第4話 即興劇の主演
――ピピッ
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「は、働くなんて聞いてません!」
働くなんて聞いてない。彼が話さなかったのだから当然であるが。でも、僕には死後の世界でやらなければならないことがある。
「僕はこの天上の世界で待っている家族に謝らないといけないんです」
すると、彼は溜息を吐く。
「そうだね、アズマ君にはこの世界の死のシステムについて教えないと。がっかりさせるかもしれないけれど。まぁ、本来俺が教えることじゃないから下手かもしれないけど許してね」
そう言って彼と僕は桟橋に腰掛け、彼は宙に浮かぶ液晶のようなものを使いながら僕が理解するまでこの世界における死のシステムについて教えてくれた。それを以下にまとめておく。
まず、空の体に魂が宿ることで誕生し、肉体が機能しなくなると魂はこの天上の世界にワープさせられる。そして魂の記憶はこの天上世界にてリセットされ、新しい肉体へ宿り地上世界へと帰っていく。だからもう僕の家族の魂はここにいないとのことだ。
魂の記憶をリセットするには、未練を最小限にしなければならない。未練を抱えたままだと記憶のリセットに魂が抗ってしまう。その結果、前世の記憶を持つ人々が稀に存在している。未練を果たすために、天上世界は2つの方法を提示している。
1つ目は人生を自分の思うがままやり直すというもの。そして2つ目が異世界転生。元々は「もしも」のパラレルワールドのみしか対応していなかったが、今は地上世界とは完全に異なるフィクションの世界の利用がメインになっている。しかし、フィクション世界はオリジナルバージョンしか対応していない。そこで必要になってくるのが、死者の魂が望むようにフィクション世界の「もしも」を作り出す存在。
それこそが、僕が今後所属することになり、ミストが係長を務める「異世界転生観測係」の役割だ。ほとんどの未練は軽い手直しで果たせるようになるが、中には直接そのフィクション世界に出向いてまで世界の設定を覆す必要がある。主な業務がその世界への介入に当たる。これら2つを合わせて「観測」と呼ぶようだ。
家族に会えないということは理解できた。理解はできたが、今までに感じたことのない悔しさを感じているのも事実だ。
でも僕は今わくわくしている。この異世界を観測するという行為に。普通の魂であれば1つの世界しか体験できない。でも、僕は違う。僕は多くの世界を渡り歩くことができる。そして僕は観測という行為を通じて即興劇を演じることができる。どんな神様がどうして僕を招いたのかは分からないけれど、神様から役割を与えられた以上、全うしなければ。神様は適材適所が上手いだろうから、きっと大丈夫だ。
僕は本来楽観的とは言えない性格の持ち主だと思う。でも、死後ハイと言うべきなのだろか、未だに長い夢を見ていると感じているのだろうか、なんだか判断が鈍ってきている気がする。今後は働くことになるのだから、ふわふわした気持ちを抑えないと。
「よろしくお願いします」
全てを受け入れた証として僕はミストもとい係長に深くお辞儀をした。彼が「係長」と呼べと言ったのだから、そう呼ぶしかないだろう。まさかこんな胡散臭い人が自分の上司になるとは思ってなかった。案内役だったら良かったことか。
――ピピッ
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