第3話 図書館
――ピピッ
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「次はさっきのタイトルの2巻を頂戴」
「これで合ってる?」
私達は1冊ずつ書物を片付けていった。あとはこのタイトルを巻の順に並べるだけ。
「ねぇ。失礼を承知で聞くけど、いつものあんたはどこに行った訳?」
私は生易しい訳ではない。この手伝いの対価として、その答えを求めた。これくらいは許されるだろう。
「こっちの僕の方が本物だよ。君以外には隠し通せてるはず......たぶんだけど。この時間の図書館にはあまり人がいないから、少し油断をしていたみたい」
こっちが本当の姿?であれば、一体何のために?これ以上聞くのは野暮だろうか。それとも、聞いて話すことで彼は救われるのだろうか。
「別に、今のあんたでも何もおかしくないじゃないの」
むしろ、私としてはあのフェーレスよりも、こっちのフェーレスの方が好ましい。やたら派手な動作、派手な言動をすると思っていたが、やはり無理のある演技だったようだ。なんだか、それに安心してしまう自分がいた。
私は教科書通りのいい子ちゃんになる気なんてなかったけれど、自分の欲望を割り切って考えられる優秀な「相棒」だと思っていたのだ、彼のことを。でもその実、彼は咄嗟の出来事には対応できず、さらには偽りの仮面まで被って自身を隠していた。
「アルタさんには分からないよ、僕のことなんて!」
これまでとは違う、やや強い口調でそう返された。
「別に理解をしたいだなんて思ってないわ。私は……、そうね。あんたが完璧な存在じゃないと知って安心しただけよ」
フェーレスに最後の一冊を渡された。やや隙間が狭く、紙に皴がつかない程度に書物を押し込む。
「だけど、無理しない程度にはしなさいね。はい、ただいまを以てこの数分間の記憶が消えましたー。さようなら」
私はそう言って離れようとするも、フェーレスに袖の裾を引っ張られて引き留められた。
「なぁに、優等生のフェーレス君」
「そういうの、やめて欲しい。それから、本物の僕のことは忘れなくていいよ。むしろ、忘れないで」
彼は何を言っているのだろう。本物の自分のことが嫌いだから、ああ振舞っているのではないのか。だとすれば、私が彼の本当の性格を忘れてしまってもいいんじゃないだろうか。私には、彼のことが理解できない。
「でもあんたはその『本物の僕』を皆に隠したいわけでしょ?ならいいじゃない、私が見なかったことにしても」
「別に隠したいわけじゃなくて……」
「ちょっとハッキリ言いなさいよ!」
思わず大きな声が出てしまう。図書館で出していい声量ではない。そもそも、図書館は相談に乗るのに相応しい場所ではないし、いつ誰が現れるか分からない状況で彼の姿を晒し続けるのはリスクが高すぎる。
「ごめんなさい、大きい声を出しちゃって。ともかく場所を移動しましょう」
恐らく相談に乗っていたら、次の授業には間に合わない。彼も同じ授業だ。あまり目立ちたくはないけれど、背に腹は代えられない。さっさと相談に乗って解決して縁を切ってしまおう。
――ピピッ
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