第3話 カーテンコール
――ピピッ
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小舟に軽い衝撃が走り、進行方向を変える。今までは流れに任せるままだったのに、徐々に岸の方へと引っ張られていく。軽く起き上がってみると、舟の先端に縄が巻き付いている。どうやら先程の音はこの縄が空を切る音だったようだ。
徐々に岸辺が見えてきた。縄で小舟を引き寄せている人物も見える。若い白髪の男性だ。もしかして、僕が勘違いしているだけで異世界トリップなのだろうか。
トンッと軽い音を立てて小舟は止まった。
「紫色のアネモネ……か。君に相応しい花だね、アズマ君。そうだ、まずは俺から自己紹介しないといけないよね。はじめまして。俺はミスト。君を迎えに来たよ」
そう言って謎の人物は僕に手を差し出した。名乗られたところで何も分からなかった。それに、彼はなぜ僕の名前を知っているのだろう。
「あれ、船酔いでもしちゃった感じ?でもその体勢からのおんぶはちょっと年寄りにはキツイかなぁ」
なかなか僕が手を取らないからか、ミストと名乗る人物はそう呟いた。が、断じて僕は船酔いをしていない。ただ単に、状況を呑み込めていないし、彼を信用できていないのだ。というか、その若い見た目で年寄りとはどういうことだろうか。やはりここは異世界なのか?フィクションの世界なら見た目と年齢の不一致もありえる。
「貴方は何者ですか?」
ここがどこかも知りたかったが、相手の正体を聞けば自ずと見えてくるだろう。
「あっはは、懐かしいな。君の遠い親戚も『お前は誰だ』から始まったんだったっけ。詳しい事は道中に話すからさ、一旦小舟から降りない?」
どうやら僕を連れ出すことが優先なようだ。というか、僕の遠い親戚ってどういうことだ?疑問が増えただけで何も解決しない。
仕方なく僕は彼が差し出した手に体重をかける形で立ち上がれば、そっと桟橋のようなところに引き上げられた。細身でおんぶはしたがらないくせに、割と力はあるようだ。
「じゃあ、着いてきてくれるかな。俺のこと、胡散臭いと思ってるだろうけど」
彼が歩き始めたので、僕は取り敢えず胡散臭い彼の後に続いて歩くことにした。彼が自称するように、確かに彼は胡散臭い。何がどう胡散臭いのかは分からないが、全身からオーラが漂うというか、匂うというか。
「ここは天上の世界。地上の世界とは別次元にある、死者と神と、神に選ばれし『神援者』が存在する世界だ。で、俺も君も神援者ってわけ」
成程、異世界ではないみたいだ。神援者というのはきっと、神話でもよく登場する神に攫われて側仕えみたいになる人々のことなのだろう。であれば、彼がその神なのか?いや、彼も神援者であると自称していた。なら誰が僕を選んだんだろう?
「ちなみに俺は2500年くらい前からここにいるよ。俺は生前歴史家だったからさ、地上の歴史をずっと見続けたくてね。そうしたら歴史を司る神様がずっとここに居ればいいって言ってくれたんだよ」
2500年近く生きている……!?だから彼は年寄りを自称しているのか。
「今はめっきり歴史を研究する機会なんてのは減っちゃったけど。1800年くらい前に発足した新しい部署の初期メンバーに選ばれちゃって。ちなみにアズマ君は今後そこで働いてもらうことになるよ」
――ピピッ
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