第10話 地球(テラ)が持つ危険
彼女もまさか春人がそんな危険さを秘めていたとは思わなかったのか、目を白黒させている。
「でも、いや、そもそもどうして連れてきたんですか」
戸惑い、混乱のなか春人はユリウスに問うと、彼は眼差しを鋭くし、冷静に答える。
「核戦争が起きても地球人類、ひいては地球の文明を滅びないようにするためさ」
ユリウスのその指摘に再び春人の動きが止まる。
「我々は地球で核兵器が実用化された、第二次世界大戦と呼ばれる大戦争の後、地球側と接触を図った。
だが、幾度かの交渉の末、我々は満足のいく妥協点を見いだせず交渉を打ちきり、太陽系への干渉を最低限の監視と記録にとどめた。
その際、当時の日本政府とも交渉し、戦後彼らが進めていた南米への移民団の一部を我々が引き受けることにした。そうすれば仮に核戦争によって地球全土が荒廃しても地球人自体は生き残ることができる。
そうして君たちはこのアマテラスで我々ゼフィルが得た情報のもと、地球文明の再現、生態系の移植を行っていた」
「そんな勝手なことを。そんなこと一体誰が望んだんですか!」
ユリウスの言葉に思わず声を上げる春人、だが。
「お兄ちゃん!」
とがめるような結衣の声が響く。
「な、なんだよ」
だが、自身を睨み付けている結衣の視線に春人は声がでない。
しかし、ユリウスは冷静に春人を見つめて問いかける。
「では、君たち地球人が核戦争によって絶滅するのを眺めていた方がよかったと?
一握りの人の暴走によって何億のもの人々が阿鼻叫喚のなか、死に絶えるかもしれないのを黙って見殺しにするべきだと?」
その指摘に春人は前世の学校の授業で習った原子爆弾の悲惨さを思いだし、言葉を失う。
しかし、ユリウスはさらに続ける。
「それとも我々が地球を武力で制圧し、彼らから腕ずくで核兵器を取り上げるべきだったか?」
その指摘に春人は反論の言葉が出てこない。
「我々は長きにわたり、この銀河系にすむ知的生命体の同行について調査を行い、必要なら外宇宙進出の手助けをしてきた。
だが、そのなかで文明を発展させながらも、文明、そして自分達自身をも滅ぼしてしまう例もある。
その理由として多いのが、核兵器だ」
その指摘に春人の息が止まる。
「今、この銀河に存在する多くの国は一度ならず自分達の手によって自身を滅ぼしかけた歴史を持っている。再三のこちらからの警告にも関わらずな」
ユリウスの視線はより厳しくなり、春人は迫力にのまれそうになる。
「だから、地球人が核技術を兵器として実戦使用したことを我々は危惧し、大戦後地球の大国、アメリカ合衆国やソビエト連邦政府に接触を計った。
だが交渉はまとまらず、我々は太陽系から撤退し、代わりに監視を強化した」
ユリウスの視線は鋭いままである。
「それから数十年、幸い地球は未だ核戦争になってはいないが、大量の核兵器をもつ彼らの存在はかつて核兵器によって滅びの道を歩みかけた国にとっては脅威となりうる。
世界大戦から数十年で地球の二大国による緊張状態は表向きは解消されたが、それでも危険がなくなったわけではない。
核の真の脅威を認識し得ない地球の大国の存在はこの銀河に存在する国にとっては潜在的な脅威なのだ」
そこでユリウスは言葉を切り、一息つくと続ける。
「自分達の星を滅ぼしてあまりある核兵器を持つ地球人は己の手で破滅を迎えない限り核戦争を起こす可能性は常にある。
そんな地球人が持つ核の抑止力が暴走したとき、あの時点での我々ができることは、残念ながらこのくらいだったからな」
沈黙が病室を支配する。黙ったままの二人にユリウスは頭を振る。
その指摘に春人は前世の学校の授業で習った原子爆弾の悲惨さを思いだし、言葉を失う。




