再臨②
このゲームには、二つの死がある。
モンスターに殺される死と、プレイヤーに殺される死だ。
そしてどちらも等しく
アカウント削除。復活はない。
だからこそ、誰もが慎重になる。
だからこそ、PKは忌避され、恐れられる。
だが
それでも、殺す者はいる。
一周目、塔の十七階層。
青白い結晶が天井に浮かぶダンジョンで、ミナトは男を追い詰めていた。
HPは赤。
逃走スキルはクールタイム中。
詰みだ。
「……頼む」
男は武器を捨て、膝をついた。
石床に額を擦りつけ、声を震わせる。
「殺さないでくれ……!
代わりに……代わりに、知ってることを全部話す……!」
ミナトは剣を下げた。
それだけで、男の顔が一瞬だけ緩む。
「ユニークアイテムだ……!
条件が狂ってる……誰も持ってない……!」
必死だった。
嘘か本当か、本人にも分からないほど。
「《狂相の仮面》……!
本当かどうかは知らねぇ……俺も聞いただけだ……!」
男は涙と鼻水を垂らしながら、叫ぶ。
「条件は……50時間だ……!
50時間、一緒に冒険した仲間を……
自分の手で、殺す……!」
ミナトは、黙って聞いていた。
そして――
笑った。
「あは……」
喉が鳴る。
「あはははははははははははは!!」
男が怯える。
「最高じゃん……そんな条件」
ミナトは心底楽しそうに言った。
「それ考えたやつ、
人の心が分かりすぎてる」
「……だ、だから……!
教えた……!
殺さないって」
剣が閃いた。
言葉は、最後まで届かなかった。
(本当かどうかなんて、どうでもいい)
「でさ、この階層、環境デバフきついよな」
二周目、第一層。
まだ塔の入口に近い、安全圏。
ミナトの隣を歩くのは、さっき話しかけてきたプレイヤー軽装の剣士、リク。
「寒さ耐性ないと、
後半ジワジワ削られるらしいぜ」
「へぇ……詳しいね」
ミナトは微笑む。
人当たりのいい、優しい笑顔。
「前に来たことあるんだ」
「へぇ、ベテランじゃん。
じゃあ一緒に登ろうぜ」
その言葉に、ミナトは内心で笑った。
(慎重だな)
(簡単には信用しないくせに、
完全には疑い切れてない)
それが、この世界の“普通”。
二人は距離を保ち、
スキルの情報も半分だけ開示し、
無理な戦闘は避けて進む。
疑いながら、協力する。
この世界では、それが正解だ。
「……そういえばさ」
ミナトは何気なく口にする。
「このゲーム、
変装系の装備って知ってる?」
「噂レベルなら。
でも条件が狂ってるとか聞いたな」
ミナトは、楽しそうに頷いた。
「だよね」
(50時間)
(まだ、始まったばかりだ)
ミナトは剣を握りながら、
隣を歩く“仲間”をちらりと見る。
優しくて、
嘘つきで、
人を騙すのが大好きな男は
今日も何食わぬ顔で、
塔を登っていく。




