第11話 ゼフィル共和国の戦略
「本題に入ろう。今言った通り我々は一旦太陽系から手を引いたが、今後地球との再接触に備えてもいる。
そして君達転生者の知る地球の情報は、例え似て非なる平行世界の事であっても貴重で有益なものだ」
「…だからあなた達に協力しろと?」
戸惑いと不審の眼差しでユリウスを睨む春人。ユリウスも睨み返す。
「協力しなければ、不本意ではあるが君は今後一生我々の監視を受けるか、保護を名目とした療養所暮らしになる」
その厳しい言葉に春人は言葉もでない。
「それに地球への接触は君らにも無関係ではない。
我々は核戦争で地球の文化や生態系が失われる可能性を考え、地球人とその文化をこの星系に移植、保全することにした。
だが、地球の大国がこの星の事を知れば、君たち日本人が入植したこの地を地球人の領土と主張し、銀河系への足掛かりとして併合しようとするだろう。
それ自体はかまわない。だが、ここは我々が長年調査、管理していた星域だ。易々とくれてやるわけにはいかない」
にやりと不敵な笑みを浮かべるユリウスに凄みを感じ、恐る恐る春人は尋ねる。
「…易々とは?」
「我々の戦略さ。銀河系各地の居住可能な惑星を持つ星系を調査、管理し、必要に応じて銀河に進出してくる文明に対する取引材料にしている」
「つまり、もともとこの星はわたしたち地球の人が移住することを想定されていた、ということですね」
元々聞かされていたのか、独学で学んだのか、結衣の指摘にユリウスはうなずく。
「ああ。だが、それはあくまでも取引のためであって、善意でもなければ無償でもない」
「はい」
ユリウスの言葉にうなずく結衣。春人にはその様は上官と部下のそれに見えた。
「なんにしても、君たちはいずれ選択しなければならない。
我々の元に残るか、地球人の元に戻るか、またはどちらとも決別し、どちらも頼りにすることなく自らの力で生きていくか」
「そんな」
「また、地球と併合するとしても彼らが主導するか、君らが主導するかもある」
「それって」
「君らの方が地球を支配する可能性もあるということさ。
もっとも、今の双方の力を考えればそれは核戦争で地球が滅亡寸前にまで衰退すればだろうが」
銀河の遥か彼方でこのような話がされている事に春人の地球人としての部分が戦慄する。
「君が転生者として君が知る前世地球の情報をどう使うか。
無論、協力してくれれば相応の報酬を政府として出すが、協力しない、或いは敵対するなら相応の対処をする」
そう言ってユリウスは春人を睨み付ける。
その視線の鋭さに春人は思わず逃げ出したくなり、助けを求めて結衣のほうを見るが、彼女も戸惑っているように見える。
反論できずにいる春人にユリウスは表情を緩めると、
「とりあえずこれを渡しておこう」
ユリウスがそう言うと傍らに控えていた軍服姿の人物に顔を向け、頷く。と、その人物がが懐から封書を取り出し、サイドテーブルに置く。
「これは?」
「君ら転生者にこの世界を知ってもらうための視察の招待状だ。無論費用は政府が持つ」
二人は顔を見合わせ、ゆっくりと封書を開く。
文章は日本語で書かれており、今ユリウスが説明したことと同じことがかかれ、最後に連絡先として、このアマテラスでの異星文明調査局の連絡先が記載されていた。
封書をサイドテーブルに置くと結衣が躊躇いがちにユリウスに尋ねる。
「あの、その、元帥閣下。お兄ちゃん…兄は、これからどうなってしまうのですか?」
不安げな結衣、ユリウスは笑みを浮かべてうなずく。
「心配はいらない。我々が知る限りでは多くの場合、転生者は元々の人格とは記憶も人格も統合され、次第に一体になっていく。
彼は転生前の記憶を持っているが、やがて今までと変わらなくなるだろう」
「そう、なんですか」
結衣の反応は歯切れが悪い。
そうだろう。昨日から兄と疑わず懸命に世話していた相手が実は他人になっていたかも知れないのだから。
「でも、どうしてお兄ちゃんが」
「さっきも言ったが、我々は転生者に聞き取りをしている。そこから得られた情報からの仮定だが、どうやら転生は平行世界の自分自身か、近親者に限られていて他人に転生しているわけではなさそうだ。
また、事故や流行り病など、自然死以外の理由で命を落としている場合がほとんどだ」
「そう、なんですね」
そう言うとちらりと春人の方を見る結衣。
「後、この話は他言無用になる。理由は」
「…それは、わかります。無用な混乱を避けるためですよね」
どことなく肩を落としたまま答える結衣。
ユリウスはうなずく。
「では返事をまっている。焦らずじっくりと考えてくれ」
そう言ってユリウスは供を連れて病室を去っていく。その後ろ姿を結衣は敬礼で見送っていた。
その間、春人は彼に言われた事について考えていた。




