第21話 勇者のためだけの歴史書
――ピピッ
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僕が先程作業していたヴェスティの書斎に戻れば、あちらこちらに本と紙の山ができていた。書斎の中には係長とアルタ姉さん、そして先程別れたばかりのリアスがいた。ヴェルスは別の場所を捜査しているみたいだ。
「いやいや、汚くしちゃってごめんね。俺、死因が歴史書が詰まった本棚による圧死だから固定されていない本棚を見ると不安になっちゃってさ」
そして係長は、きちんと場所の写真は記録してあるから好きな資料読んで手がかりになりそうなものがあればまとめておいてと告げ、自身の作業へと戻っていった。
さて、何から読もうか。表紙のタイトルを見るも、その多くには勇者らしき名前とこの本がインタビュー記録であることしか伝わってこない。途方がない地道な作業になりそうだ。
フィクション世界の本も何らかの別の形で天井図書館に収蔵されていればよかったのに。そうすれば、本の内容のすべてが全知全脳システムに記録され、簡単に知りたい情報だけを取り出すことができたのにな。少々残念だ。頑張るけど。
どんどん時間は過ぎていく。いつの間にか本の調査にヴェルスも加わって、全員で黙々と読み進めていく。もしかしなくても、ヴェスティの書斎史上最も人口密度が高いのでは?
どこか遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくるまで、その作業は続いた。時計を見るに、もう朝になってしまったようだ。宿屋に心配をかけていないといいけれど。じゃないと泊まり逃げ犯になってしまう。
以前の魔王が作ったとされる「不滅の罠」についての情報がまとめ終わった。ただ、個人によってまとめ方が異なっていたため、一度情報を全知全脳システムへ送り、フォーマットを合わせて再度吐き出してもらう。なんだか生成AIみたいだ。原理が似ているというのもあるけれど。
そして、吐き出してもらったものを係長が生み出した紙に複写。そして、ユー用と保管用の2種類の歴史書が完成した。あとはこれをユーに届けるだけ。お願いだから、まだ街を離れていないでくれ。
「やっと完成しましたね!早くユーの元へ行かないと」
「そうね、街にいたとしても見送りのパレードを実施するとしたら話しかけれないもの。ミスト、ステルスの錬金術をお願いしてもいい?」
係長はもちろんと自信ありげに頷いた。ステルスか……。錬金術を極めれば、そんなこともできるようになるみたいだ。
「とにかく煙突から外に出て。話はそれからよ」
僕達は急ぎながら煙突から外に出る。皆がそろったのを確認してから、アルタ姉さんは急にグリフォンの姿になった。そして、背中に乗りなさいとでも言うように、ガウッと泣きながら嘴で背中を示した。
「失礼します……」
「相棒」とはいえ、レディの背中に乗るなんて申し訳ないな。にしても、思ったより背中は固くなく、居心地が良い。暖かいし、このまま寝れてしまえそうだ。
全員が彼女の背に乗れば、翼をはためかせて空へと飛びあがった。
「アルタ君、ステルスの錬金術かけておいたから昨日の門の近くに降ろしてくれる?」
アルタ姉さんは鳴き声で返事をし、空高く舞い上がった。
かなりの高度を飛んでいるからか、景色がよく見える。街も見えるし、以前立ち寄った小屋も見えた。もちろん魔王城も。ヴェスティ、待ってて。すぐに本物の勇者を連れてくるから。
――ピピッ
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