第14話 地球(テラ)からの移民
翌日。目を覚ますと傍らには制服姿の結衣がいた。
「おはよう!お兄ちゃん!」
昨日の事が嘘かのように元気よく挨拶をする結衣に春人の表情がほころぶ、
やっぱり夢じゃなかったんだな。
結衣の顔を見た春人は安堵を感じる。
これで三日目。
ゆっくりと身を起こし、辺りを見渡す。
変わらない病室の光景。昭和100年の文字が印刷された今年の日付表。
もはや春人の中でこの光景が当たり前になりつつある。
初めは見慣れなかった結衣の制服にも違和感がなくなっている。
「朝からどうしたんだ?学校は?」
そう言いながら春人は課題を取り出すとテーブルの上に広げ、こなし始める。
「それがね、話しておきたい事があって」
手早く春人の着替えを取り替えながら結衣が話しだす。
「昨日、家に帰ってから思い出したんだ。
私の学年にもその平行世界?の日本から転生した人がいるかもしれないって」
「え?」
その結衣の言葉に春人は課題をこなす手を止める。
「その子、女の子なんだけどね、前は明るくて誰とでも仲良くできる子だったんだけど、水泳の授業中に突然溺れて、それから人が変わったみたいに付き合いが悪くなって。
わたし、ずっと気になっていたんだけど、昨日の元帥閣下の話を聞いて閃いたんだ。もしかしたらあの子もお兄ちゃんと同じかもしれないって」
そうかもしれない。春人は昨日のユリウスとのやり取りを思い出していた。
「お兄ちゃん次第だけど、その子と話をしてみて、よかったらここに連れてきたいんだけどいいかな?」
そう聞いてくる結衣に春人はしばし考えてから答える。
「ああ、いいよ」
「うん、分かった」
そう言うと結衣は荷物をまとめ、学校に向かう。
朝食を終え、回診も終わった春人はベッドに横になって考えていた。
自分以外の転生者、いったいどんな人物なのか?妹の同級生の女の子との事だが。
春人はユリウスの言葉を思い出していた。
複数の平行世界の日本から転生者が来ている。
だとしたらその子のいた日本は自分とは違うのだろうか
「漫画やアニメみたいな世界から来ていたりして」
思わずそんな馬鹿馬鹿しい想像をしてしまうが、今の自分の境遇自体が漫画やアニメの世界のような非現実的である事を思い出し、なんとも言えない複雑な表情となる。
そんな春人の元に訪問者がやってくる。それは白髪頭の初老の老人であった。
顔に見えるシワから相当の年齢だろうが、その人物に春人は見覚えがない、
…いや、ある。
「春人よ」
「えっと、じいちゃん?」
恐る恐る尋ねた春人に老人は不快をあらわにする。
「なんだ?わたしの顔を見忘れたか?」
「い、いや。そう言う訳じゃないけど」
そう言いながら春人は記憶をたどり、目の前の人物のことを探り当てていた。
時任秀勝
自分たちの祖父、幼い頃に両親と共に地球から来た移民一世世代。
若い頃はこの星の開拓に従事しており、その頃の話をよく自分たちにしてくれていた。
「結衣から話を聞いている。安心しろ」
「結衣から?」
その言葉に春人は眉をひそめる。
確か他言無用といわれていたのに。
さすがに口が軽くないだろうか?
春人の表情から内心を察したか、秀勝は首を振る。
「結衣を責めるな。昨日病室に来たら面会謝絶と聞いてな、帰ってきた結衣に理由を聞いたのだ。
クアモデス殿からは他言無用といわれたそうだな」
春人はうなずく。
秀勝は厳しい視線で春人を睨む。
「お前は転生とやらで地球からきて、春人の体に宿ったそうだな」
「う、うん」
「疑うわけではないが、話してみろ。そうだな…世界大戦後の地球の歴史について聞かせてくれ」
そう言われた春人はためらいながらも前世、学校の授業で習った歴史のことを思い出しながらいくつかを彼に話す。
アメリカとソ連の対立、その中で核戦争一歩前まで行ったキューバ危機。戦後日本の繁栄と衰退。
春人は覚えている限りの事を祖父に語った。




