の境目、ずっと朝の地帯みたいだ」
「不思議」
「白夜みたいなもんだろう。もっとも俺は前世で北欧にいったことはないがな」
陽葵が映像をもっとよく見ようと立体映像の第四惑星を手に持って自分に寄せようとする。しかし、立体映像の出力可能範囲を出てしまったため、映像は霧散してしまう。
「あ」
「そういうときは自分の前にある端末を使うんだよ」
「ご、ごめんなさい」
苦笑する土方の言葉に顔を赤くしてうなずく陽葵は言われた通り自分の前にある端末を操作する、が。
「えっと、先輩。触れる立体映像の出し方ってどうするんでしたか?」
「それは」
春人は手順を思い出しながら陽葵の端末を操作する。
「あ、ありがとうございます」
再び出力された惑星の立体映像を、陽葵は物珍しそうに見ている。
三人がそうやって話をしているうちに船内放送が入る。
「まもなく月の周回軌道に侵入します。減速しますので着席し、体の固定をお願いします」
にわかに客室のなかが慌ただしくなり、他の参加者も客席に戻ってくる。
いつの間にか、窓の外に小さく見えていた灰色の天体が巨大になって窓の視界を遮っていた。
「月か」
森の緑も海の青さもない、殺風景な灰色の世界。それが窓の外に広がっている。
前世では遠くから眺めることしかできなかった光景が窓の外に広がっている、その事に春人は実感が湧かない。
しかし、そんな彼の気持ちなどお構いなしに船体がわずかに揺れ始め、しばらくして船は月を一周して着陸コースに入る。
「月はもっぱら外宇宙への中継基地と資源採掘、ゼフィル軍の拠点だな。
重力が小さいから衛星は常駐には向かない。居住区画には人工重力を発生させて体格の維持をさせている」
重力の小さな天体の居住施設では居住区へと人工重力装置の設置が義務付けられているのだという。
もちろんこの分コストがかかる。
「やっぱり地球みたいな星じゃないと駄目なのか」
「みたいだな」
減速した船は月へと降下していく。
中継港は大型のクレーターに蓋をした形式で周囲にマスドライバー設備と連絡船用の滑走路が併設されていた。
連絡船は噴射機(スラスタ-)で姿勢制御を行いながら滑空して滑走路へと着陸すると減速しながら惰性でクレーターの壁に大きく空いた地下発着場に吸い込まれていく。
地上とも宇宙とも違うふわふわとした体感に戸惑いつつ一同は連絡船を降り、乗り換えのためにロビーに向かう。
やがて視界が開け、広々とした空間にまばらに人々が行き来していた。
広い空間に幾重もの放射線対策が施された透明な壁から殺風景な月の地表と暗黒の空に浮かぶ太陽、そして第三惑星が見える。




